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⑥ 悪役令嬢の願い 後編

 


「探したよ……シロエ」

『……ヒュース殿下……。申し訳ございません』


 私の姿を目にすると、安堵の色を浮かべた。彼の額や頬には玉の様に汗が浮かんでいる。私が居なくなったのを必死に探してくれていたようだ。その行為を嬉しく思うが、私は彼の汗を拭うことさえ出来ない。それがもどかしくて仕方がない。


「……僕は君に謝らせてばかりだね。かっこ悪くてごめん……」

『……つ、そんなことありません。殿下は常にカッコ良くお優しいです!』

「でも、本当は城下町に詳しくなくてね。シロエが行ってみたそうだから調べただけだよ」

『……え? 私、お話ししていましたか?』


 ヒュース殿下は以前から調べていたと告げるが、私が城下町を遊んでみたいと殿下に話した覚えがなく。私は首を傾げた。


「馬車に乗っている時や、学園内で城下の噂を聞くと目を輝かせていたよ」

『っ! え……そんな……お恥ずかしいです……』


 その時を思い出すように、穏やかな表情を浮かべる殿下。止まった筈の心臓が五月蠅く脈打ち、顔が熱くなる。


「好きな相手のことならどんなことでも気になってしまうよ」

『なっ!? ヒュース殿下!?』


 ヒュース殿下は、私へとゆっくりと近づいてくる。彼の言葉に肩が跳ねた。


「僕の本心だよ。初めて出会った時から、会えば会うほど好きになった」

『……で、殿下……』


 これ以上は聞いてはいけない。彼と私は決して超えられない壁がある。


「婚約者としてだけでなく、一人の男性としてシロノエールを愛している」

『……っ……』


 真剣な表情で告げられた言葉に息が詰まる。何故、今更本心に気が付いてしまったのだろう。胸が痛い程に締め付けられる。だが、これ以上私が彼の心に居座る訳にはいかない。

「……っ、シロエ……」


 殿下は私の体が足元から消え始めていることに気が付く。きっと殿下の本心を聞く事が出来た為、心残りが消えたからだろう。私は殿下へと笑顔を向ける。


『今まで、本当にありがとうございました。ヒュース殿下と過ごせた日々は幸せでした。如何かお健やかにお過ごしくださいませ。この国の繁栄と安寧を遠くからお祈りしております』

「駄目だ……行かないでくれ!」


 別れの挨拶を口にする。せめて最後ぐらいは、淑女としてありたい。


『……私もヒュース様のことを愛しておしました』

「待ってくれ、シロエ!!」


 本心を告げると、私の意識は眩い光に包まれた。


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