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【改稿版】守護者の乙女  作者: 胡暖
3章 悪魔裁判
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17.密会

「今回の招集の仕方には色々と思う所があるが……今は、時間が無い。さっさと要件を話し合おう」

 

 微妙な空気の中、口火を切ったのはユーハンだった。全員の注目を集めるように、トントンと、しなやかな人差し指で机を叩く。


「エディ、お前は何か話したいことがあったから、この場を設けたのだろう?」


 うん、と一つ頷いてエヴァはユーハンに訊ねる。


「昨日ラタから報告を受けたんだ。けど、ラタに聞いても良く分からなくって……結局、ユーハンは今、何をやっているの?」


 あぁ、とユーハンは頷くと少し考えて口を開く。


「まぁ、悪く思わないでほしいのだが……。相手が、手先の者を使うならこちらも……と、黒幕を(あぶ)り出すために、オールストレーム公爵家に(くみ)する、騎士団見習いの者達に、ある噂を流すように指示した」

「どんな噂?」


 首をかしげるエヴァに、ユーハンは一瞬、躊躇(ためら)うように視線を巡らせる。沈黙がその場に落ち、ユーハンが机をトントンと叩く音が妙に響いた。

 誰かの唾を飲み込む音まで聞こえそうな静けさの中、ユーハンのため息だけが響く。結局彼は、婉曲(えんきょく)に伝えることを諦めたようだ。

 とはいえ、視線はややエヴァから逸らしたまま、ポツリと呟く。


「……オリヤン達は、(たた)りにあったのだ、と」



 ――――エディが、今度、悪魔裁判にかけられると知っているか?


 ――――魔獣を操るなど、人には出来ないことをしでかす、奴の正体は神殿の言うように悪魔に違いない。


 ――――……ということは、オリヤン達の死は、エディの祟りのせいということか。


 ――――彼らは呪い殺されたのだ。


 ――――これまでエディに手を出した奴は、オリヤン達と同じ目にあって、殺されてもおかしくない。



「…………と、いうようなことを」

「え、それ僕もう騎士団に戻れなくない?」


 エヴァは自分のためとはいえ、故意に流された噂のあんまりな内容に絶句する。


 話してみて分かった。ユーハンは、簡潔な報告を上げてくれたのではない。言いにくいことを濁した結果()()なったのだと。


 エヴァは胡乱(うろん)な目でユーハンを見る。

 そして、このあんまりな報告をどう思っているのかと思い、アンナリーナとラーシュに視線を向ける。二人はそっとエヴァから視線を逸らした。


 どうやら知らなかったのは自分ばかりと気づいたエヴァは静かに憤慨(ふんがい)する。

 エヴァが憤っていることに気づいてはいるものの、かける言葉を持たないユーハンは、咳払いして話を続けた。


「ここまでひどい噂を、まさか身内が流しているとは考えないだろう?それに、見習いと言ってもまだ子供だ。たとえ嘘だと思っていても、そんな話を聞けば、一瞬隙が出来るのではないかと思ってな。そこで、この噂を聞いて、挙動不審な者がいたら報告するようにラタに頼んだ」

「ふーん」


 エヴァは納得したような、そうでないような声を出す。


「丁度うわさを流し始めた頃、(からす)(ねずみ)が大量発生した。これが噂の真実味を増すのに一役買った。この大量の、鴉と鼠は探しているのだ、エディを害した者の姿を……とな」


 実際、探していたのは、エヴァ自身なのだが、分が悪そうな話になって、エヴァは先程から穴が開きそうなほど見つめていたユーハンから視線を逸らす。


「エディ?この現象に心当たりは」

「……あるような、ないような」

「……あまり目立つ行動は控えろ。特に今はな。それに、大量の動物たちは人こそ襲わなかったものの、深刻な糞尿被害をもたらしたんだぞ?」


 ユーハンのやれやれという言葉に、エヴァはぷぅと頬を膨らます。


「僕が頼んだんじゃないよ。ラタがやったことなのに!」

「ラタは、お前の使い魔だろう?」

「ラタは友達だよ。対等な関係!」


 そこにパンパンと手を叩く音が聞こえ、エヴァは口をつぐむ。


「そこまでよ。今はそんなことを言い争っている場合ではないわ。結局、その策の成果は出たの?」


 アンナリーナの仲裁(ちゅうさい)に、ユーハンは軽く目を伏せて問いに答える。


「怪しいものは5名。内1名が、エディが、リンドヴルム(おそ)われた時に顔を見た人物と、特徴が一致しております」

「結構。その者たちの取り調べは?」

「騎士団見習の我が弟、ルーカスを通じて、騎士団長に依頼済みです。怪しい5人全員を一先ず捕縛(ほばく)しており、順に取り調べ予定。私も立ち会う予定です」


 一通り聞いたアンナリーナは満足そうに頷く。ばさりと顔の前に扇を広げにんまりと微笑む。


「大変結構。その後の経過も報告するように」

「は」


 丁寧に頭を下げたユーハンを釈然(しゃくぜん)としない顔で見つめるエヴァの頭を、(なぐさ)めるようにポンポンとラーシュが撫でる。


 と、アンナリーナがぱしんと扇を閉じると、その先端をぴっとエヴァに向ける。


「そこ!なごんでる場合じゃなくてよ。エディ?あなたには残念なお知らせですが、3日後サンドラお姉さま主催のお茶会の招待状が来ています。わたくしのエスコートとして参加するようにと、連名で」

「お茶会……」


 横でラーシュの「げぇ……」っという呟きが聞こえる。

 確かに、とエヴァは心の中で苦笑する。一度参加したお茶会で顔を合わせた記憶をたどると、サンドラは一見ニコニコ笑っているようで、毒を吐く、なかなかの苛烈な人物だったはずだ。


「今、このタイミングでお茶会を開くなんて、何か考えているとしか思えないわ。でもね、王族からの招待を正当な理由なく断ることは出来ないわ」


 確かに公爵家とはいえ、臣下のエヴァには断れないだろう。しかし、同じ王族のアンナリーナならばその限りではないのではないだろうか?とエヴァは考える。

 アンナリーナの顔を見る限り、嫌々でも参加する気らしい。相手は婚約者がいようがお構いなしにお茶会(お見合い)に引っ張り出す人物だ。

 正面から事を構えるのは面倒という事なのだろう。


 「だからこそ」とアンナリーナが言葉を続ける。


「わたしくしがなんとか、この招待の期日を1週間後まで引き伸ばします。エディ、お茶会の日までに何をしてでも黒幕の尻尾を掴みなさい……死にたくなければね?」


 一切の感情が見えないその表情に、エヴァは背筋がゾクッとする。姿勢を正したエヴァに、アンナリーナはすこしだけ表情を和らげると、口許で扇を広げる。


「そして、当日は顔を出したという既成事実ができ次第、速やかに立ち去るわよ」


 キリリと言うアンナリーナにエヴァは深く同意し頷いた。

 そして思う。


 ――――どうか、何事も起こりませんように。

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