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【改稿版】守護者の乙女  作者: 胡暖
1章 貴族の養子
15/74

15.王族2

「そもそも、王の息子たちは次代の王が決まると臣籍降下(しんせきこうか)して、王族ではなくなる。王族でなくなるとどうなると思う?」

「え、どうなるの?」

「貴族になる。基本的には女児ばかりで男児のいない家に婿入(むこい)りして、その家を()ぐ。もしくは、自身の母方の生家に養子として入る。生家に別に後継ぎがいる場合は、当主代理の身分が与えられ、本人が生きている間は、その家で過ごすことができるようになっている。結婚も自由だ」

「へぇ、でも、もともと王族の人だから、婿入り先を探すのも難しそうだね」

「そうだ。婿入り先は基本的に伯爵以上の高位貴族が多い。さらに、王も高位貴族を(めと)ることが多いので、その息子の戻る生家も高位貴族になる。そして、高位貴族はそれほど多くない……つまり、われわれ高位の貴族の血筋をたどれば、どこかで王族の血が混ざっている」


 ここでやっとエヴァは納得した。


「……そっか。自分と同じ立場の人が王になるのが不満なんだね」

「そうだ。マクシミリアン陛下はまだしも、その子息のヘンリック様程度の血筋であれば、他にもいる。王として戴くことに疑問を持っている高位貴族も多い」

「……そうなんだぁ」


 エヴァはほう、と息を吐く。


「でも、不満に思う人が多いのに、陛下は王のままなの?」

「……我々、高位貴族の筆頭である九大公は、三屋号ずつの公爵家、侯爵家、辺境伯家からなると言うのは前に話したな。陛下は成人後すぐ、この中で一番位の高い、三公爵家----ベルマン、オールストレーム、カッセルから一人ずつ夫人を娶った。……いつから計画していたのかは知らないが、結果、この三夫人が人質となり、公爵家は身動きがとれない状態となっている。政治が荒れるでもない限り、しばらくはこのまま膠着状態(こうちゃくじょうたい)になるだろうな」


 なんだかとても難しい話に、エヴァはそっかぁ、と返すだけにとどめた。そして、ふと気づく。


「あれ?今度あるお茶会を主催する王女様って……」

「……話したか?」

「んーん、ラーシュに聞いたの」

「あぁ。……そうだな、本来であれば、神族に嫁ぐはずの王女だ」


 エヴァはこてんと首をかしげる。高位貴族は王位の継承(けいしょう)を本来の形に戻したいはずだ。それなのに、神族に嫁いで、次代の王を生まないといけないはずの王女を、(めと)りたい者がいるだろうか?


「そのお茶会になぜ貴族は参加するの?」

「陛下に叛意(はんい)ありと悟られないようにだな」

「……それって、お見合い成立するの?」

「してないから、何度も開催されるんだ……」


 エヴァはあちゃーという顔をする。

 高位貴族の多くが、王女は神族に嫁ぐべきと、考えている状況で自らのお見合いのためのお茶会を主催するのだ。当事者の王女は今の状況をどう考えているのだろうか。

 そもそも、王女は、神族に嫁ぐべきと育てられたのか、それとも、逆に貴族に嫁ぐべきと育てられてきたのだろうか。

 エヴァは王女に聞いてみたいことがたくさんあるなぁと考えながら、次のお茶会で機会があったら聞いてみようと思った。



 ◆



 その日の授業の後、部屋を出る前に、ふとエヴァはユーハンにラーシュのことを聞いてみたくなった。ラーシュと出かけると言った時に、引率を申し出てくれたのだ。ユーハンはラーシュのことをどう思っているのだろう。


「そういえば、ユーハン()ラーシュのこと嫌いなの?」


 ユーハンは片眉を上げる。


()?……何故私があれを嫌う?」

「ルーカスは嫌いみたいだから……」

「……あぁ」


 ユーハンはため息とも相づちともつかない声を出す。


「ラーシュの出自については?」

「ラーシュが教えてくれた」

「……そうか。私はルーカスもラーシュも等しく弟だと考えている。……強いて言えば、父上の配慮の無さは少し(しゃく)(さわ)ったが……」


 ユーハンは眉根(まゆね)を寄せてつぶやいた。


「配慮のなさ……?」

「いきなりラーシュを連れてきて、家の中をひっかき回した割に放置しすぎだ……」


 エヴァは、初めて会った時のアンディシュのことを思い出した。

 無駄を一切省いた物言いといい、確かに、ラーシュという存在に、他の家族がどう思うかなど気にしなさそうな人だったなぁと思う。


「ルーカスはなんでラーシュが嫌いなのかな?」

「あれは、母上が好きだからな。それに、ラーシュが来た時、まだ幼かったこともあって、自分の立場を取られたようで気に入らなかったのだろう。それを引きずっているんだろうな」


 仕方のないことだと、呟く。


「そっかぁ……」


 エヴァは、そう返しながらも、ユーハンはラーシュをきちんと家族と認めてくれていることが分かり、温かい気持ちになる。ラーシュはこのことを知っているだろうか。

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