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3/7

③ 悪役令嬢は成仏したい

 

「シロエ、シロエなのか!?」

「王太子殿下か!? 如何なさいました?!」


 ヒュース殿下は私に向かって声をかける。如何やら彼には、私の姿が見えているようだ。しかし彼の後ろに控えている従者には、見えないようで怪訝そうに殿下を呼ぶ。


『ヒュース殿下! 私の姿は殿下にしか見えていないようです。この場を移動致しましょう』


 幽霊になった私を見たことで、ヒュース殿下に可笑しな噂が流れてはいけない。私は場所を変えることを提案する。


「……っ、済まない。少し疲れていたようだ。自室で休む」

「殿下。承知致しました」


 殿下は頷くと、従者を離れさせ自室へと歩き出した。私もその後に続いた。



 〇



「大丈夫。ここなら誰も来ないよ」

『はい。ヒュース殿下』


 ヒュース殿下の自室に入ると、彼は振り向いた。目の下には隈があり、顔色が悪い。少し見ない間に彼の顔はやつれたように見える。


「シロエ……会いたかった」

『……このような状態で申し訳ございません』


 幽霊になっても会いたいと言ってもらえるのは嬉しい。しかし私は儀式の場でこと切れた。つまりヒュース殿下の前で失態を晒したことになる。再会が幽霊になってしまったことを詫びる。


「いや、謝らないでくれ。僕こそ君と一緒に居たというのに守れなかった……」

『いえ。それよりもヒュース殿下に御怪我はございませんか?』


 首を左右に振ると、苦しそうな声な謝罪が響く。悪役令嬢としての役割を全う出来なかったのは大変心苦しい。しかし、前世を持つ身としてはヒュース殿下を守れたならば本望である。


「……っ、君は……」

『殿下? 大丈夫です?』


 幽霊から安否確認を取られたことにより、殿下の顔色が青白くなる。私が彼の立場であれば、逃げ出していることだろう。とんだホラー体験をさせてしまい申し訳ない。


「僕は大丈夫。何ともないよ……」

『それは良かったです』


 ヒュース殿下の返事に私は安堵する。幽霊相手だというのに、対応してくれるのが嬉しい。


「シロエ、何か願いはないかな?」

『……? 願いですか?』


 唐突な彼の質問に私は首を傾げる。質問の意図が分からないからだ。


「そうだよ。僕は君に今まで何もしてあげられなかったから……」

『いえ……ヒュース殿下には生前色々と気に掛けて頂いておりますので……』


 悔しそうに両手を握る殿下に、彼が今まで色々と気に掛けていてくれたことを伝える。婚約者として優しく接してくれていたのは事実だ。贈り物を頂いたり誕生日を祝ってくれたり、殿下との関係は良好だった。今回の件に関しても彼に非はない。


「しかし……」

『分かりました。では……』


 言い募る彼に何か答えなくてはならない。何故、ヒュース殿下にだけ私を認識することが出来るのかは分からない。だが私が幽霊として存在していると、彼の邪魔になるのは確実である。優しい彼を何時までも拘束するのは良くない。役割を全う出来ない者は成仏するべきだ。

 私が幽霊として残っているのは、心残りがあるからだろう。きっと彼もそれを察して申し出てくれたのだ。

 私は頷くと、ヒュース殿下に私の願い事を口にした。


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