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【改稿版】守護者の乙女  作者: 胡暖
3章 悪魔裁判
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13.異常事態

「で、一体お前は何をしたんだ?」


 ラーシュは心当たりのありそうな顔をしたエヴァに、さらにくってかかろうとしたが、その時エヴァのお腹が盛大に鳴いたのだ。

 お腹を押さえるエヴァに、今すぐに話を聞くことを諦めたラーシュは手に持っていた食事のトレーをベッドサイドにセットしてくれた。

 しばらく黙々と食事をするエヴァの向かいに座り、頬杖をついて見ていたが、エヴァが食事を終えてお茶を一口飲んだところで改めて声をかけてきた。


 エヴァは、斜め上を見てうーんと首をかしげる。


「僕は、バルトサール様に連れてこられた後は、ずっと寝てて、さっき起きたところなんだよ。多分、騒ぎの原因は、僕を探していたラタだと思うんだけど、何が起きたのか知りたいのは僕の方」


 人差し指で頬を掻きながら笑うエヴァに、ラーシュはがっくりと項垂(うなだ)れる。


呑気(のんに)に笑ってるんじゃない……!大変だったんだぞ!」

「ごめんて。ちなみに今、何時?」


 聞くと普段の就寝間際の時間のようだった。

 どおりでお腹がすくはずだ、とエヴァは思った。

 ラーシュたちと別れてこの棟に来たのは昼前だったはずだから、昼食もとらずに寝転(ねこ)けていたようだ。


「で、具体的に何が起きたの?」


 ラーシュはぶすっとして話し始める。


「具体的にも何も、そのままだ。信じられない数の(からす)(ねずみ)が、王城と騎士団寮に出現した。それも、一子乱れぬ隊列みたいな動きで」

「うわぁ」

「それで、鴉は建物を包囲するみたいに、一定の高度で旋回して、鼠は集団にまとまって、一部屋一部屋徘徊した」

「……うわぁ」

「数が尋常じゃなかったんだよ。鴉のせいで空は暗くなるし、鼠は部屋の中の絨毯(じゅうたん)みたいだった」

「……」


「その(おびただ)しい数と統率のとれた動きに、これは自然発生ではあり得ない、とみんな思った。で、どこからともなく、お前のせいだと言う声が噴出(ふんしゅつ)したんだ」


 あまりの事態にエヴァは、絶句する。そして、その場にいなくて良かったと胸を撫で下ろす。

 そんな気持ち悪い光景、絶対に見たくない。


「何で鴉と鼠を……?」


 呆然と呟いたエヴァの言葉に、ラタが胸を張る。


『すぐ動かせるもの達の中で、知能が高く数が多いものを選んだ!』

「……()めてないよぅ」


 はぁ、とため息を付くエヴァを見ながら、ラーシュは疲れたように椅子にもたれ掛かり髪をかきあげる。


「俺がここに来た時、まだ外は鴉と鼠でいっぱいだった。でも、お前が見つかったってことは……」

『おう、あやつらはもう解散した!』

「はぁぁぁ……また、一斉にいなくなったろうねぇ」


 エヴァはため息を付く。


「なんでそんなことしちゃったの、ラタ」

『仕方ないだろう?エヴァが急に気配を消すからだ』


 くるんと姿を表したラタがふんと鼻をならす。

 一生懸命自分を探してくれたことはありがたいが、目立ちすぎだ……。がっくりとエヴァは、項垂れた。


『大事なのはエヴァの身の安全だ。ごちゃごちゃ言うやつは殺してしまえば良いだろう』

「それが嫌だから、頑張って潜んでるんだろー」


 ラタの過激な意見にはため息しか出ない。


「で、どうするんだ?」


 ラーシュのため息混じりの言葉にエヴァは軽く首を振る。


「どうもしない。だって僕は何もしてない。事件が起きた時は寝てたわけだし」

「っても、それを証明する方法がなぁ……」

「そもそも、僕がやったって証明できないだろう?実際、僕は鼠や鴉とは話も出来ない」


 そうなのか?とラーシュが片眉を上げる。それにエヴァは軽く頷き、ラタを人差し指でつつく。


「魔物が小動物を操るっていうことも知られていないはずだ。実際、これはラタにしか出来ない」


 小さき生き物の声を聞くのは、諜報(ちょうほう)に特化したラタの特技だ。

 ラタは誇らしそうに胸をそらしてチチチと笑う。


「でもなぁ、いくらお前が本当にできなかったとしても、絶対難癖(なんくせ)をつけられる筈だ」

「まぁ、今もそのせいで潜むはめになったわけだしねぇ」


 何の解決策もない、ただの事実確認に、エヴァとラーシュは顔を見合わせてため息を付いた。

 どんよりとした空気の中、コンコンと軽くノックの音が部屋に響く。バルトサールが帰ってきたのだろうか。


 ◆



「やぁ、エディ。ご飯はすんだかな?」


 顔を出したのは案の定、バルトサールとルーカスだった。

 ニコニコと感情の読めないバルトサールだが、外の騒動の収束のために出ていたのだろう。それとなく探りを入れるつもりで、エヴァは話題に出す。


「あの、ラーシュから聞きました。外、鼠と鴉がスゴいことになってたって」


 エヴァの言葉にバルトサールはなんでもないように頷いた。


「あぁ、ホント。スゴかったよー!王都中から集まったんじゃないのかっていう量でねー」

「あ、あの。それが僕のせいだって話が出てるって……」

「んー?君がやったの?」

「いえ……」

「そうだよねー、だってここ、魔道具どころか一切魔力を動かせないくらいの強力な制御装置を置いた部屋だし、窓もない。肝心の君は、睡眠薬(ハーブティー)でよく寝てたし」

「えぇ!?」


 聞き捨てならない言葉に思わず身を乗り出す。横でラーシュも同じ顔をしていた。

 バルトサールは、はははと笑うと言葉を続けた。


「いやぁ、たまたまとはいえタイミングが良かったよね。君が寝てる時に起きたことだから、君には仕出かしようもない。あ、ちゃんと騒動の序盤(じょばん)にランバルドをここに呼んで、その目でエディが寝ているのを確認してもらったから」


 とことん用意周到なバルトサールに、エヴァもラーシュも、そして、ルーカスさえも目をぱちぱちとしばたかせる事しか出来なかった。

 気を取り直したように、ルーカスはバルトサールに質問する。


「それにしても、なぜエディに睡眠薬を?」

「あぁ、ここ最近色々とあったから無理もないが、顔色が悪かったからね。少し休んでもらおうと思って。他意はないよ?」


 にっこり笑うバルトサールに、ルーカスはそうですか、と頷き、心配そうにエヴァを見た。見られたエヴァが、にへらと笑顔を作って見せると、ポンポンとルーカスに頭を撫でられた。

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