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④ 悪役令嬢の願い 前編

 

『わぁ! 凄い! これが城下町なのですね!』

「……嗚呼。楽しいかい?」

『はい! とても!』


 人々で賑わう城下町へ、ヒュース殿下と共にやって来た。


 私が殿下に願い出たことは、城下町を遊んでみたいというものだ。この世界での心残りを考え思い至ったのがこれだった。

 この世界に転生を果たしてから、城下町を自由に散策してみたかったのだ。公爵令嬢としての立場や警備面を考えれば当然かもしれないが、ゲームで見た風景を実際に歩いてみたいというのはプレイヤーとして当然のことだろう。


 賑やかな街中に、私はテンションが上がる。帽子を被り、軽装に身を包んだ殿下が微笑む。今までは学園の制服や正装姿しか見たことがなく、新鮮な姿に無い筈の鼓動が速くなる気がする。


 彼は私の願い事を叶えるべく、王太子という身分を隠し城下町に同行をしてくれている。私は幽霊の為、殿下以外には認識をされることはない。だから一人で城下町を遊んでいても何も心配要らないのだ。そのことを殿下に伝えたが殿下が同行すると引かない上に、案内が出来るというのでお言葉に甘えることにした。


「それは良かった。広場で市場を開いているみたいだ。行ってみるかい?」

『あ、はい! 是非とも!』


 周囲から見れば殿下一人な為、怪しまれないよう。小声の告げられた申し出に、何故か寂しさを感じた。しかしその理由が分からず。誤魔化すように私は元気良く返事をした。



 〇


『美味しそうなお肉です!』

「本当だね。香ばしい香りだ」


 殿下が提案した市場を歩く。広場には生鮮な野菜店や、雑貨店など様々な店が並ぶ。食べ歩きに向いた軽食店も数多くあり、幽霊だというのに見ているだけでお腹が空く気がする。


『あちらは何のお店でしょう?』

「あ、シロエ。余り動くと危な……」


 魅力的な店ばかりで、次々と目移りをしてしまう。次に気になった店へと移動をしようとするとヒュース殿下が私へと腕を伸ばしたが、その手は私の体をすり抜けた。


『ヒュース殿下? あの……ごめんなさい』

「……いや。僕こそすまない」


 彼の行動を不思議に思いながら、振り返ると私に通行人がぶつかりそうになっていた。私が生きている感覚で気を遣ってくれたようだ。生前のように紳士的に接してくれることは嬉しいが、彼がすり抜けた手を握りしめる姿に謝罪を口にした。


 私はもう彼とは一緒に居られないのだ。早く成仏しなくてはならない。


『……あ! キラキラしていて綺麗ですよ!』


 大変気まずい空気を変えるべく、気になった雑貨店へと移動する。手作りのネックレスや指輪が太陽の光に照らされ輝いている。


「いらっしゃい。お兄さん、恋人へのプレゼントかい?」

「……あ、いえ……綺麗だなと」

「ありがと。ゆっくり見ていってくれ」


 店主の男性が殿下に気が付くと、気さくに声をかける。私が見たくて寄った店の為、殿下はぎこちなく応対する。彼が王太子殿下であることは、ばれていないようだ。


「あれ? ヒュース様?」


 聞き覚えがある声が殿下の名前を呼んだ。振り向くと、ヒロインのアーリ伯爵令嬢が立っていた。


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