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【改稿版】守護者の乙女  作者: 胡暖
1章 貴族の養子
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11.騎士団にて

 そんな話を、昨日ラーシュとしていたはずだったのに。

 エヴァは次の日、ルーカスと共に登城(とうじょう)していた。


 正確には騎士団の詰め所に。


「本来なら王族への挨拶が先だけどな。まぁ、事前の申請も必要だし、城の中には入るつもりないし、今回は特別ってことだな!」


 ガタゴトと馬車に揺られながら、あはは、と豪快(ごうかい)にルーカスは笑う。

 エヴァは不思議そうにルーカスを見て、言った。


「城に来るのは二ヶ月後かと思ってた」

「何でだ?……あぁ、王女様のお茶会か!そうだな、父上もその頃にはこちらに戻られるだろうし、合わせて王へ謁見(えっけん)もあるだろうな」

「王様に?何で?」

「新しく貴族になったものは、必ず王への挨拶が必要だ。子どもなら5歳。養子なら、縁組みしてできるだけ早いタイミングで、だな」


初めて聞く話しに、エヴァはへー、と相づちを打つ。そして首をかしげた。


「そうなんだ、じゃぁ今日は何のために来たの?」

「エディの力を試したい。どんな魔獣でも、言うことを聞くのか、それはどの程度強制力があるのか」

「それで、何で騎士団(ここ)に?」

「城の中に騎士団の魔獣を飼っている騎獣舎(きじゅうしゃ)があるからさ」


 ルーカスは、いたずらっぽく笑ってエディの方を見る。


「マルガレーテのようなスレイプニルだけが、騎士団の騎獣じゃない。エディはあまりたくさんの魔獣を見たことないんだろ?ビックリするぞ!」


 エヴァが案内されたのは演習場のような広い土地とセットになった、騎獣舎だった。騎獣舎の作りは、厩と似ているが、大きさが厩の比ではなかった。中から、色々な獣の声がする。演習場では、騎士が騎獣に騎乗し訓練を行っている様子が見える。

 エヴァは目を輝かせた。


「ようこそ、騎士団へ!」


 ルーカスはにこやかにそう言った。



 ◆



 騎獣舎と演習場は、城の正門のすぐ横にあった。

 城の正門に行くまでに、三の門から一の門まで3つの門がある。三の門より内には、貴族しか住んでいない。オールストレーム公爵家は、一の門の中に屋敷があるが、それでも城までは馬車で移動するほどの広さがある。

 当然、城の正門に入っても、そこから城まではまだかなり距離があるようだった。

 エヴァはふと疑問に思ってルーカスに尋ねた。


「こんなに遠くに騎獣舎があって、城を警護するのって大変じゃない?」

「あぁ、正騎士は2班----城で警護する班とここで鍛練(たんれん)する班に分かれるんだ。騎獣は、魔道具がついているとはいえ、何があるか分からないから城からは多少離して世話をしている。有事(ゆうじ)の際は、城から合図があると直ぐに、鍛練を切り上げて、騎獣で向かうようになっている」

「へー。そうなんだ…」


「よう、ルーカス!そいつがエディか?」

「団長!」


 ルーカスと共に騎獣を眺めていたエヴァは、急に声をかけられ振り返った。

 そこには、エヴァが森で出会った、副団長のウルリクと共に、短く刈り込まれた黒髪に切れ長の黒い瞳をしたガッチリした男性が立っていた。

 ルーカスは拳で胸を叩いて挨拶を返す。

 エヴァは、「家以外ではきちんと敬語を使うように」と、ユーハンに言われていることを思い出し、右手の指をピンと伸ばして胸に当て、お辞儀をする。


「初めまして。私は、オールストレーム家の養子に入りました、エディ・オールストレームと申します。どうぞよろしくお願いいたします」


 ぎょっとした顔で、ルーカスが見てくる。

 何かおかしかっただろうかとエヴァは首をかしげた。


「ははは、俺は第一騎士団の団長 ランバルド・バーリクヴィストだ。丁寧な挨拶をありがとう。小さいのに偉いな!ついこの間まで、孤児だったとはとても思えん!…しかし、これだけ綺麗な顔にそのマナー、生粋(きっすい)の貴族とも遜色(そんしょく)ないな」


 黒髪の男性は豪快に笑う。


「…本当だ。この間森であった時とは、別人のようだな…。……失礼。挨拶が遅れたな。ウルリク・ボードストレームだ。第一騎士団の副団長だ」


 エヴァはユーハンに頭に叩き込むように言われた、貴族名鑑(きぞくめいかん)を思い出す。確かバーリクヴィストは侯爵家、ボードストレームは公爵家だったはずだ。ちなみにまだ侯爵家までしか覚えていない。


「良き出会いに感謝します」


 エヴァはそう言って、もう一度お辞儀をする。


「参ったな、兄上はたった数日でここまで教え込んだのか!すごいなエディ」


 ルーカスが笑いながらエヴァの髪をくしゃくしゃにする。

 勢いが良すぎて目がまわりそうだ。

 アワアワしていると、ランバルドが、笑いながら言う。


「騎士団では、そんなに丁寧に話さなくていいぞ。そもそも、荒事に従事している人間だからな」


 ランバルドは子ども好きなのだろうか。笑うと、きつめの目元が途端に優しくなる。

 エヴァが問うようにルーカスを見上げると、ルーカスは苦笑しながら言う。


「語尾にです、ますがつくくらいの丁寧語でいい」


 エヴァはこくりと頷いた。


「俺も養子だ。エディと一緒だな。もともとは男爵家の出なんだ」

「一緒……なんですか」

「あぁ。お前は公爵家の養子である以上、やっかみなんかも多いだろう。頑張れよ。何かあったら力になるからな」

「ありがとうございます」

「さぁ、挨拶はそのくらいにして、本日の本題に入ろう。時間もあまりないんだ」


 ウルリクがパンパンと手を打つ。


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