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【改稿版】守護者の乙女  作者: 胡暖
1章 貴族の養子
21/74

21.一緒に行く?

「毎日毎日、何をしに王城に行ってるんだ」


 ユーハンの授業の後、王城に行く準備をするエヴァの前に、仁王立ちして、ラーシュは言った。


「……何か怒ってる?」


 エヴァはこてんと首をかしげて問いかける。


「別に怒ってない!……質問に答えろ!」


 目を三角にしながら、語気荒くラーシュは言う。言葉と表情が一致してない。

 やっぱり怒ってる、と思いながらエヴァは答える。


「お茶したり、お話ししたり……ラーシュも一緒に行く?」


 質問に答えながら、自分と仲良くしてくれている二人が仲良くなってくれたら楽しいな、と思いエヴァはラーシュも誘ってみることにした。

 何か物言いたげな顔をしたが、意外にも素直にラーシュは頷いた。


「……行く」

「アンナに聞いてみるね」


 珍しいな、と思いながらラーシュを見上げると、ラーシュは苦虫を噛み潰したような顔でひきつった笑みを浮かべていた。


「王女と随分仲良くなったみたいだな」

「うん!」


 ラーシュの言葉に、エヴァは嬉しそうに笑うと、小さな紙を取りだし、ラーシュと共に向かう旨を書いてラタに渡す。

 小リスの魔獣がアンナリーナの元へと走り去るのを見ながらラーシュはため息をついた。


「……お前、王女の元にも魔獣(あいつ)を行かせてるのか」


 エヴァは不思議そうに頷く。


「早くて便利だよ?」

「……そう言う問題じゃない」


 ラタはアンナリーナからの返事を持って、あっという間に帰ってきた。小さな紙に(OK)と書かれていたので、ラーシュを伴って王城に向かう。



 ◆



 門の前まで、ベルタが迎えに来てくれていた。今日はどうやら、庭園でお茶をするらしい。エヴァとラーシュは、ベルタに先導され庭園に向かう。


「お嬢様をお連れします。少々お待ちください」


 ベルタがそう言って退席した後、給仕係のメイドによって、二人の席に紅茶が用意された。


 その時、向こうからこちらに向かってくる人影が見えた。


「よう、エディ。今日も王女と会うのかい?」


 気安げに声をかけてきたのは、騎士団長のランバルドだ。横には副団長のウルリクもいる。

 なぜ予定を知られているのかと、エヴァは首をかしげる。


「……どうして?」

「どうしてって、お前。……ここ最近、このくらいの時間に毎日王女と会っているだろ?王城中、お前の噂で持ちきりだぞ!?」


 ランバルドが笑顔でそう言うと、怒ったような顔をしたラーシュがエヴァに詰め寄った。


「ほら見ろ!互いに相手のいない男女が、毎日、毎日会っていれば噂がたつに決まってるだろ、この考え無し!!」


 ラーシュの剣幕にエヴァは目を丸くする。


 でも、と思う。


 アンナリーナはエヴァのことを餌だと言った。

 だから、こんな風に噂が広がるのは、アンナリーナの望むところなのだろうとエヴァは思った。


 ----アンナの目論見通りに進んでいるのなら、いいんだよ……ね?


 たいした反応を見せないエヴァに苛立ったラーシュがさらに言い募ろうとすると、ウルリクが間に入った。


「まぁまぁ、微笑ましいことじゃないか。……ところで、君は、オールストレーム家の三男のラーシュ君で合っているかな?私は、第一騎士団副団長のウルリク・ボードストレームだ」

「……ラーシュ・オールストレームです」

「やはりそうか!実は今、騎士団はたいそう人不足でね。来年騎士団に入団する予定の君に、入団後、少しでも早く戦力になってもらうために、今からでも騎士団で稽古(けいこ)をつけたらどうかと、ルーカスに言づけたんだが聞いているか?」


 ウルリクに言葉をかけられたラーシュは、酸っぱいものを飲んだように、少し顔をしかめる。そして、言葉を選ぶようにしながら、答えを返した。


「いや……俺とルーカス、兄上は……あまり、仲がよくないので」


 ウルリクはその返答に、少し目を見張り、(あご)をさわりながら「……兄弟仲は想定外だったな」と低めの声で呟いた。

 そして、気を取り直したように言った。



「じゃぁ、今考えてくれ。どうかな?悪い話じゃないと思うが」

「……とてもありがたいお話しですが……少し考えさせてください」


 ラーシュの答えに、ランバルドとウルリクが意外な言葉を聞いたかのように目を見張った。


「……何か不安でも?」


 ランバルドが静かに問いかけると、ラーシュは首を振る。


「……父上に許可を取ってからでないと」


 それもそうか、と二人は顔を見合わせ、納得したように頷く。次に、ランバルドはニコッと笑ってエヴァの方を見る。


「エディも一緒にどうだ?」

「うーん?僕も父上に相談したいです」



 その時、後方に視線をやったランバルドとウルリクが、突然ハッとしたように、その場に(ひざ)をつき頭を下げた。


「まぁ、良いじゃない、エディ。わたくし、殿方(とのがた)は強い方が好きよ」


 突如(とつじょ)割り込んできた声に、エヴァとラーシュも驚き振り返る。


「……アンナ」

「王女殿下におかれましてはご機嫌麗しく」

「あぁ、堅苦しい挨拶は結構よ。ここは私的な場ですからね」


 アンナリーナはさっさと手を振って、ランバルドとウルリクを立ち上がらせる。二人は苦笑しながら指示に従う。


「先ほどのお話しですけれど、わたくしは賛成ですわ。ねぇ、ランバルド。わたくしもたまに見学に行かせてくださいね」


 おほほ、と笑うアンナリーナにランバルドは、もちろんと()け負う。どことなく外堀を埋められている感覚に、ラーシュは焦っていたが、エヴァは別のことが気になっていた。


 急に現れたアンナリーナは、いつものように隙の無い立ち姿だが、少し息が切れているように感じられた。いつも微笑んでいるその口許が、いつもより一際深く笑んでいた。

 エヴァの考えすぎだったかもしれないが。


 ◆


「なぁ、オールストレーム公爵。どうやら、我が娘アンナリーナと、そなたの新しい息子が、先の茶会で随分(ずいぶん)と仲良くなったようだ」


 玉座のマクシミリアンは楽しそうに口許だけで笑う。

 その正面で、片膝をついたアンディシュも頷く。


「そのようですね」

「私も娘は可愛い。できれば好いた者と(めあ)わせたい。どう思う?」


 ――――この狸が。心にもないことを。


 アンディシュは心の中で毒づきながらも、マクシミリアンの提案はこちらにも好都合か、と考える。

 エディは孤児。失ったところで問題はない。それよりは、少しでも王城内部に伝ができる利点の方が大きいと判断した。


「我が公爵家としてはこの上ない名誉と存じます」


 アンディシュは、深く叩頭し、そう言った。

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