22.運命の日3
「おぉい、無事かー!」
団長のランバルドの声と共にたくさんの松明の火が見える。騎士達が助けに来てくれたのだと気づいて、エヴァとラーシュは顔を見合わせた。
あれだけ派手に爆発が起きたのだ。騎士団が動いて当然だった。
そこで、エヴァはハッと気づく。
「そうだ、リクハルド!!僕と一緒に捕まったはずなのに、ここにはいなかったんだ!」
エヴァは近づいてきたランバルドに訴えた。
「団長、僕たちは無事です!でも、黒づくめの大男達にリクハルドも捕まったはずなのに……ここにはいないんです!」
ランバルドはラーシュの顔を見て驚き、ボロボロなものの元気そうなエヴァの姿に安堵した顔をみせる。
そして、エヴァの疑問に答えてくれた。
「どうやら、狙いはお前だけだったらしい。リクハルドは、エディが捕まった後、猿ぐつわをされて、廊下に放置されたということだ。何とか自分で拘束を解いて、俺たちにお前がさらわれたことを伝えに来てくれたんだ。今はもう、部屋に戻っている」
リクハルドが無事だと言う知らせに、エヴァはほっと胸を撫で下ろす。
そして、気が抜けた瞬間、視界が暗転した。
「お、おい!エディ!!」
気絶したエヴァを揺さぶるラーシュを、ランバルドは慌てて止める。
「こら、頭を打っているのかもしれない!揺さぶるな!とにかく医務室に運ぶぞ!」
そして、おーい!と、近くの騎士を一人呼びつける。
振り向いたランバルドは、少し困った顔で呟いた。
「それにしても、ラーシュ。お前はなぜここにいる?」
ラーシュは、少し考えながら、ランバルドに言った。
「……エディの姿が見えなくて、探してたんです。そしたら、あの爆発の光が見えて……たまたま近くにいたから、俺の方が速くここに着いたんでしょう。さっきエディに聞きましたが、オリヤン、エリアス、パトリックは魔道具を持っていて……自爆したみたいです」
ラーシュの証言に、ランバルドは息を飲む。
「自爆、というとあいつらは……もう?」
ラーシュは重々しく頷いた。
「……そうか」
ふー、とランバルドは息を吐いた後、ラーシュに尋ねる。
「使用された魔道具は、どんなものか分かるか?」
「……よく、分かりませんでした」
「そうか……戦闘中にそこまでは分析できないよな」
ランバルドは、そこで言葉を切る。先ほど呼んだ騎士に、エヴァを運ぶように伝えると、ラーシュに向き直る。
「詳細な質問は後日にするので、今は早く戻ってエディを休ませてやれ」
「はい、ありがとうございます」
更に、ランバルドは「念のため」と言って護衛の騎士もつけてくれた。
エヴァとラーシュが去った後、ランバルドやウルリクは現場検証に残った。暗い演習場をたくさんの松明で照らす。
そこで、穴だらけになった演習場に気づいたランバルドは思わず声を漏らす。
「一体何をどうやったらこんなことになるんだ……?」
そして、ほとんど原型をとどめず、木っ端微塵になったオリヤン達のなれの果ての姿に、騎士団員たちは皆顔をしかめた。
魔道具が使われた可能性があると言うことで、急遽バルトサールが呼び出された。
バルトサールは、ばらばらに千切れた魔術具の破片が落ちているのに気づいた。
地面に膝をつき、破片を指でつまみながら、ボソリと呟く。
「……いったい誰が仕組んだんだ?」
バルトサールが何か見つけたらしいことに、気がついたウルリクが、側に寄ってきて尋ねる。
「何か見つかりましたか?」
バルトサールは、手につまんだ魔道具の破片をウルリクに差し出した。
「調べてみないと何とも。でも、表裏に魔石が嵌まっている」
「ふむ、それが何か?」
「……裏の魔石はわざと見えないように仕込まれている。と、いうことは相手に効果を知られたくなかったんだろうね。……例えば、使役のための魔道具、とかね」
バルトサールの言葉にウルリクは目を見開く。
「つまり……オリヤン達は操られていたと?」
「まだ確定じゃないけど」
ウルリクは顎をさわり、考え込む。
――――確かに、ここのところの三人は嫌がらせにしては度を過ぎた行動が多かった……
リクハルドを拘束し、エヴァを三人に引き渡した人物も別にいる。これは単なる虐めで終わらせられる問題じゃ無さそうだ。
ウルリクは溜め息をつき、ランバルドに共有するため歩き出す。
その後ろ姿に、バルトサールは声をかける。
「この魔道具の破片持って帰って分析していい?」
「もちろん、そのためにあなたを呼んだんですから」
ウルリクは答えて、そっと空を見上げる。今夜は長くなりそうだ、とため息をついた。