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【改稿版】守護者の乙女  作者: 胡暖
1章 貴族の養子
24/74

24.稽古

 初回の訓練の日はすぐ決まった。

 ラタがアンナリーナに手紙を持って行ったら、その日のうちにランバルドから、日時指定の手紙が公爵家へと届いたのだ。

 指定された日、騎士団からご丁寧に迎えの馬車が来たので、エヴァとラーシュはそろって騎士団の演習場へ向かった。


 到着すると直ぐにアンナリーナが日傘を差したベルタを伴い現れた。初日だというのに、アンナリーナはさっそく見学に来たようだ。ベルタが見習いであろう騎士とともに、演習場の隅に日除けとテーブルとイスをセッティングしている。

 アンナリーナはじっくり腰を据えて見ていくようだ。


「よう、来たな!」


 軽く手を挙げて、ランバルドとウルリクがやってきた。

 ランバルドとウルリクはアンナリーナに略式の礼をとり、エヴァとラーシュに向き直る。


「まずは、実力を見せてもらおうかな?」


 そう言って、エヴァとラーシュに木剣を渡す。恐らく子供用なのだろう。対面し構えるランバルドのものより短い。剣を持ったことはないエヴァはもとより、ラーシュも剣をどう構えていいか分からないように、じっと見つめている。ウルリクがそれに気づき、持ち方を二人に教えてくれた。


「型とかは気にしなくていい。とりあえず、二人ともかかってこい!」


 ラーシュが意を決したように、剣を振りかぶって突っ込んでいき、軽くいなされる。

 エヴァも同じように突っ込んで、あっという間に剣をはじかれた。


「ふむ。素振りからだな」


 ランバルドは豪快(ごうかい)に笑う。ラーシュは少し恥ずかしそうな顔をしている。


「なに、みんな最初は初心者だ。今からやっていれば、入団までに基礎は身につく」


 ランバルドは、エヴァの監視を目的にしているにせよ、こうしてど素人のエヴァとラーシュに、わざわざ稽古をつけてくれるのだから良い人だ、とエヴァは思った。

 少なくとも稽古自体は人に任せてもいいわけで、忙しい団長自らが、時間を割いてまで指導してくれるとは思っていなかった。

 ラーシュは入団まであと半年ほどだというし、どんな経緯であっても、騎士団の頂点にたつ人に指導してもらえるのはいいことだ。……そこまで考えて、エヴァはふと自分はどうだろうと思い至る。


 見習いになる13歳まで、エヴァにはあと三年と少し。


 ――――13歳になったら、自分も騎士団に入るのかなぁ。それまで男装続けられる?


 漠然とした不安が胸の内に巡る。いくら、アンナリーナの庇護があるとはいえ、身体の成長は止められない。


 ――――ま、今から考えても仕方ないか。


 エヴァは考えることをやめ、ランバルドに教えてもらいながら、見よう見まねで素振りを開始した。



 ◆



 2時間ほどが経った頃には、普段ほとんど運動をしないエヴァはもちろん、ラーシュも汗だくで、くたくたになっていた。


「一旦休憩だ」


 ウルリクの苦笑混じりの言葉に、二人は地面に倒れこんだ。


「そういえばお前たち、騎士団についてはどのくらい知っている?」

「13歳で入団できることしか……」

「僕は、全然知りません」


 ランバルドに聞かれたラーシュとエヴァは地面に座り込んだまま、答えを返す。

 二人の答えに軽くうなずきながら、ウルリクが説明を引き取った。


「よろしい。では最初からだな。私から説明しよう。まず、騎士団は守護騎士団と王立騎士団という二つの組織に分かれている」

「守護騎士団?」


 ラーシュの疑問の声に、ウルリクは「あぁ」と頷く。


「守護騎士団は普段王都にいないから馴染(なじ)みがないか。守護騎士団は、主に、運河と外の海から侵入してくる魔獣退治を担っている騎士団だ。学者の領、祈りの領、職人の領の三エリアを、それぞれの守護騎士団長が率いており、団長は辺境伯として領地に着任している」

「へえー、そうなんだ」


 ここでランバルドがキラキラした顔で、口を挟んだ。


「守護騎士団長は通称守護者(ガーデアン)とも呼ばれていてな。魔獣の対処が主な仕事だから、何よりも強さを重視して選ばれる。しかも、王立騎士団の団長職と違って、就任と同時に貴族の位を授けられるから、貴族でなくてもなれる!完全実力主義だから、平民出身の騎士も多いんだぞ……まぁ、現辺境伯家の子は(きた)え方が違うし、実力のあるものを養子に迎え入れることも多いがな」


 ウルリクは、「成り上がりは男の浪漫(ろまん)だよな」と力強く訴えるランバルドをハイハイといなし、説明に話を戻す。


「そしてもう一つは、我々の所属する王立騎士団。第一騎士団から第三騎士団まである。王都の治安維持(ちあんいじ)が主な仕事だが、王都外に出ることもある。王都周辺の魔獣の討伐や、王族がどこかを訪問する際の警護とかな。エディと森で出会ったのも、王族の警護で出向いた時だったな」


 エヴァは思い出すように頷く。


「最後に、これは騎士団から独立した王族直下の組織だから厳密(げんみつ)には騎士団には含まれないが、王族を守る近衛(このえ)という役割がある。王立騎士団の見習いから選ばれるが、選ばれるのは伯爵家以上の家に限られる。自らの志願ではなく王族より任命されることによって配属される。ま、簡単だが、以上が騎士団の組織概要(そしきがいよう)だな」


 そこで、ウルリクは一度言葉を区切った。


「まず13歳になると見習いとして騎士団に入団する。見習いは第一騎士団所属だ。そして、成人する16歳まで見習いとして過ごし、17歳で自分が所属する、騎士団を選ぶことになる」

「お前たちには、ぜひとも第一騎士団を選んでもらいたいものだな」


 ウルリクの言葉に続け、ランバルドが言う。

 その口元は笑っているが、目元は真剣だった。

 エヴァとラーシュは顔を見合わせる。


「まぁ、今すぐ決めろというのも酷な話だ。これから、ラーシュの入団までは定期的に稽古に来るといい。私か団長ができる限り相手を務めよう」


 ウルリクはそう言って、胸を叩いて笑った。


 そして、具体的にこれからの稽古についての話になる。

 稽古には週2回、騎士団に来ることとなった。家で素振りができるように、木剣も貸してくれることになった。


 それから2時間ばかり練習してその日は解散となった。


 帰り際、エヴァはルーカスが稽古しているのを見つけたが、ルーカスはこちらを見ようとしなかった。


 しばらくじっとそちらを見ていたエヴァだが、アンナリーナに呼ばれ、アンナリーナの方に向かう。ラーシュもちゃっかりついてきて、一緒にお茶をごちそうになった。

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