表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【改稿版】守護者の乙女  作者: 胡暖
3章 悪魔裁判
70/74

21.対峙

 ガチャンと大きな音に続いて、ギィと古びた金属が(きし)む音がした。そして、エヴァは無造作に地面に投げ飛ばされた。

 とっさのことに対応できずに、エヴァは強かに身体を打ち付ける。


「いててて……」


 捉えられてすぐに、目隠しをされ、後ろ手に両手を縛られたエヴァは、今自分が置かれている状況が全く分からないまま、もぞもぞと身をよじらせることしかできない。

 取りあえず、次の衝撃に備えて体を丸くしていると、再びガシャンと音がした。鍵が閉められたようだ。


「悪魔には似合いの姿だな!(しばら)くここで過ごすといい。悪魔裁判が執り行われるまでな!!」


 クリストフの高笑いが聞こえ、やがて足音が遠ざかっていった。

 どうやら、悪魔裁判の開催までは、無闇に傷つけられることはなさそうだ、とエヴァはホッとする。

 裁判の正当性を主張するためには、エヴァが既に傷ついた状態で現れては都合が悪いのだろう。


 人の気配が消えたことを感じ、エヴァはゆっくりと体の力を抜いた。

 目が見えない分、五感が研ぎ澄まされいるような気がする。頬に触れる湿った土、その(かび)臭さから考えると、地下に連れてこられたようだった。


 ぼんやりと、先日訪れた王宮の地下牢だろうか、とエヴァが考えていると、かつん、かつんと足音が聞こえてきた。

 来訪者に対し、エヴァは身構え、再び体に力を入れる。足音はエヴァの前で止まった。

 カシャンと軽い音がする。不意に聞こえてきた声に、エヴァの心臓がドキリと高鳴る。


「無様だね」


 (あざけ)るようなその声は、普段とは全然違う響きだが、暫く一緒に過ごした仲間の声に間違いなかった。


「リクハルド……」

「ねぇ、今どんな気分?」


 (たの)しげなその声に、エヴァは心の中でため息を溢した。彼の問いには答えずに、エヴァは質問した。


「どうして僕を()めたの?リクハルド」


 ポツリと呟いたエヴァの声に反応するように、大声でリクハルドが(わら)う。


「どうして?そんなの決まっているじゃないか!僕はもともとお前の事がだいっきらいだったんだよ。お前は、僕の夢も憧れも全て奪っていったんだ。何にも知らない顔でのほほんとしてさ!」

「夢と憧れ?僕が?」

「本当なら僕は学院に入って研究者を目指すつもりだったんだ。お父様だって賛成してくれていた。それなのに、お前が特例で騎士団に入団なんかするから、動向を探ってくるようにと、僕は騎士団に入れられた。アンナリーナ様だって、お前なんかよりずっとずっと前からお(した)いしていたのに……神族に嫁がれる筈だったから諦めたのに……それをお前が横から……!お前なんかの婚約者になるなんて!!」


 リクハルドは、牢の柵に両手をかけガシャンガシャンと揺らしながら(まく)し立てた。

 姿は見えないものの、普段のリクハルドからは考えられない程の激昂(げっこう)した声にエヴァは(ひる)む。

正直、話していることは逆恨みも(はなは)だしい上に、エヴァに責任のある話とは思えない。

それに、エヴァとて望んで今の立ち位置にいるわけではないのだが、そんなことはとても言えない雰囲気だった。


「だから、オリヤン達を魔道具で操ってやったんだ!あいつら、先輩風を吹かせて僕を(いじ)めようとしてきたからな。はは!死んじゃって良い気味だ!」

「……リンドヴルムは?」

「父様が捕まえてきてくれたんだよ!上手くやれよってな!」

「そう」

「お前さえ、お前さえいなければ……!」


 そこで不気味な程パタリと黙ったリクハルドは、次に凍えそうな声で良い放つ。


「お前なんかさっさと死んじゃえ」


 言いたいことだけ言うとリクハルド立ち去った。

 また人の気配が消えたことを確認して、ふー、と息を吐くとエヴァは、ごろりと転がって上を向いた。


「ラタ、いる?」

『モチロン!でも、いいの?言わせっぱなしで。アイツ、こっそり殺る?』

「物騒なこと言わないの。良いんだよ、証人は必要だからね」


 ラタに目隠しと手首の拘束を取ってもらうと、エヴァはゆっくりと起き上がった。


「はぁ、ねぇラタ。ここどこ?」

『神殿の地下だよ』

「神殿?……悪趣味だなぁ」


 エヴァはぐるりと辺りを見渡す。

 想像した通り、地下牢のようだった。

 牢の中はがらんとしており何もない。ここに巡回しに来る者のためだけに、階段と廊下に小さい蝋燭(ろうそく)が灯されているが、それだけだ。牢の中はじめっとして暗い。

 もともと、警護を担うわけでもない神殿の牢だからか、定期的に犯罪者を捉えている様子もない。今はエヴァの他には誰もいないようだった。静かな空間で一人、ポツリと呟く。


「さて、ここからどうするかな」


 やられっぱしは性に合わない。それでなくても、この一連の騒動に、エヴァは静かに腹を立てていた。


『お?殺るか?』

「殺りません」


 どこか楽しそうに声を上げるラタに首を振って、エヴァはこれからのことについて思いを巡らせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ