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① 悪役令嬢は望まない

 

「今日も綺麗だね、シロエ」

「……ありがとうございます。ヒュース王太子殿下」


 王城に到着し馬車を降りると、王太子殿下の手を取る。社交辞令だと分かっていながらも、婚約者である彼の言葉に心が踊るのは仕方がない。


「緊張しているのかい?」

「はい。少し……」


 私の動作がぎこちないことに、ヒュース殿下は首を傾げた。本日、王城を訪れたのは儀式の為である。しかし私が緊張をしているのは、その儀式に挑むからではない。ヒュース殿下と一緒だからである。

 彼の整った容姿にブロンドの髪とスカイブルーの瞳、まるで御伽噺の王子様のようなのだ。心臓が五月蠅く脈打ち、この音がヒュース殿下に聞こえないかどうか私は心配である。


「シロエ。僕が居るから大丈夫だよ」

「あ……ありがとうございます」


 優しく微笑む彼に頬が熱くなり、俯きながら返事をするので精一杯である。


「よし、では行こう」

「……はい」


 私の歩幅に合わせるように、ヒュース殿下が歩き始めた。


 突然だが私は転生者である。


 元は日本で会社員として働いていた前世を持つ。深夜自宅に帰宅した記憶を最後に、気が付けばこの世界に赤ん坊として転生を果たしていた。


 初めは魔法が存在する世界だと無邪気に喜んだが、私がシロノエール・ジュールズ公爵令嬢であることを知り戦慄した。何故ならばシロノエール・ジュールズ公爵令嬢とは、乙女ゲーム『魔法の水晶』での悪役令嬢だ。

 ヒロインと王太子殿下が交流することに怒り、学園内でヒロインを虐める。その結果、人格と素行に問題ありとされ婚約破棄の上、辺境の修道院に追放されるのだ。 


 つまり私は婚約破棄が予定されている悪役令嬢である。ヒロインとは学園で接触済みだが、彼女を虐める予定もない。ただストーリーのことを考えれば、穏便な婚約破棄を望むだけだ。私は婚約破棄を告げられる日まで、婚約者として適度な距離を保つことにしている。


 悪役令嬢の私がヒュース殿下と結ばれることはないのだ。


「お待ちしておりました。この水晶に手を翳してください」

「嗚呼」

「はい」


 王城の長い廊下を歩き終えると、一つの部屋に辿り着く。そこには王室付き魔導師が待っていた。

 本日の儀式はゲームタイトルにもなっている魔法の水晶により、お互いの相性を調べるものである。この結果がどうなるかゲーム内で語られたことはない。悪役令嬢のシーンは、ヒロインを虐める際と婚約破棄をされる場面しかないのだ。ヒュース殿下とシロノエールの関係が如何だったか知る術はない。


 台座に置かれた水晶にヒュース殿下と共に手を翳すと、魔法の水晶が激しく発光した。


「……っ!? これは!?」

「ヒュース殿下!!」


 予想外の現象に困惑しながら、私はヒュース殿下を守るべく前へと出る。そして意識が真っ白になった。


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