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【改稿版】守護者の乙女  作者: 胡暖
3章 悪魔裁判
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4.保護者による話し合い

 王宮でアンディシュを迎えたのは大層な面々だった。

 呼び出した張本人の王はもとより、神殿長、第一王妃に、騎士団長、さらにはなぜかベルマン公爵家の当主コンラードまでが(そろ)っていた。


 ――――これを機にこちらの力を()ぎに来たか。このハイエナが。


 横目でベルマン公爵を見やると、内心の憎々しい思いをおくびにも出さず、アンディシュは王と王妃に向かい叩頭(こうとう)した。


「オールストレーム家のアンディシュ、お呼びに従い参上いたしました」


 王であるマクシミリアンが気だるげに片手を上げる。


「ご苦労であった。して、呼び出し状の件、真偽(しんぎ)を明らかにしてもらおうか」

「は、我が養子エディ・オールストレームが異教徒であるというのは間違いございません」


 一瞬にして場の空気が毛羽立つ。誰も声を発さないが、三者三様の思惑がすけて見える表情をしている。

 アンディシュはゆっくりと場を見渡すと静かに言葉を続ける。


「しかし、本人には直ぐにでも改宗の意志がございます。元々、隠し立てるつもりは毛頭(もうとう)なく、ご相談のための謁見の申請をしている所でございました」

「は、白々しい……!奴が養子になったのは1年以上も前の話ではないか」

「お恥ずかしい話、平民の信仰に(うと)かったため、エディの育った神殿がよもや異教徒であるなどと思いもせず……」

「知らなければ問題ないと!?そんな道理の通らぬことがあるか!」


 大声でわめきたてる神殿長のクリストフを(わずら)わしそうに一瞥(いちべつ)すると、アンディシュはマクシミリアンのみを見つめ言葉を紡ぐ。まるで話しかけているのはお前にではない、とでも言うかのように。


「親もおらず、身を寄せていた神殿がたまたま異教だっただけです。信仰の気持ちも特にないとのこと。であれば、改宗し、きちんとアイノア教を信仰すれば何も問題はなかろうかと思っておりますが……違いますかな?」

「あー、それですがな。今回、エディ君が危険視されたのは、異教徒であることは元より、このような大騒動を起こしたことにあるのですよ」


 会話に割り込んできたコンラードにアンディシュはちらりと目を向ける。


「大騒動とは?」

「おやおや、一昨日の事をお忘れで?」

「ベルマン公爵が何をおっしゃりたいのか分かりませんな。エディは巻き込まれたに過ぎない。主犯はクロンヘイム侯爵家のご子息でしょう」

「はたしてそうでしょうかな?」


 アンディシュの言葉にコンラードは不敵に笑う。これまで静観していたマクシミリアンが騎士団長のランバルドに声をかける。


「ランバルド、本人への聴取(ちょうしゅ)はどうだったのだ」

「は。食後に自室に戻る際に寮から(さら)われたと。一度気を失って、起きた時にはオリヤン・エリアス・パトリックの三人に囲まれており、必死に逃げ出している内に、三人の使っていた魔道具が爆発し、三人は死亡したと聞いております」

「それがおかしいのですよ!三人が骨も残らぬほどの爆発に共に巻き込まれたというのに、彼はなぜ無事なのです?」

「……長兄から魔道具を預かっていたと聞きました。対物と、対魔の魔道具で、爆発は魔力の塊であったゆえ、対魔の魔道具が身を守ってくれたと」

「そんな言い分を信じたのですか?」


 コンラードの馬鹿にしたような物言いに、ランバルドは静かに目を細める。


「魔道具に込められた魔力などたかが知れている。それが暴走したとして三人を吹き飛ばすことができますかな?奴は(リントヴルム)すらも操るのですよ?あの事件は、魔獣を操って魔力の暴走を起こしたに違いないと私は考えています。そうであれば、そのような危険思想を持った人物をのさばらせておく訳にはいきますまい」


 ランバルドはその言葉に唇だけで「なぜそれを」と答える。アンディシュはその様子を見て首をかしげる。そして、コンラードへ問う。


「……なぜ、うちのエディがリントヴルムを操れると?」


 コンラードはにっこりと笑って肩を竦める。


「いえね、うちも末の(せがれ)が騎士団におるもので、色々と報告を受けているのですよ」


 アンディシュの元に、リントヴルムの件は報告が上がってきていない。

 そして先程のランバルドの様子を見る限り、騎士団内でもリンドヴルムの件は大っぴらにはされていない可能性が高い。

 コンラードの末の息子と言えば、確かラーシュと同じ年のはずだ。

 下っ端が、そんな情報を掴めるものだろうか。コンラードがここにいることも含めて、ベルマン公爵家がきな臭い、とアンディシュは思考を巡らせる。


 事と次第によっては、エヴァを切り捨てるつもりだったアンディシュは、少し思い直した。


 ――――どうせ死ぬのなら、最後まで有効活用すべきだな。


 エヴァを餌に、コンラードの思惑が暴ければ重畳(ちょうじょう)。アンディシュは姿勢を正して、コンラードに向き直った。


「証拠もないことを、さも真実のように言われても困りますな」

「それはこれから騎士団が明らかにしてくださるでしょう」


 あくまで泰然と構えるコンラードにアンディシュは一つ頷く。 そして、顔を上げて全員を見渡した後、マクシミリアンを見据えて言う。


「ふむ、では、今回の呼び出し、争点はエディが異教徒であるということではなく、一昨日の騒動の主犯である可能性と、もしそうであった場合、その危険思想を危惧しての事と思ってよろしいでしょうか?」

「そうであるな」


 王から言質を取ったアンディシュは、微かに唇の端に笑みを乗せる。


「畏まりました。では、エディの身の潔白が証明された時点で、悪魔裁判へかける必要はなくなりますね。本人には改宗の意志があるのですから」

「な……!それとこれとは……!」


 話の流れから置いてきぼりを食らっていたクリストフが待ったをかけようとしたが、このあたりが落としどころだなと考えたマクシミリアンが片手で制す。

 どうせ、コンラードが動くだろうし、クリストフも動くのだろう。あまり突き過ぎても良い結果にはならないだろう。マクシミリアンは宣言した。


「あぁ。その通りだ」


 アンディシュは王の言葉に、(うやうや)しく一礼してその場を下がった。

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