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【改稿版】守護者の乙女  作者: 胡暖
2章 騎士団の見習い
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7.初めての実技訓練

 二週間ほどの基礎訓練を経て、今日からはエヴァ達も他の団員たちと剣の訓練に入る。


 この二週間でめためたに体力を削られたエヴァは訓練が始まる前から、げっそりとしている。さすがに、ラーシュも疲れた顔をしていた。ラーシュどころか、新入りは皆、多かれ少なかれやつれた顔をしている。


 しかし、それ以外の団員は普通の顔をしているかといえば、そうでもない。皆一様に暗い顔をしている。

 そして、その原因となる人物は、ニコニコと笑いながら高らかに声を張り上げた。


「さぁ、遠慮はいらん。誰からでもかかってこい!」


 エヴァがニコライに聞いたところによると、これは毎年の恒例行事(こうれいぎょうじ)なのだそうだ。


 団長ランバルド直々(じきじき)による実践型(じっせんがた)訓練(しごき)

 普段、ランバルドが剣を交えるのは副団長のウルリクなど、それなりに腕の立つ人間だけなのだが、毎年、新入団員の初めての剣の稽古(けいこ)だけは、団長自ら参加して、だれかれ構わずにしごき倒すという。


 新入りに自分との実力差を見せ奮起(ふんき)させること、早期に見込みのある芽を見つけること、新人以外の者達の1年間の成長を見るためと、色々理由はあるらしいが……。

 ランバルドの輝く瞳を見る限り、一番の理由は自分が楽しいからなのでは?とエヴァは心の中で思った。


 エヴァは、半年間ランバルドとウルリクの指導を受けたとはいえ、実際の打ち合いはほとんどラーシュが相手だった。だから、ランバルドがどんな訓練を見習いたちにつけているのか、本当の意味では分かっていない。

 先輩たちの顔を見るにつけ、この訓練、決して楽しいものではなさそうだと、エヴァはため息を吐いた。


 団長の掛け声に、「おぉ!」と声を上げ、ルーカス他数名がランバルドに向かって行く。

 どうやら、腕に覚えのある者から向かっているようだ。一度に向かってきた10名弱を相手に、ランバルドは涼しい顔だ。それでも、最初の方の組はまだ、うまく打ち合えていた方だった。

 段々と一太刀でランバルドに倒される相手が増えていく。


 エヴァは最後に残るのは嫌だな、と適当なところで向かって行く。

 案の定、あっという間に剣をはじかれた。


 そこで終われたらよかったのだが、終了の合図があるまでは何度でも団長に向かっていかないといけないらしい。

 人にもみくちゃにされ、ランバルドに何度も打ち据えられ、エヴァはボロボロだった。

 そして、他の団員も皆同じような状況だった。


 ヘロヘロになりながら、エヴァが何度目かの突撃をかけかけた途端、「そこまで!」という、ウルリクの声が響いた。打ち合いが止まり、団員たちが次々に地面に(ひざ)をつく中、団長だけが飄々(ひょうひょう)とその場に立っていた。エヴァも崩れるように、地面に倒れ込んだ。


 しかし、息をつく暇もなく、全員がウルリクのそばに集められる。

 どうやら、ウルリクは打ち合いを見ながら相手の力量をメモしていたようだ。そこから実力ごとに組分けが発表され、20人ほどずつ6組に分けられる。


 ラーシュ・リクハルド・エヴァは同じ組だった。これから頑張りましょうの組だ。新人はほとんどが、この組に入れられていた。

 そして、ニコライは中間クラス。ルーカスは上位クラスだった。別にウルリクがそう言ったわけではないが、顔ぶれを見れば大体わかるというものである。


 くすくすと笑う声が聞こえ、エヴァは声の方を見た。

 中間クラスの上位寄りに、オリヤンの姿が見えた。

 歓迎会の日に突っかかってきてから、オリヤンは何かとエヴァを目の敵にしている。他の団員は一応、エヴァの家名に遠慮(えんりょ)して、影で悪口を言おうとも、直接向かってくることは少ない。

 しかし、オリヤンはクロンヘイム侯爵家の出身であり、そのことを大変誇りに思っている。孤児から公爵家に入ったエヴァの方が自分の実家よりも位が上だという事がどうしても許せないらしい。一度面と向かってそのようなことを言われた。

 めんどくさいなぁと、エヴァは頬を掻く。


 オリヤンは、常に一緒にいる伯爵家のエリアス・ブラントと子爵家のパトリック・ハーララと共にエヴァを馬鹿にするように見、声高らかに悪口を言う。


「見ろよ、あいつ。最下位クラスだぞ」

「あの剣筋(けんすじ)見たか?あんなへなちょこで、王女の婚約者なんて笑わせるよな!」

「本当だ。あんな実力で、よく特別枠で入団してきたものだよ」


 はぁ、とエヴァはため息を吐く。オリヤンたちの方をまっすぐ見て言い返す。


「別に剣の腕がいいことが、アンナリーナ様との婚約の条件ではないし、特別枠での入団を決めたのは僕の保護者だ。そんなことを僕に言われても困る」


 オリヤンたちは、エヴァに言いがかりをつけてくるくせに、エヴァが言い返すと顔を真っ赤にするのだ。どうして言われっぱなしでないといけないのか。エヴァは首をかしげる。


「お、お前何を堂々と!恥ずかしくないのか!?」

「別に恥ずかしくないよ。僕は剣を習って半年だ。しかもまだ10歳だ。僕に負けたら恥ずかしいのは君たちの方だろう?」

「……!」


 オリヤンたちは口をパクパクしている。

 ラーシュが、そっとエヴァの肩を叩く。もうよせ、の合図だ。エヴァは肩をすくめた。

 その様子を見て、ランバルドとウルリクはふむと頷いた。


「お前たち、しょうもないことを言っていないで、各々鍛錬(たんれん)に入るように」


 ウルリクは急かすようにパンパンと両手を叩く。

 ざわついていた野次馬(やじうま)を含め、皆それぞれの場所に分かれて散った。


 エヴァはラーシュと向かい合って剣を構える。

 ラーシュとの打ち合いはこの半年ずっとやってきたので、これまでの練習に比べてだいぶ気が楽だ。

 ラーシュもいくぶんかリラックスした様子で、剣を合わせながら小声でエヴァに話しかけてくる。


「お前、あいつらに目をつけられてるな……」

「ホントめんどくさいよねぇ。まぁ、でも1年の辛抱(しんぼう)だと思うことにする」


 そう、オリヤン達は16歳。今年さえ乗り切れば見習いではなくなるのだ。正式に配属が決まれば顔を合わせる機会はぐっと少なくなる。

 ラーシュは、あぁと頷いた。


「だが、この1年、何があるか分からない。兄上からもらった魔道具を肌身から離すなよ」

「はぁい」



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