6.久しぶりの夜会と再会
「ミレーナ、綺麗だよ」
「ありがとう、お父様」
久しぶりにコルセットでギュウギュウと腰を絞ると、これまた苦しく重いドレスを見に纏い、久しぶり履くハイヒールの靴に転びそうになった。
ジャラリと重く冷たいネックレスは、父がミレーナの帰国を祝って作ったとても豪華なものだった。
冒険者として活動していたミレーナは体力もあり、引き締まった体だった。得意のカーテシーも全くブレることなく綺麗にできる自信がある。
それでも、それを一番見せたい人に見せることができないことが悲しかった。
学園時代に酷いことをしてしまったみんなには数ヶ月かけて謝罪に伺ったし、あの時お金を分け与えてくれた御者のおじさんにもお礼をしに行った。
簡単に許してもらえるとは思っていないけど、あのミレーナが質素な服を着て爵位の低い者や平民にまで頭を下げたと世間がざわついた。
お友達もできて、お茶会にも誘われるようになったし、改心したのであればと釣り書きも届くようになった。
それでもミレーナの心はいつも寂しかった。
馬車に乗り久々に王城の夜会へ出席することになった。ミレーナが過去に迷惑をかけた者たち全員に謝罪するまでは夜会に出ないと頑なに言い張ったため、夜会に復帰するのまでにはかなりの時間を要した。
ふぅ〜
「ミレーナ、久々の夜会で疲れたか?」
「ええ、そうね」
怜奈の記憶がない頃は、夜会はとても楽しかった。でも今は楽しくない。こんなところで笑顔を貼り付けて誰かも覚えていない人に挨拶をして回るのも、好いてもいない男性と踊るのも退屈だった。これならフロリアーノと一緒に森を駆け回っている方が楽しかったと思った。
「レディ、よろしければ一曲踊りませんか?」
ーーまたダンスの誘いか……
久々にハイヒールなど履いて踊ったものだから、足は痛いし、お腹は締め付けられて苦しいし、笑顔をずっと貼り付けているのは表情筋も疲れるんだ。そう思って笑顔を作って振り向くと、ミレーナの瞳からは涙が溢れた。
「フロリアーノ、様……」
「ミレーナ、迎えに来たよ。遅くなったな」
ポロポロと涙を溢し始めたミレーナに父はオロオロしながらもハンカチを差し出した。
冒険者ギルドで各国で魔物討伐に尽力したという証拠を集め、その証拠を元に各国の王から減刑を願い出る書状を書いてもらい、ミレーナの国外追放取消しのために動いてくれたのがフロリアーノだということは分かっていた。
ミレーナはフロリアーノにお礼を言いたかったけど、みんなに謝罪してから、陛下にも今日の夜会で謝罪をしてからと決めていた。
だから、ここにフロリアーノが来ているなんて思いもしなかった。
「ミレーナ、ドレスで着飾った君も素敵だ」
「フロリアーノ様もとても素敵です」
「ミレーナ、俺のこと好きになったか?」
あの毎日の挨拶のようにされた質問。それが懐かしくてくすりと笑って、ミレーナは堂々と言った。
「ずっと前から好きですよ」
「結婚してくれる?」
「もちろんです」
(完)
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