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【改稿版】守護者の乙女  作者: 胡暖
3章 悪魔裁判
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11.隠れ家

「おかえりー」


 執務室に戻ったランバルドと、ウルリクはバルトサールの暢気(のんき)な口調に思わず肩を落とす。

 そして、その後ろで蒼白な顔をしているエヴァを見て、再び表情を引き締めた。


 エヴァは、俯いてポツリと呟くように言った。


「すみません……僕のせいですよね」

「いや、これは神殿長の明らかな暴走行為だ。お前のせいじゃない」


 ランバルドが(なぐさ)めても、エヴァは悲しそうに目を伏せたままだった。ランバルドはポリポリと頬を掻く。


「まぁ、なんだ。お前に対する捜査権は騎士団にあるし、責任者は俺だ。もし、再びこんなことがあっても、お前がここにいる限り、俺の庇護(ひご)の内だ。俺はお前を疑ってなんかいないし、まぁ、悪いようにはしないから、そんなに気を落とすな」


 迷惑をかけてしまうことが申し訳なくて、しょんぼりするエヴァに、ランバルドは励ますように声をかけた。


「そうそう、ランバルドに任せておけばいいって!むしろお父さん(ランバルド)頼られると張り切っちゃうよ!」

「お前が言うな……あー、ごほん」


 茶化すようなバルトサールの言葉に、思わず素で返したランバルドが気まずそうに咳払いをする。

 二人の掛け合いが面白くて、エヴァはくすりと笑った。

 緊迫(きんぱく)した空気が緩み、ひそかに気を張っていたラーシュがそっと息を吐く。


 ランバルドが一度顔を引き締めてエヴァに言う。


「こちらが呼び出したのに、話が中断してしまって悪かったな。とりあえず、解析結果は先程バルトサール殿が伝えたとおりだ。以上で解散だが、また神殿長……いや彼に限らず、お前を狙ってくるものがいるかもしれない。不安であれば、しばらく訓練を休んでもいいが……エディ、お前はどうしたい?」


 エヴァは少し考えてランバルドに問い返す。


「……逆に僕が訓練に参加していたら、また襲われた時に他の皆に迷惑が掛かりませんか?」


 ランバルドは、ウルリクと一度顔を合わせた後、エヴァに向き直る。今度はウルリクが答えた。


「……お前が訓練に参加することで、周りに迷惑がかかる、などと考えなくていい。お前も騎士団の一員なのだから……しかし、オリヤン達のことがある。もしかしたら、騎士団の中にもお前を害する者がいないとも限らない……俺は、個人的に少しの間休んだ方が良いのではないかと思う。……家には帰れないのか?」


 今度はエヴァとラーシュが顔を見合わせる。少し青ざめた顔をするラーシュを見て、エヴァは微かにほほ笑む。


「戻らない方が良いでしょう。長兄はきっと、かばってくれますが、御当主(おとうさま)は、合理的な方です。僕を(かくま)うに値する利益がなければ、きっと守ってはもらえません」


 諦めたようなエヴァの言葉に、ランバルドが憤る。ウルリクに(なだ)められながら、鼻息荒く言う。


「そんな子供を損得勘定で見るような奴の元には返せない!寮の部屋にいればいい」

「……でも、寮内だと騎士団員は出入り自由だぞ?」


 ウルリクの冷静な返しに、ランバルドはウググと声を詰まらせる。

 そこでふむ、と言ったバルトサールがポンと手を打つ。


「じゃぁ、僕の研究室に来ればいいんじゃない?」

『はぁ!?』


 ランバルドとウルリクの声が(そろ)う。バルトサールは二人の様子に面白そうに眼をくるりと輝かせる。


「いやね、僕は団長と副団長(君たち)みたいにあちこちに出向いたりは基本しない。ほとんど魔道具試作棟に、こもりっきりで研究をしているから、エディ君は、魔道具試作棟の僕の執務室で寝泊まりすればいいよ。本当は、魔獣舎が良いんじゃないかと思うけど……」

「そんなの許可できるか!」

「だよね。だから、魔道具試作棟に住めばいいよ。普段はかけてないけど鍵もかかるし、魔道具士達はしばらく立ち入り禁止にして、食事も騎士団の決まった人間に運ばせればいい。シャワーもあるし、まぁ、住めなくはないよ」


 どうやら、普段から住み込みに近い生活をしているらしいバルトサールがへらりと笑う。ランバルドとウルリクはふむと考えこむ姿勢を見せた。


「ね。どうかな、エディ君!君と一緒にいれば研究も進みそうだし」

「……本音はそこか」


 ウルリクははぁとため息を吐く。

 エヴァがふとラーシュの方を見ると、何かもの言いたげな顔で口をパクパクしていた。

 エヴァは首を傾げたが、この案が一番いい気はしていた。騎士団の皆からも近く、少しだけ離れた隔離場所。

 エヴァはバルトサールを見てこくりと頷いた。


「お世話になります」


 それを見てウルリクが首を捻る。


「問題は、誰に食事を運ばせるか、だな……」

「俺!俺が運びます!」


 勢い込んでラーシュが立候補する。ウルリクはその勢いにびっくりした顔をしたが、顔をやわらげて頷いた。


「いいだろう。念のため、ルーカスと一緒に行くように」


 ウルリクの返答を聞いた瞬間、ラーシュがものすごく嫌そうな顔をした。

 エヴァはそれにくすりと笑った後、バルトサールにぺこりと頭を下げた。バルトサールはニコニコ笑いながら頷いた。


 エヴァの処遇が決まったことで、その場は解散となった。


 エヴァはそのままバルトサールについて、魔道具試作棟に行くことになった。

 エヴァの着替えは後で、ラーシュが食事と一緒に届けてくれるという。


 エヴァは不安な気持ちのまま、のそのそとバルトサールの後に続いた。

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