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目には目を3

「もういい加減にしてくれ。」


 電話はひっきりなしに鳴っている。

 電話口から聞こえてくるのは、脅迫めいた怒号。

 心がすり減るどころの話じゃない。


「とっとと無駄な電話を切れ!仕事にならんだろう!」


 怒鳴っても何も状況は変わらないのに、上司は怒鳴り散らしている。

「うるせーよ、怒鳴ったって電話が鳴りやむわけじゃないだろう。っていうか、てめえも電話取りやがれ!」

 腹の中で悪態をつきながら、丁寧な口調で電話に対応する。けれど、どれだけ丁寧に話しても、相手は聞く耳を持たない。ただ単に正義という大義名分のもと、堂々と人を非難できるこの状況を楽しんで連絡している奴らなのだ。こちらをサンドバックにして憂さ晴らしをしている人間に何を言っても意味がない。切りたいが、切れば即折り返しの電話がかかり、切ったことを延々と非難するのだ。


 異変があったのは、月曜日の朝。突然だった。

 出社した人間が見たのは、鳴りやまない電話の赤ランプと、地面に落ちたFAXの山、FAX用紙切れのオレンジランプだった。

 どの電話も、留守電のメモリーはいっぱいになっており、再生されるのは延々と続く怒号の嵐だった。


「なにが起きてるんだ?」

 出社した者たちで必死に原因をさぐった。


 留守電の内容から、何らかのネットの情報が騒動の発端であることは分かったので、必死に情報源を探る。

 始業時間になれば、電話対応で今日の仕事はクレーム対応で終わってしまうだろう。その前に対応を練っておかねばならない。


「あ、これじゃないですか?」

 一人の女性社員が声をあげた。

 みんな周りに駆け寄る。

 彼女が差し出した携帯の画面には、

「ヒ素を垂れながし?ずさん産廃業者の闇!」

の文字。


「なんだよこれ。」


 URLをシェアして、それぞれ読む。


 どうやら何処かの暴露系Youtuberのところに、不法投棄からヒ素が流出しているというタレコミがあったらしい。その配信がきっかけになって、産廃業界全体がやり玉に挙がっていた。


「なんで不法投棄から、産廃業界全体が責められる流れになってんだよ。」


 原因は、ネットのまとめ記事だった。

 ネット配信中に不法投棄の現場がいくつか流れたらしいのだが、特定厨がその現場を一つひとつ暴いていったらしい。その中に産廃業者の敷地内の映像も流れていたらしく、「産廃業者やばくないか」という話になったらしい。


「暇人かよ!」

 何人か悪態をついていたが、今はそんな暇はない。



「これって、炎上・・・だよな・・・。」


 はっきりわかったのは、ここが炎上に巻き込まれたこと、沈静化するまで、非難の目にさらされるということだった。しばらくはその対策で仕事にならないいだろう。

  それに、いつ鎮静化するのかわからない・・・。

 とにかく、対策を練らないと。


 それかららは、怒涛の仕事量だった。


 まずは、うちが国からの認定を受けている優良企業であることをアピールしなければならない。

 環境に配慮した事業計画を提出して視察も受け入れていること、リサイクルに際して徹底的に配慮していること等々、HPの最初に黄色枠に赤い文字でアピールする文書を追加した。それから、事業計画や前年度、国の厳しい基準をクリアしているデータをHPのリンクをトップにに貼りなおした。まずは防衛策をとるしかない。

 電話口では、いかにうちが優良な企業か、産廃処理にあたっ、国の基準をしっかりクリアしていることを伝えられるように、文言を精査した対応マニュアルを作成した。

 余計なことは一切言わず、こちらは清廉潔白な事業者で、特定された悪徳業者とは違うということをしっかり伝えることを意識した。

「あいつらのせいで、こんな迷惑をこうむっているんだ。遠慮なくあいつらをこき下ろしてやる!」


 無理やり笑顔を作って次の電話にでる。

 怒号が聞こえるが冷静に冷静に。俺たちはロボットだ!


「ご心配をおかけし大変申し訳ございません。うちは国の基準をクリアした企業です。詳しくはHPをごらんください。」

 訳のわからないことを言っているが、心を無にして聞き流す。

「私共は、あのような国の認定を受けてもいないようなずさんな管理をする会社とは違います。」

 

 業界全体に迷惑かけやがって。

 徹底的に悪者にしてやるよ。



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