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【改稿版】守護者の乙女  作者: 胡暖
1章 貴族の養子
23/74

23.ラーシュの憂鬱2

 時間は深夜。屋敷の者たちがすべて寝静まった頃。


 オールストレーム公爵家の演習場にラーシュはいた。

 公爵家ともなると私兵を召し抱えている。ここは、その者たちの鍛練(たんれん)のために用意された場所だ。

 普段は、護衛や私兵が訓練のために集まり、人でにぎわっている演習場は、今はとても静かだった。


 その一角で、ラーシュが右手を前に突き出すようにして立っていた。

 その腕には、いつもの腕輪はない。全て外して無造作にポケットに突っ込んでいた。


 どーん、どーん、どーん


 ラーシュが少し右手に力を()めると、手のひらにぶわりと明るい光が広がり、演習場に立てられた狙撃用の的に向かって飛んでいく。光が当たると、的は跡形もなく消え去った。


 そうして何度か魔力を放出すると、ラーシュはため息を吐く。

 頭の中はエヴァのことでいっぱいだった。


 (まさか、あいつに置いていかれることに、怯える日が来るなんて……)


 今日、思いがけず自分の依存心に気づいてしまったラーシュは、動揺(どうよう)が抑えられず、こうして夜に部屋を抜け出して来たのだった。


「あいつがこの力を知ったら……」


 口にした言葉に引きずられるように、過去の記憶がよみがえる。

 

 ラーシュの魔力は、彼自身にも制御できないほどに強い。

 実は、貴族は魔力を持っていると言っても、ラーシュのように魔力のかたまりを放出することが出来る者は、いない。魔石の補助がないとほとんど役に立たないのだ。


 ラーシュは、常識では考えられないほどの、規格外の魔力を持っていた。

 初めてその魔力が向かった先は、ラーシュの義母アグネスに対してだった。


 ラーシュが4.5歳くらいの頃だっただろうか。ルーカスと楽しそうに庭で花を見ていたアグネスに、自分も一緒に遊んでほしくて、近づいた時だった。

 アグネスは、何か汚いものでも見るように、ラーシュを見下ろした後、声をかけることなく、ルーカスの手を引いて立ち去ろうとした。待ってほしくて、ラーシュは泣いた。

 その瞬間、光がアグネスに向かって行き、アグネスは怪我をした。幸い、コントロールできないその力はアグネスをかすめただけで、直撃はしなかったが、その時血まみれで倒れた母を目にしたルーカスは、その日から一層ラーシュに辛く当たるようになった。

 そして、その日から、感情を揺らす度、魔力が暴走するようになったのだった。


 めちゃくちゃになった部屋の惨状(さんじょう)を見て、魔力のコントロールができないラーシュを怖がった屋敷の使用人は、皆ラーシュに近寄らなくなった。今では、アルフが必要最低限の用をこなしてくれる。



 それからラーシュは、アンディシュから渡された魔道具で普段は魔力を封じている。しかし、それも一か月ももたずに壊れる。

 だんだん強くなる力は、魔道具でも抑えきれない。あふれそうな魔力はこうして夜にひっそり打ち出すことで解消しているが、このままでは、いつか誰かを傷つけるのではないか……。ラーシュはそう恐れていた。


 そしてそれは、今一番近くにいるエヴァなのではないかと……。

 ラーシュは、自分を見る使用人たちの顔を思い出して憂鬱(ゆううつ)な気分になる。


 ぶわり、と体内の魔力が膨れ上がった。


 しまった、と思った時には演習場の壁代わりに立っていた、目の前の木々が吹き飛び、ポカリと空間ができていた。ラーシュは額を押さえ、大きくため息を吐いた。


「あいつがこの力を知ったら……」


(化け物と言われ、もう今のように気安くは接してくれなくなるのだろうか。……屋敷の者たちのように)


 そう考えて、ラーシュは思わずぶるりと身震いした。


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