表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【改稿版】守護者の乙女  作者: 胡暖
3章 悪魔裁判
68/74

18.行き止まり

 翌日は、捕えたオリヤン達の手先であろう人物の尋問があった。


 エヴァは、捕えたのが、リントヴルムの時にオリヤンと一緒にいた者と、同一人物かを確認するために、ランバルドに連れられ、王宮内にある地下牢を訪れていた。

 ウルリクと、ユーハンも一緒だったが、同行者はそれだけで、今回の事が他所に漏れないよう、団長が細心の注意を払っていることが感じられた。


 王宮の中でも居住区から遠い一角に、入り口はあった。


 きぃ、と(きし)む音を立てながら、扉が開く。

 王宮の完璧に手入れされた(きら)びやかな風景が扉一枚隔てただけで、こうまで変わるのか、とエヴァは思った。


 薄暗い地下牢へと続く通路は(かび)臭く、湿気がこもり、じめじめとしていた。

 ランバルドが1本の松明を持って先頭に立ち、4人で階段を降りていく。

 降りきったところで、もう一枚扉を開けると、沢山の牢の格子が見えた。


 入り口から一番近い牢を、ランバルドが松明で照らす。

 牢の格子にかじりつくようにこちらを(にら)む眼と眼があった。


「エディ、こいつの顔に見覚えは?」


 静かなランバルドの声に、エヴァはこくりと一つだけ頷きを返す。間違いなく、あの採取の森で穴にエヴァを突き飛ばした人物だった。

 受けるように、ランバルドも頷くとウルリクに軽く合図する。


 ウルリクが腰から鍵の束を取り出し、牢を開けると、中の人物の眼が輝いた。

 しかし、それも一瞬――――中に入ったウルリクによって、手を拘束されるまで、だった。


 全員で牢の一番奥の扉から外に出る。

 少しだけ広くなったその場所は尋問室だと言う。


「ジャック、オリヤンの指示でエディを襲ったのか?」


 壁に取り付けられていた拘束具につなぎ直した後、ランバルドがオリヤンの手先(ジャック)に声をかける。


「一体なんのことだか、わ、分かりません。どうして僕が拘束されるのですか?」


 ジャックがたどたどしく答えるが、エヴァは首を振る。


「彼は採取の森で僕を穴に突き飛ばしました。オリヤンには逆らえないと言っていました」


 エヴァの言葉に、ジャックは睨み付けるように前のめりになった。がしゃん、と手につけられた鎖が鳴る。

 突然ガラリと変わった雰囲気にエヴァは息を飲む。


「う、うるさい!!しゃべるな!この平民風情が!お前の言うことなど、誰が信用するか!俺には、……がっ!!!」


 不意に言葉が途切れたと思った瞬間、ジャックは口から大量の血を吐き、だらんと項垂(うなだ)れた。


「な………!」


 慌ててランバルドが近づき、後ろからその体を持ち上げる。同時に近づいたウルリクが、ジャックの眼を開き、首筋に手を当てた。

 そして、緩く首を振る。


「……ダメだ。もう死んでいる」

「毒か?」

「……分からないが、ジャックの意思で毒を(あお)ったようには見えなかった」

「俺もだ」


 ぼそぼそと、ランバルドとウルリクが話すのを見ながら、エヴァは凍りついたように立ち尽くす。その肩を、そっとユーハンが支えてくれた。エヴァが見上げると、心配そうな瞳と目が合う。


 ◆


 すぐにバルトサールが呼び出された。


「うーーーん、詳しく解析しないと分からないけど、これかなぁ?」


 と、指差したのはジャックの手に()められた指輪だった。

 きらん、と良く研ぎ澄まされたナイフを取り出したバルトサールは、躊躇(ちゅうちょ)なくその指ごと、指輪を切り落とす。

 息を飲んだエヴァに、バルトサールはへらりと笑う。


「引っ張っても取れなかったからねー」


 そして、その指ごと指輪を持ち、エヴァとバルトサールは、魔道具試作棟まで戻ることとなった。残りの三人はこの場の事後処理を済ませた上で、結果が出る頃に来ると言う。


 自らの執務室に戻ったバルトサールは、何らかの魔方陣が書かれた紙の上に指を乗せた。

 力を込めて、魔法が発動すると、指からポロリと指輪が外れる。細く長い指で、その指輪をそっとつまんだバルトサールは、装飾のついたルーペで、じっくりと指輪を見る。


「ふむ」


 一つ頷くと、引き出しを開けまた、紙を1枚取り出した。

 再び指輪を乗せて、発動すると、光る文字が宙に浮いた。


 バルトサールが、白紙の紙を光に当てると文字が吸い込まれるように紙に転写された。

 一部始終をじっと見ていたエヴァは、不謹慎(ふきんしん)にも美しい光景にほぅと息をつく。

 エヴァの様子にふふ、と笑ったバルトサールは、今しがたの行動について説明してくれた。


「これは魔道具の解析をする術式を組んだ魔紙なんだ。こんな風に、上に乗せて発動するとどんな魔道具なのかわかるんだよ」

「へぇー!!で、その指輪はどんな魔道具だったんですか?」

「相手の口を封じる魔道具だね」


 さらりと言われた言葉にエヴァは息を飲む。

 バルトサールは、魔紙に浮かび上がった文章から目を離さずに独り言のように呟く。


「契約者はオリヤン……秘密を漏らした時に発動して、魔道具の所持者の命を奪う……秘密に関する認識設定が甘いな、これじゃ質問されて対象を頭に思い浮かべた時点で……」


 顔を上げたバルトサールは「こりゃまずいね」と、エヴァに向かって苦笑した。



 ◆



「つまり、あれか?あいつらは、尋問すればもれなく死ぬってことか?」

「とらえた全員に、同じ魔道具の指輪がついているなら、そういうことになるね」


 あの後、合流したランバルド達にバルトサールは、持ち帰った魔道具の性能を話した。憤るランバルドに、バルトサールは飄々(ひょうひょう)と言葉を続ける。


「さらに悪いことに、契約者は死んだ三人。つまり、今から契約の解除をすることもできない。……しかし、敵は用意周到だね。自分には絶対到達しないようにしている」

「ベルマン公爵が裏にいるのは確実だと思われるんだが……」


 ユーハンの言葉に、バルトサールは肩を竦めた。


「証拠がないよね」


 

 進みかけたと思ったのに、いきなりの手詰まりにエヴァは肩を落とした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ