表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【改稿版】守護者の乙女  作者: 胡暖
2章 騎士団の見習い
48/74

21.運命の日2

 オリヤンの声に、凍り付くエヴァとラーシュ。

 そして、エリアスとパトリックもむくりと起き上がる。


「……そんな馬鹿な!まだ動けるのか!?」

「……三人とも何か、魔道具を、持っているみたい」


 オリヤンに喉元(のどもと)に剣を突き付けられたまま、エヴァはラーシュの独り言のような疑問に答える。


「おい!この孤児が傷つくのが嫌なら、お前は手を出すなよ」


 ラーシュを(にら)み付けながらオリヤンがそう言うと、エリアスとパトリックがラーシュを拘束するべく動き出した。

 ラーシュが抵抗するそぶりを見せると、オリヤンはエヴァに突きつけた剣を動かす。エヴァは、喉をそらすようにして剣を避けた。


「うっ……」


 避けきれずかすった剣先が、エヴァの喉を傷つける。じわりと薄く血がにじんだ。


「くそ……!」


 それを見て、ラーシュは動きを止める。


「はは、策は尽きたようだな!あの魔道具は1回しか使用できないんだろう?……お前はそこで、この孤児が無残(むざん)にやられるところを指を(くわ)えて見ているんだな!!」


 高らかに笑うと、オリヤンはエヴァを地面に引き倒し、立ち上がる。


「やめろ……!」


 叫ぶラーシュを嘲笑(あざわら)うかのように、オリヤンは見せつけるようにエヴァの頭を力一杯蹴り飛ばす。


「ぐ……!」

「やめろっ!!」


 痛みに(うめ)くエヴァ。ラーシュの叫びを、オリヤンは気にもとめない。


 そして、エヴァの頭を靴で()みつけ固定すると、刀身を下に向けた剣をそのまま頭上まで高く振りかぶる。

 エリアスとパトリックに両腕を拘束されたまま、ラーシュは必死で首を振る。


「やめろ、やめろ、やめろ!!!」


 ラーシュから視線をそらさずに、ニヤニヤとした笑顔を向けるオリヤン。


 そして、振りかぶった剣をエヴァ目掛けて振り下ろそうとした刹那(せつな)


 ラーシュの体が、ぶわっと光に包まれた。光の正体は、ラーシュの魔力だった。

 (ふく)れ上がった魔力は、一瞬とどまった後、ラーシュの周囲を巻き込んで爆発した。


 辺り一面を(おおう)う激しい砂ぼこりと爆風をもろにくらって、身動きがとれないエヴァは咳込(せきこ)む。オリヤンも(むせ)ているが、エヴァを踏みつける足はそのままだ。

 身動きできないまま、エヴァはラーシュの方を見ようと必死に目を凝らした。


「げほ、げほ……何が起きた…!?」


 ゆっくりと砂ぼこりが消えていく。


 そこには()()()()()()()()()()()()


「な……!エリアスとパトリックは……!?」


 狼狽(ろうばい)するオリヤンを、ラーシュがじろりと(にら)み付ける。

 ラーシュの体からは、魔力がほとばしっている。そして、ラーシュの腕に着いた腕輪が半分ほどに数を減らしていた。


「……お前も消し飛びたくなかったら、さっさとエディ(そいつ)を離せ」


 ラーシュの言葉に、オリヤンがぎりっと奥歯をかみしめた。


「はっ……そんな(おど)しが通じるか!」


 オリヤンは、ぐっと、エヴァを踏みつける足に力を()める。


「俺がこの孤児を殺る方が早い!」


 オリヤンはそう言うや否や、エヴァに向けて思い切り剣を振り上げた。

 その瞬間、ラーシュを取り巻く魔力がまた一段濃さを増す。ラーシュの腕輪が全て粉々になり、弾け飛んだ。


「がぁぁぁああああ!!!」


 ラーシュの叫び声と共にものすごい魔力の塊が、オリヤンとエヴァに向かって、飛んでくる。

 そのあまりの衝撃に、エヴァの上でオリヤンが成すすべなく消し飛んだ。

 またしても、辺り一面の視界を奪う砂ぼこりに、エヴァは激しく咳込む。


「ああああああああああああああああああ」


 ラーシュは、オリヤンが消滅したことにも気づいていないようで、魔力をあちこちに向かって爆発させている。

 エヴァは目を見張った。


「……大変だ!我を失っている」


 もはや敵味方、見境(みさかい)なしなのだろう。


 バルトサールは、ラーシュの腕輪を魔力封じの魔道具だと言った。魔道具が消滅したことで、ラーシュは魔力を自分でコントロールできなくなったに違いないと、エヴァは気づいた。


「止めないと…!」


 エヴァはよろよろと起き上がると、ラーシュの方へと近づいていく。


 ()()()()、ラーシュは溢れる魔力の(かたまり)闇雲(やみくも)に爆発させているだけで、特に何かを狙っているわけではないようだった。


 エヴァは()()()()()()()()()()()()()()()()()、着実にラーシュの元まで歩いていく。


 そして、エヴァはそっとラーシュを抱きしめた。


 ラーシュはエヴァの腕の中でバタバタと暴れたが、エヴァはその手を離さなかった。

 背中に手を回し、更にぎゅっとしがみつく。


 ラーシュから膨れ上がる魔力によって、エヴァとラーシュは淡い光に包まれた。本来であれば、そのまま爆発するはずの魔力は、ゆっくりと、しかし確実にその勢いを失っていく。


 二人の体を包む光が収まってきたところで、にわかに正気に戻ったのであろうラーシュに突き飛ばされた。


「何で!?お前……!!」


 ラーシュの顔は驚愕(きょうがく)に染まっていた。


「どうして……何ともないんだ?今、俺が……!」


 そして、ラーシュは自分の両手を見たあと、その手で顔を(おお)った。


「俺は、俺は……お前を殺すとこだった……!」


 エヴァは、ラーシュにそっと近づく。ラーシュはびくりと震え、何度も首を横に振る。


「来るな!来るな、来るな!!!……力を制御できないんだ……俺は傷つけることしかできない!こんなの……ただの化け物だ…!!!」


「ねぇ、見て、ラーシュ。僕が怪我をしている?それに今、君の魔力はどうなっている?」


 エヴァの問いかけに、ハッとしたようにラーシュは動きを止める。そして自分の魔力の流れを確認した。


「魔力が……減っている!?いつも発散しても発散しても溢れそうだったのに……!」


 エヴァは、ラーシュにいたずらっぽく微笑んだ。


「ねぇ、ラーシュ。君が秘密を教えてくれたように、僕の秘密も君に教えてあげる」


 そしてエヴァは右手を上げる。


 その手から、エヴァはほわほわと魔力の塊をいくつも作り出し、目の前に浮かべていく。

 小さな魔力の塊は球体となり、淡く発光しながら空中を(ただよ)っていく。それは幻想的な光景だった。

 その魔力の塊をラタが、ぱくりぱくりと食べている。


 ラーシュは目を見張った。


「……お前、魔法が使えるのか?……いや待て、お前平民じゃ……?」


 エヴァは魔力の塊を作り出す手を止めて、ラーシュににこりと笑ってみせた。


「これは君の魔力だよ。平民の僕には魔力はない。でも、僕はね、()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()

「そんな……馬鹿な…!」


 あんぐりと口を開けたラーシュにエヴァはあっけらかんと言う。


「あはは、でも仕方ないよね。出来るんだから」


 そして、ラーシュの両手を自分の両手でぎゅっと握った。


「君がこれ以上誰かを傷つけることがないよう、僕がずっと側にいる。魔力が溢れそうになったら、僕が吸収してあげる。もし君の魔力が暴走したって大丈夫。僕なら、君を止められる」


 事態がうまく飲み込めず、ポカンとした顔のラーシュにエヴァは真剣な顔をして言った。


「二人なら、怖くない。大丈夫だよ、ラーシュ」


 ラーシュは、エヴァの言葉を噛み締めるように、ゆっくりと目を閉じた。


 ――――あぁ、コイツが欲しい。性別とか、年齢とか、そんなものどうだっていい


 それは強烈な渇望(かつぼう)だった。

 ラーシュは、神が自分のためにエヴァを遣わしてくれたのではないか、そんな気持ちにすらなった。

 家族愛として、ゆっくりと育てていた感情が、唐突(とうとつ)に花開いたのだ。


 ――――コイツが側にいてくれるだけで、俺は人間になれる。


 ぽろりと両目から涙を流すラーシュに、エヴァはおろおろと慌てる。


「な、泣かないでラーシュ」

「泣いてない」

「え?えええ?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ