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【改稿版】守護者の乙女  作者: 胡暖
1章 貴族の養子
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18.謁見とお茶会

 エヴァは、義父(アンディシュ)に連れられ王城の謁見の間にいた。

 さすが王城だけあって、内装も豪華絢爛(ごうかけんらん)である。複雑な彫刻が施された玉座は、エヴァたちのいる所より、数段高い場所にある。入り口から玉座までは、金糸で刺繍(ししゅう)のされた真っ青な絨毯(じゅうたん)がまっすぐに敷かれている。玉座の上の窓はステンドグラスになっており、玉座に向かってキラキラと複数の色を持つ光が入っていた。

 エヴァは思わず見とれそうになったが、アンディシュに促され、膝をつき、叩頭(こうとう)の姿勢で、陛下の入場を待つ。

 やがて声がかけられた。


「頭を上げよ」


 アンディシュとエヴァはゆっくりと頭を起こした。

 玉座に座るマクシミリアン陛下は、輝くような金髪と、宝石のような碧の瞳をしていた。しかし、その眼差しの鋭さから、容姿の(うるわ)しさより、威圧(いあつ)されるような強さを感じる。

 蛇のような目だとエヴァは思った。


「本日は斯様(かよう)に御時間を(たまわ)り、有り難く存じます。我がオールストレーム公爵家に新たな顔を迎えましたので、ご挨拶に()(さん)じました」


 アンディシュの言葉にマクシミリアンは頷き、じろっとエヴァの方を見た。


「本日はご拝謁(はいえつ)栄誉(えいよ)(たまわ)りまして、ありがとうございます。エディ・オールストレームと申します。この国の忠実な臣として、陛下の治世をお支えする一助となるべく精進いたします」


 エヴァはユーハンに教わった言葉を、噛まないように、丁寧に発言した後、綺麗にお辞儀をする。


「……そなた、魔獣を操れるそうだな。騎士団からも報告が上がっておる。先ほどの己の言葉、ゆめゆめ、忘れぬようにな」


 頬杖(ほおづえ)をつきながら、マクシミリアンは微かに唇の端を持ち上げたが、その目は全く笑っていなかった。


「……はい」


 エヴァは丁寧に頭を下げた。

 こうして、謁見は恙無(つつがな)く終了した。





 謁見の間を出て、お茶会の開催される中央庭園へと向かうと、ラーシュが心配そうな顔で待っていた。

 アンディシュは、庭園までエヴァと一緒に来ると、帰りにまた迎えに来ると言い残して何処かへ行ってしまった。


「……謁見どうだったんだ?」

「んー?王様の顔が怖かった」


 エヴァの答えにラーシュは脱力して違うと言う。


「お前の感想なんか聞いてない。陛下に失礼は無かったのか?」

「うん、ユーハンと練習したとおりに話したし、父上も何も言わなかったよ」

「そうか」


 ほっとしたような顔のラーシュにエヴァはにへへと笑う。


「心配してくれてありがとう」

「……別に。お前の失敗は、我がオールストレーム公爵家の恥になるから……だからだ」


 バカなことを言ってないで行くぞ、とラーシュは庭園の中央に向かう。エヴァは遅れないようについていく。

 中央は見事な薔薇(ばら)生垣(いけがき)が作られ、外から中がのぞけないようになっていた。

 生垣は円形に作られ、中は20、30人が入っていても狭くないほどの広さがあった。

 エヴァには、会場の隅に用意された色とりどりのお菓子の方が興味を引いたのだが、ラーシュに引っ張られ、そちらに行くのは諦めた。どうやら、立食形式のようだ。後で行こうと、エヴァは心に決める。



 会場の中心にはすでに人だかりができていた。ほぼ、男の子のようだが、少しだけ女の子もいる。

 中心には女の子がいた。


 ――――彼女が王女様か。


 マクシミリアンそっくりの金髪碧眼。しかし、陛下とは違う、柔らかそうなふわふわとした髪をツインテールにしている。額をしっかり出した髪型は、大きすぎて零れ落ちそうなとろんとした眼と、それに反して、意志の強そうな上がった眉をしっかりと見せていた。扇で口元を隠しながら話をしている。

 ずいっと、ラーシュが王女に近づく。


「ご挨拶させていただいてもよろしいでしょうか?アンナリーナ王女」

「許します」

「オールストレーム公爵家が三男、ラーシュ・オールストレームです。本日は、我が家に養子として迎えました、弟のエディをご紹介させていただければと思います」

「初めまして、エディ・オールストレームと申します。どうぞよろしくお願いいたします」


 そう言った、エディの顔を見つめ、アンナリーナは微かに眉を寄せた。


「よろしくお願いいたしますね、エディ。お幾つかしら」

「9つです」

「まぁ、わたくし13歳なの。どうぞ仲良くしてくださいね」

「もったいないお言葉です。お近づきのしるしにこれを」


 エヴァは出発前にユーハンに持たされた、ころりとしたかわいらしいガラス瓶を差し出す。


「まぁ、香水?」

「我が領の特産品である、ナタリアの花を使った香水です。お試しいただけますと幸いです」

「ありがとう」


王女は、付き従う侍女に目配せして、エヴァの差し出す香水を受け取らせた。当たり障りのない話をして離れる。

 これで今日の予定は終わりだと、晴れやかな気持ちのエヴァは、そっとラーシュに耳打ちする。


「もうお菓子食べに行っていいかな?」

「………食べ過ぎるなよ」


 どうやらラーシュはお菓子は好まないらしい。

 お茶を楽しむために座れる席がいくつか用意されており、そちらで休憩するという。

 エヴァは一人で、お菓子を眺めに行く。

 さすが王城のお菓子。一つ一つがとても凝っている。王女主催のお茶会だからだろうか、一口サイズのものが多い。

 給仕係のメイドに少しずつ色々な種類を取り分けてもらい、ラーシュの所に戻って、お茶を飲みながら楽しむことにした。


「あっ」


 戻る途中、メイドと接触した。ばしゃ、とエヴァの肩のあたりに水がかかる。グラスが落ちて砕ける音がした。メイドは焦げ茶の瞳を大きく見開いていた。


「も、申し訳ございません!お怪我はございませんか」

「大丈夫。ごめんね、よそ見してた僕も悪いんだ」


 向こうで、ラーシュが目を見開いているのが見える。立ち上げって急いで、エヴァの方に向かっている。

 それより早く、メイドに誘導される。


「お風邪を召されてはいけません、どうぞこちらへ」

「えぇ?」


 大丈夫と言おうとしたエヴァは有無を言わせず、中央庭園を連れ出される。


「連れに一言言ってから行きたいんだけど…」

「こちらでお伝えしておきますわ。どうぞこちらへ」


 エヴァはメイドの思わぬ強引さに、首をかしげながらついていく。

 城の中に入り、一室に案内された。

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