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【改稿版】守護者の乙女  作者: 胡暖
3章 悪魔裁判
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9.解析結果

「意味が分からない。なんでそんなことになるんだよ!」

「僕にも意味が分からないよ」


 朝になって、エヴァは昨日の夜にユーハンから届けられた伝言をラーシュに伝えた。


 一緒に朝食の席についているラーシュは、器用にサラダを咀嚼(そしゃく)しながらフォークでエヴァの方を差してくる。エヴァだって、分からないから相談しているのだ。肩を竦めることしかできない。


 ラーシュは怒りが収まらない様子で、言葉を続ける。


「大体、そもそものきっかけだって、あいつらのいじめが原因だろう?お前が疑われる要素なんて1ミリもないじゃないか!」

「……魔道具では起こせないほどの大爆発だから、リントヴルムみたいな魔獣をそそのかして魔力の塊を放出させたんじゃないかって……あと、そんな大爆発の現場にいて、僕たちだけが無傷なのもおかしいって」

「……」


 エヴァの言葉に先程までの威勢はどこへやら、ラーシュはむっつりと押し黙った。

 大爆発はラーシュの魔力だし、無事だったのはエヴァの特殊能力のおかげだ。


 ……どちらも、他人には秘密にしている。そして、これからも言うつもりはない。


 この事を黙ったまま、何とかつじつまを合わせるにはどうしたものだろうか……エヴァは考え込んだ。

 やっていないことの証明は、やったことの証明よりもよほど難しい。

 二人して無言になっていると、横から声をかけられた。


「おい、お前ら。よくこの空気の中、普通に飯が食えるな」


 視線を向けると、そこに立っていたのはニコライだった。

 どこから()れたのか、エヴァの悪魔裁判の話は瞬く間に広がっているらしく、食堂でも、皆、遠巻きに様子を伺っている。

 そして、オリヤン・エリアス・パトリックの死がエヴァの所為として、まことしやかに(ささや)かれ、同じ目にあってはたまらないとばかりに、距離を取られているのだ。

 もともと、ラーシュもエヴァも人から距離を取られがちな人生を歩んでいる故、全く気にならないが、ニコライはそうではないらしい。周りの目を気にしながらも恐る恐る二人に話しかけてきたようだった。


「おはよう、ニコライ。静かで快適なくらいだよ」

「お前、心強いな……大丈夫なのかよ」


 どうやら心配してくれているらしいと気づき、エヴァは目をぱちくりした後、微笑む。


「ありがとう。何とか生き延びる方法を考えている所」

「はぁ、お前はどうしてそう軽い……まぁいいや。それより団長が呼んでたぞ」


 エヴァの返答になぜか、がくりと肩を落とした後、ニコライはそう告げる。

 団長のランバルドも、昨日の王の緊急招集の参加者だったはずだ。何を言われるのかと、顔を引きつらせたエヴァに、ラーシュが間髪(かんはつ)入れずに「俺も行く」と言った。


「え……でも……」

「この間のことを何か言われるのなら、俺も当事者だ。行くぞ」


 そう言うと、ラーシュはトレイを持ってさっさと立ち上がる。

 エヴァも慌てて立ち上がり、ニコライにお礼を言って、ラーシュの後に続いた。


 ◆


「お?ラーシュも来たのか?」


 部屋に入ってきた二人の姿を見て、ランバルドは目を丸くした。同時に部屋の中に、団長と副団長以外の人がいたことに、エヴァとラーシュもびっくりする。

 しかし、すぐにラーシュはランバルドに向けて言い返した。


「俺も当事者です。なにか問題でも?」

「いや……まぁ、そうかっかするな」


 ランバルドに席を勧められ、座ったところで、意外な同席者――――魔道具士団長のバルトサールが口を開いた。


「あのバラバラになってた魔道具の解析が終わったよー」


 バルトサールが言う魔道具というのは、オリヤン・エリアス・パトリックの三人が、あの晩に身に着けていた魔道具の事だろう。


 バルトサールは、その翡翠(ひすい)のようなグリーンの瞳をキラキラとさせ話し始める。


「いやぁ、すごい複雑に術式が組まれてて久々に燃えたよ。まずは、単純な身体能力増幅効果。この魔道具を着けていると、俊敏(しゅんびん)に動けたり、パワーが上がったりする。なかなか高価な魔石を使ってたよ。……そして、その裏にいくつもの複雑な精神干渉効果」

『精神干渉……?』


 ランバルドもウルリクも、バルトサールから結果を聞く前だったのだろう。部屋にいる全員の疑問の声が重なった。バルトサールはうきうきと頷きながら指折り答える。


「まず、負の気持ちを増幅させるもの、次に、痛みなどの身体的な感覚を鈍らせるもの、最後に、そうと知らずに使役されるもの……」

「ちょ、ちょっと待て。あいつらは何者かに使役されていたのか?」


 ランバルドが慌てたように、バルトサールを制止する。

 バルトサールはその問いにあっけらかんと答えた。


「うん、そうみたいだねー。ご丁寧に使役の術式に使用された魔石は見えにくい手首の内側に来るところに付けられていた」

「……あいつらは利用されていただけかもしれない訳か」


 ウルリクがその眼鏡の奥の怜悧(れいり)な目を細める。

 ランバルドはあまりの事態にあわあわとしているが、黒幕の存在を予感していたエヴァは、別の意味でほっとしていた。

 オリヤンのあの真っ黒な目、あれは魔道具に操られていたから。そして、何度技を跳ね返しても立ち上がってきたのは、痛覚が鈍らされていたから。彼らのあの異様さに説明がつけられて、やっと納得できたのだった。


「……爆発を起こすような機能はついていなかったのですか?」


 静かなウルリクの言葉に、エヴァとラーシュは少し肩をこわばらせる。

 バルトサールはウルリクの方に目を向け肩を竦めた。


「付いていなかった。というよりも、あの魔道具は機能を詰め込み過ぎだね。よくもここまで詰め込んだなと思ったよ。かなり強力な術式を4つも埋め込んだんだ。いくら魔石の質を上げたところで……いや、魔石の質がいいからこそ、魔石同士の反発が起きても仕方ない。各々の効果が、少しずつ発揮されている時はまだなんとか持ったのだろう。でも、あの晩、すべての効果を最大出力で一定時間使用した。その事に魔石が耐えられなくなって、オーバーヒートを起こした。それが爆発につながったんじゃないかな?……僕はそう考えている」

「そうか……!」


 バルトサールの言葉に、ランバルドは嬉しそうに笑った。

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