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⑤ 悪役令嬢の願い 中編

 

「……やあ。こんにちは、アーリ」

「こんにちは……お買い物ですか?」

「嗚呼……まあね」


 アーリの突然の登場に驚きながらも、爽やかな笑みで対応するのは流石である。彼女も軽装なことから身分を隠して市場に買い物をしに来たようだ。如何やら彼女にも私のことは認識出来ていないようである。


「お出かけになられる程、お元気になられて良かったです」

「ありがとう」

「おや? お兄さん、もしかして……その人が恋人さんかい?」


 店主が二人に向かって声をかけた。店主の明るい声とは裏腹に、私の心は急速に冷める。


「……っ、ち、違います! 私はただの学友で……」

「あはは……そうですよ。友人ですよ」

「そうなのかい? 勘違いして悪かったね」


 私を認識出来ない店主に悪気はないのだろう。しかし、傍から見れば、二人はお似合いだ。私が生きていれば、このような勘違いもなかっただろう。だが全てが遅い。もう時間は戻らない。


『……嫌だな……』


 何故、私は彼の隣には居られないのだろう。私の本当の心残りに気が付いてしまった。ヒュース殿下とアーリが会話をする姿から目を逸らし、私はその場から逃げ出した。



 〇




『はぁぁ……』


 夕暮れに染まる城下町を見下ろしながら、私は時計塔の上で溜息を吐く。ヒロインであるアーリは悪い子ではない。それだというのにヒュース殿下への想いを自覚した途端に、嫉妬から逃げ出すなど公爵令嬢失格である。その為、一人反省会中だ。


『……失ってから大切だと気付くとは言うけど……今更過ぎるわ……』


 本当に今更過ぎるのだ。幽霊になってから、殿下への恋心に気が付くなど遅すぎる。いや、私は悪役令嬢だからと言い聞かせて、自分の本心から逃げていただけである。これが私の本当の心残りだ。


『殿下は王城に帰られたかしら?』


 殿下に何も告げずに離れてしまったが、私が見つからなければ成仏したと思うだろう。何せ彼には、城下町で遊んでみることが願いであると告げていたからだ。唯一私を認識することが出来る殿下から離れれば、私の存在を知らせる者は居ない。

 散々迷惑をかけたというのに、別れの挨拶を告げないことは心苦しいがこれで良かったのかもしれない。叶わぬ恋心が心残りならば、解決策がないだろう。


『旅に出るのもいいかも知れないわ……』


 幸いなことに幽霊である為、食事や安全確保の心配はない。この国をゆっくり見てみるのも良い。王都に戻ってくるのは随分と後が良いだろう。

 立場上仕方がないとはいえ、ヒュース殿下の隣に私以外の女性が立つのを見る勇気がないのだ。


「シロエ!!」

『……え? 殿下……?』


 旅に出ようと決心を固めると、時計塔の扉が勢いよく開いた。そして息を切らしたヒュース殿下が飛び込んで来た。



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