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【改稿版】守護者の乙女  作者: 胡暖
3章 悪魔裁判
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3.呼び出し

 王宮からの緊急の呼び出しに、アンディシュは舌打ちをする。


 ――――先手を打たれたな


 ユーハンからエヴァが異教徒である、という話を聞いたアンディシュは、その報告と改宗の相談のためにマクシミリアンに謁見(えっけん)の申し込みをしていた。しかし、悠長(ゆうちょう)沙汰(さた)を待っていたことが裏目に出たらしい。


 ――――痛くもない腹を探られるのも面倒だと思っていたが、さらに面倒なことになったな


 アンディシュは神殿から送り付けられた告発状と、王宮からの召集令状をくしゃりと握りつぶし、机の上に放った。


 神殿長のクリストフ・バックマンが動いているのだろう。恐ろしい勢いで、悪魔裁判の噂も広がっているようだ。


 アンディシュが忌々しさから、再び舌打ちをしたところで、ドアがノックされた。応答すると、ユーハンが中に入ってくる。


「どうした」

「いえ、エディに対して悪魔裁判が行われると……」


 その言葉にアンディシュは軽く頷くと、机の上の書状を顎で示した。ユーハンは、少し眉を顰めた後、書状を手に取り丁寧に伸ばした。内容を確認して、ボソリと呟く。


「……彼が異教徒である旨は、お伝えしていたかと思いますが?」

「先手を取られた。王への謁見前に、神殿長に動かれた」


 ユーハンはため息を吐き、眉間を抑える。


「私の予想では、王女との婚約がある以上、エディ個人への攻撃は、さすがに王が止めるかと思っていましたが……悪魔裁判となると……」

「あぁ。(エディ)は死ぬだろうな」


 ユーハンは、眉をピクリと動かす。表情には出なかったが、その手元では、丁寧に伸ばされた書状が再び握りつぶされていた。


 悪魔裁判とは、要は神殿による背教者の処刑を、もっともらしく見せるためのデモンストレーションだ。悪魔ではないと証明するために拷問にかけられるが、()()()()()()()()()()

 生き残れるのは悪魔だけだからだ。


 生き残れば、どのみち殺されることになる。


「王は王女とエディとの婚約を破棄しても良い……オールストレーム公爵家と対立しても良いと考えているということか……」


 ぶつぶつと呟きながら自分の思考をまとめると、ユーハンはアンディシュをじっと見据える。


「父上。今回の爆発騒ぎは、ラーシュの力の暴走だと聞きました。この屋敷まで光が届くほどの爆発など、人に起こせるわけがない。そして、今回の王家の対応を見るに……ラーシュは従妹殿……キルスティ王女の息子なのですね?」


 ユーハンの言葉に、アンディシュはふっと口元を上げるだけで答える。

 ユーハンはその顔を見て大きくため息を吐いた。皆まで言わなくても分かる。まさかとは思っていたが、本当にそうらしい。

 しかし、そもそもなぜ、そんな大切なことを家族にも秘密にしていたのか。ユーハンはアンディシュに詰め寄りそうになる自分を抑える。どうせ、聞いたところで答えなど返ってこないからだ。


「……おかしいと思ったのです。あなたが他所で子供を作ってくるなどと……。ラーシュは、腕にいくつもの魔力抑制の魔道具をつけていましたが、まさかあのような大きな爆発を起こせるほどの魔力を秘めているなんて……」

「大方、王もそれで気づいたのであろうな。義はこちらにあるゆえに何も言って来ぬが、今回神殿を(いさ)めもせず好きにさせているということはそう言うことだろう」

「しかし、なぜラーシュではなくエディを……」

「いや、それはただの嫌がらせであろう。向こうもこちらの出方を伺っているようだ」


 王だって馬鹿ではない。いきなりオールストレーム公爵家と事を構えることはないだろうと、アンディシュは考えている。


「……どうなさるおつもりですか、エディの事」

「さてな……奴の首一つですむのなら安いものだが」


 アンディシュの言葉にユーハンはこぶしを握る。

 家門第一主義の父だ、この答えは予想できていた。

 しかし、ユーハンにはそこまで割り切れない。短い間とはいえ、共に過ごしてきたのだ。しかも、まだ彼はあんなにも幼い。

 ユーハンの頭の中に、救いきれなかった幼いラーシュの姿が浮かぶ。あの日、本人から助けを求められるまで、ユーハンはラーシュの置かれた状況を深く考えることもなかった。すべて終わってから気づいたところで、もう過ぎ去った時間は戻ってこない。あんな後悔はもうこりごりだった。


「エディの魔獣を使役できる能力は、後々の役に立つのではないのですか?」


 エヴァを擁護(ようご)するようなユーハンの言葉にアンディシュは片眉を上げる。


「何だ。お前も奴の肩を持つのか?」

「……お前()?」

「ふん、ラーシュも随分(ずいぶん)と奴に肩入れしているようだな。情に引っ張られるようなら早々に処分するが?」


 アンディシュの鋭い目を、よく似た相貌(そうぼう)で見返しながらユーハンは答える。


「ならば、既に遅かったと言わざるを得ないでしょう。今、公爵家を二分するのは得策ではないかと存じますが?」


 暗に、エヴァを処分するなら父と敵対すると言うユーハンにアンディシュは目を見開く。喜怒哀楽の薄い息子で、何なら自分の考え方に近い考えをすると思っていただけに、それ程の反発を(あらわ)にするとは思っていなかったのだ。


「……神殿に目をつけられたのだ。逃げ切れるとは思うなよ」

(あらが)い逃げ切れなかったのと、最初から差し出すのとでは訳が違いましょう」


 一歩も引かないユーハンにアンディシュは溜め息をつく。


「まぁ、いい。奴の処遇をどうするかは、王の出方次第で決めることにする」


 王宮からの召集令状に書かれていたのは、神殿からの告発に対し、事実か否かを説明せよと言うものだ。最初からこちらの非を()(つら)ね、すぐに裁判にかけよというような文面にはなっていない。


 アンディシュの言葉に少し眼差しを緩めたユーハンを部屋から追い出すと、アンディシュは気だるげに王宮に向かう準備を始めた。


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