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【改稿版】守護者の乙女  作者: 胡暖
1章 貴族の養子
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12.エヴァの能力

 広い演習場の片隅(かたすみ)に、まずはマルガレーテが連れてこられた。

 ルーカスがヒラリとその背に乗る。


「さて、ではエディ、マルガレーテに演習場のあちらの壁まで言って戻ってくるように指示してくれるか?」


 ランバルドにそう言われると、エヴァは首をかしげて答えた。


「マルガレーテは、思考がぼんやりしてるから、お願い聞いてくれるか分からないですよ?」

「あぁ、それでも言い。()()えず試してみてくれるか?」


 エヴァは頷き、マルガレーテに近づいていく。


「やぁ、マルガレーテこんにちは」

『……』

「あっちの壁まで行って戻ってきてくれるかな?」

『…リョウカイシマシタ』


 いきなり動き出したマルガレーテに、馬上のルーカスが慌てる。急いで手綱を引き、マルガレーテに止まるように命令した。しかし、マルガレーテは止まらなかった。

 壁に行って戻ってくるまで、ルーカスが何を言っても、何をしても駄目だったのだ。


「これは……」


 これには、ランバルドもウルリクも絶句(ぜっく)する。


「まさか、使役者(マスター)の命令より上位になるのか…」


 戻ってきたルーカスは、悲しそうな顔をしていた。

 一度エヴァの指示を遂行(すいこう)してからは、またマルガレーテは、ルーカスの指示に従うようになった。


 そこから、騎獣をどんな獣に変えても結果は同じだった。


 エヴァが指示した命令を遂行するまで、魔道具の強制力をもってしても、騎獣を従わせることができなかったのだ。

 単純な歩行だけではなく、複雑な障害物を飛んだり、途中で指示を変更するなど、変則的な指令を出してみたりもしたが、それも難なく遂行した。


 調教が終わっていようが、慣らし中であろうが、どの騎獣も素直にエヴァの命令を聞いた。全く何の道具も使わずに。


 実験が終わる頃には、ランバルドは頭を抱え、ウルリクは眉間(みけん)を押さえ何か考え込んでいた。

 悪いことをしただろうかと不安になり、エヴァはルーカスを見上げる。

 ルーカスは苦笑して、エヴァの頭を撫でた。


「お前があんまりすごいんで、みんなビックリしてるだけだよ」


 腑に落ちないまま、エヴァは騎士団の魔獣舎を後にした。



 帰り道、エヴァは来た時のように馬車に揺られていた。

 ルーカスは普段は帰りが遅いが、今日はエヴァと共に帰る許可が出たらしく、一緒だった。


「今日はありがとうな。しかし、ビックリした。もうマナーは完璧じゃないか!……兄上の指導は厳しいだろう」


 そう言って、頬を掻いた。

 エヴァは首を振る。


「そんなことない。新しいことを知るのは楽しいよ」

「エディはすごいな!兄上は学者だからか、色々なことに詳しいんだが、合理的で面倒(めんどう)くさがりな面があるからな。説明が足りなかったり、たくさんの課題を出されたりして、エディが勉強についていけているか心配してたんだ。」

「ユーハン、学者なの?公爵の補佐をする人だって言ってたよ?」

「あぁ、兄上は家を()ぐから父上の補佐をしている。ただ、勉強が好きで、王都の貴族学院には行かず、学者の領にある学園都市に留学するほどだったんだ。学者の資格も持ってるんだぞ」

「へー」


 そこで、ルーカスは決まり悪そうな顔をして言う。


「悪いな、連れてきたのは俺なのに、(ほとん)ど面倒見れなくて…」


 エヴァはふるふると首を振る。


「そんなことないよ。良くしてもらってる。それより、ルーカスは、血が(つな)がってない僕にも親切なのに、なんでラーシュには冷たいの?」


 ルーカスは何か渋いものを口にしたような顔をして、言葉をを(にご)した。


「……なんだよ、急に。子どもには分からない色々な事情があるんだよ。…………この話しはこれで終わりだ」

「……ラーシュだって、子どもだよ?」


 ルーカスはエヴァの問いに、聞こえない振りをした。

 その後は、二人とも屋敷に着くまで黙って馬車に揺られていた。



 ◆



「いや、しかし。想像以上にヤバかったな」


 夜の執務室にて、酒を傾けながら、ランバルドはため息をつく。ここで酒を飲むのは本来ならあまり()められた行為ではないのだが、今日は飲みたい気分だった。


「一度に声をかけられる魔獣は一体でも、事前に複数の魔獣に指令を与え、一気に仕掛けられたら……一溜(ひとたま)りもないな。オールストレーム公爵家に力が傾きすぎだ」


 ウルリクも頷きながら答える。


「……あぁ。まさか、使役者(マスター)の命令より上位の命令を下せるとはな……」

「今、9歳か……何とか早急に騎士団に取り込む方法はねぇかな……」


 ランバルドは何とはなしに、来年度の入団希望者リストをめくる。ふと、何かに目を止めニヤリと笑った。


「おい、見ろよ」

「……ほう、これは」


 この二人、実は同期である。

直感で進むランバルドと冷静なウルリク。性格は真反対だが不思議と見習い時代から気があった。ランバルドがきっかけを作り、ウルリクの戦略を練る。


 入団者リストには、ラーシュ・オールストレームの名前があった。

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