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悪い奴らは罰せられなければならない5

 電話に出たキジタニは疲れ切っていた。

 「ああ、聞いたのか。」

 キジタニの親父さんの様子を聴いた俺に、キジタニはため息をつきながら答えた。

 

 リカーショップKIJITANIのHPに、嫌がらせめいた問い合わせが届くようになり、おかしいと思ったキジタニが調べたところ、リカーショップKIJITANIのことを書いたSNSのつぶやきが見つかったらしい。

 「他店よりも高い価格設定の酒屋」と書かれてあったそうだ。添えられている写真には店内で撮影された価格のPOPと、他店のPOPが並べてあったらしい。他店のPOPは激安に値引きされたものばかりで、あくまでKIJITANIの価格は定価の適正価格だ。

 しかし酒の定価を知らない人が見たらKIJITANIの酒は高く見えるだろう。様々な他店との比較写真が何枚も何枚も貼られ、誤解されるようなつくりになっていたらしい。

 載せられている酒の価格があくまで適正だという酒好きたちからのレスがつきはじめた頃にアカウントはすぐに消されたらしいが、レスを読まなかった人に悪影響を与えるには十分だったらしい。どれだけ適正価格だと言っても、不正を暴かれて慌てて変えたんだろうとか、他店よりも高いのはおかしいという意見も寄せられ炎上状態になったのだという。

 村の人たちが違うと言って回っても、町の人間たちは面白おかしく騒ぎ立てたらしい。


 キリタニがスクショしていた画像を送ってくれたが、知らない人間が見たら高く見えるように巧妙に作られたのがよくわかる。ただ、ちゃんと調べれば定価だとわかるのだ。そして一番腹が立つのは、どこにもリカーショップKIJITANIのことを悪く書いた文言がないというところだった。ただ、「他店よりも高い」と書かれてあるだけだった。これではアカウント作成者に開示請求をしたところで言い逃れができるのは明白だった。「高い」と思った感想をただ書いただけだと言われれば、こちらは攻めようがない。うまい書き方だった。

 俺は怒りがわいた。そこに移っているKIJITANIの価格POPは、すべて俺が書いたものだったからだ。

 「このアカウントを誰が作ったのかわかったのか?」

 「暴くには時間と金がかかるってさ。」

 キジタニは悔しそうに話した。無料の法律相談に行って聞いてみたが、金がかかる上に、他店よりも高いと書かれてあるだけのつぶやきでは悪意を立証するのは難しいと言われ、親父さんたちは断念したらしい。

 その代わり、その記事に冷静に反論するアカウントを作り、自分たちに非がないことを訴えたそうだ。おかげで炎上は収まってきたそうだが、注文は激減してしまったらしい。リカーショップKIJITANIの経営はとたんに厳しくなってしまったそうだ。

 さらに炎上中にキジタニの親父さんが産廃処理に反対している活動家だという記事が拡散され、反対派の人間がさも悪いように書かれるつぶやきまで見られるようになったらしい。

 反対派の一部からは、キジタニの親父さんが反対派のリーダーにならないほうがいいのではないかという意見が出てきているらしい。キジタニの親父さんは経営が悪化したことにも誹謗中傷を受けたことにも参っているらしい。明らかに元気がなくなっているそうだ。


 「できすぎてる。タイミングがよすぎだろ。」

 俺は思ったことを口にした。

 「俺たちも、産廃推進派の仕業だと思ってる。ただ、証拠がない上に悪意の立証もできない。泣き寝入りだよ。」

 

 最初に燃料を投下すれば勝手に燃え上がるのがネットの怖さだ。その後のリカーショップKIJITANI関連のつぶやきは別の人間が入り交じり、たくさんの人によって書かれ、拡散していた。実際、キジタニの親父さんが反対派のリーダーであることも、初めのアカウントとは別の人間が書き込んでいる。キジタニの親父さんを知っている人たちが勝手に燃料を追加し、祭りに仕立て上げたのだ。


 ひどく卑劣なやり方だった。そして、最初の人間を特定しても責任を追及できない実にうまいやり方だった。

 自分の手をほとんど汚さず、周りを巻き込んで相手を追い詰めたのだ。

 

 「なんて汚いやり口だ…。」

  俺は絶句した。そして決意した。

 「こんなことをして、ただで済むとは思うなよ。」



 

 

 

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