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【改稿版】守護者の乙女  作者: 胡暖
2章 騎士団の見習い
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16.攻撃

 次の日の午後の訓練は、実践形式の一対一だった。

 普段は実力ごとで分けられた班で練習しているが、月に一度勝ち抜き(トーナメント)形式の模擬戦(もぎせん)をし、班員の入れ替えを行うらしい。


 誰と当たるかは(くじ)で決まる。


 しかし、エヴァの対戦相手がオリヤンだったので、何か細工をされたかなと、ため息をつく。

 「大丈夫か?」とラーシュに聞かれエヴァは力なく笑う。


「まぁ、刃を(つぶ)した模擬剣だし…たぶん大丈夫」


 しかし、そう甘くはなかった。


「開始」


 合図の瞬間、飛ぶようにオリヤンが距離をつめてくる。

 おおきく振りかぶって、振り抜かれた剣を受けるために、エヴァは慌てて腰を落とした。


 ガキン


 顔に向かって振り下ろされた剣を、なんとか受け止めたものの、オリヤンの力は凄まじく、エヴァの顔先でギリギリと剣が擦れる音が聞こえた。エヴァの心臓が早鐘のように鼓動を打つ。


 ----これは……ちょっと、まずいかも……。


 転がるようにして、エヴァは逃げる。オリヤンが追いかけてくる。


 模擬戦なので、剣を落としたら敗けなのだが、オリヤンは決まってエヴァの頭ばかり狙ってくる。狙いが単調で避けやすいといえばそうなのだが、万が一当たった場合、いくら模擬剣とはいえ、力一杯頭に振り抜かれたら、ただでは済まないだろう。まさか、そんなこと、とは言えない気迫で相手は迫ってくるのだ。


 結果、致命傷を負わないように、エヴァはひたすら逃げるはめになった。


 おまけに、ついでのように腰や足を殴打(おうだ)されている。おかげできっと身体中アザだらけだろう。


 本来であれば、剣以外での攻撃は反則だ。


 ここまで一方的な試合であれば、普通は終了になってもおかしくないが、審判役もパトリック----おそらく、強引に代わったのだろう、が務めているので止めてくれる気配もない。


 一番最初の対戦は組数も多く、一斉にやるので、団長も副団長もこの状況に気が付いていないようだった。

 エヴァはふらふらになりながら、ユーハンに(もら)った魔道具を発動させるべきか迷う。


 こんなに直接的に手を下してくるような相手ではなかったはずなのに……。昨日のお茶会での挑発が効きすぎたかなぁと、エヴァはため息を着きたい気分だった。


 一瞬ぼんやりしていたせいだろう、相手の打ち込みに反応が遅れた。剣を思わず取り落としたところで、足払いを受けて転ばされる。エヴァの頭に向けて思いっきり剣が振り下ろされ、咄嗟(とっさに)に手で顔面をかばう。


 ガキン、と金属のぶつかる音がする。


 エヴァは身をすくませたが、予想していたような衝撃は来ない。

 エヴァが恐る恐る目を開けると、視界いっぱいにルーカスの背中が見えた。


「お前達、うちの弟に何をやっている!勝負は既についているだろうが!!」


 大きな声でルーカスが吠える。


 その大声に、周囲が気付きざわざわし始める。

 騒ぎに気付いた、ウルリクが寄ってくる。

 エヴァは、助かった、とやっと肩から力を抜き、そのままべしゃっと潰れた。


「だ、大丈夫か!?」


 慌てた様にルーカスに声をかけられるが、小さく頷くのが精一杯だった。

 怖かった。

 エヴァは力を入れすぎてか、恐怖からか、震える手をギュッと握りこんだ。


「おい、ルーカス。状況を説明しろ。エディは誰かに医務室に連れていってもらえ」


 ウルリクに言われ、ニコライが静かに手を上げた。


「俺、ペアなんで医務室付き添います」


 ニコライに肩を支えられ、エヴァはよろよろと歩いた。

 しかし、恐らくベルタはニコライにエヴァの性別の事は伝えていないだろう。


 ----まずいことになったなぁ……。


 しかし、エヴァは今はとにかく休みたかった。


 騎士団の医務室は寮の中にある。

 二人が寮の前まで帰ってきた時、不意にニコライが呟いた。


「……お嬢様?」


 その声に、エヴァは項垂(うなだ)れていた顔を上げる。


「ホントだ」


 アンナリーナは、エヴァの姿が見えるとこちらに駆け寄ってきた。肩にラタが乗っている。

 ラタがどうにか知らせてくれたのかと、エヴァはぼんやり考えた。


「まぁ、エディ!ひどいわ、何て事!ニコライ、エディは王宮に連れていきます。何か異常があったら困るもの!ランバルドに伝えてくださる?」


 アンナリーナの気迫に圧され、ニコライは頷く。

 エヴァは、ニコライからベルタに引き渡され、ベルタに支えられながら馬車まで歩く。

 ニコライの姿が見えなくなってから、アンナリーナがぼそりと呟いた。


「よく頑張ったわね、エヴァ」


 エヴァは、ふっと力が抜ける。

 まさかここまで助けにきてくれるとは思わなかった。

 アンナリーナには性別もばれている。もう、大丈夫だと思えた。


「ありがとう、アンナ」


 そう言ってエヴァは意識を手放した。

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