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Fire08.ショッピングタイム

「おお、あなた方が本社からの救援かい! すまないね、こんな山の中まで」

「いえいえ……総務部の柊と言います」

「PMC課の大門です~」


東京から2時間。甲斐駒ヶ岳の麓にある小さな町にある”ブラックカンパニー”の山梨支社にやってきた私たちは、出迎えてくれた山梨支社の人事部長に挨拶をしていた。気さくそうな人事部長は、私たちを中に招いたあと、応接室に案内してお茶を出してくれた。


「いやね、本島に助かった! ここは田舎だから若い子は誰も転勤して来たがらないし。それどころか山梨の若い子は全員東京に出て行っちゃって過疎化が激しいのなんのって。そんで困って本社に応援要請出しちゃったの」

「そ、そうでしたか……」

「お二人さん女子力高そうだし、聞いたところ大学出たてだそうじゃない。一応これは仕事だけど、どうか学生の頃に戻って遊びに来たつもりでやってほしいんだ。そのほうがより若者の視点になれると思うからね」

「わかりました!」


学生の頃かぁ……確かに友達もいたし、よく遊びに行ってたけどそこまでレジャーアクティビティはしたことないなぁ。あるとしても、大学近くのカフェでおしゃべりしたりカラオケ行ったり。遠出して観光とかもしたにはしたけど、どちらかというと歴史的建造物の見学とかが多かった気がする。まあ、文学部なんてそんなもんだと言ってしまえばそれまでだけど。


今回は大門さんに色々頼ることにしよう。


「じゃあ、早速だけどね。今日は街を回ってもらおうと思う。君たちがここに来れるのは週1だから、だいたい街のどこに何があるかをわかっていてほしい。地図とかは既に準備してある。社用車貸すから、二人で行ってきな」

「は~い! よし、じゃあ柊ちゃん、行こう!」

「え、そんな軽いノリで……?」

「いいのいいの~。だって部長さんだって学生のノリでいいって言ってたし。あ、社用車の鍵借りますね~♪」


学生に戻った感じでとは言われたけど、学生に完全に戻って仕事放棄しろとは言ってない。程々にしておいた方がいいと思うけれど、大門さんはすっかり遊ぶ気満々のようだ。可愛らしい見た目とは裏腹にかなり強い力を持つ彼女に腕を引っ張られながら、私は人事部長さんに一礼して部屋を出た。


  〇 〇 〇


半ば強引に大門さんに車に乗せられた後、私たちは町の中でも特に賑わっている地域にやってきた。中央線の駅から歩いて20分近くのところにある商店街から半径2キロほどの区域には、ファミレスや家電量販店、小型ショッピングモールなどがあるようだ。あとで立ち寄ることにしたショッピングモールに車を止めた私たちは、まずは商店街から見ていくことに。


「へぇ~、結構活気があるんだね!」

「ですねー……多分私の地元より栄えてるかも」

「あれ、柊ちゃんの地元ってどこなの?」

「え、言ってませんでしたっけ。北海道の苫小牧ですよ」


私の地元……苫小牧には普通にシャッター街がある、駅周辺はそこそこにぎわってはいるのだけど、基本的にみんな札幌に行く。車社会だから歩いて買い物に出かけることはほぼないし。それはここも同じだろうけど、こちらは観光向けではなく地域密着型の側面が強い気がする。私のところは観光客をターゲットにした店が多かったから、廃業したところが多い。


「へぇ~。これ山梨貴宝石だって~」

「どれですか?」

「これこれ。ほら、このネックレスとかかわいいよ~」


全体的な雰囲気を感じるためにあえてふらふら歩いていたら、いつの間にか大門さんは小物ショップへ。そして山梨貴宝石と書かれたアクセサリーのコーナーを物色しているではないか。

ガサゴソといいものを探す大門さんの横からアクセサリーたちを除いてみると、水晶系の宝石を使ったネックレスなどのアクセサリーがかなりの数あった。


調べてみたところ、山梨は水晶の原石が結構発券されていて、次第に水晶玉に加えてブローチ用の水晶加工にも発展していったそう。山梨の甲府市近郊を代表した伝統工芸品だそうだ。


「へぇ~。これは知らなかったなぁ……でも、なんか小物とかなら色々売ったりお土産品で販売できそうだ」

「あ、これいい! 柊ちゃん、これとかどう?」

「い、いいんじゃない?」

「やっぱり!? じゃあこれとこれ買ってこよ! おそろおそろ」


300円のコーナーから気に入ったものがあったっぽい大門さんは、私に一つのネックレスをスーツの上に置いて確認すると、それと同じものをもって会計の方に行ってしまった。アレ絶対プライベートの買い物じゃん……今普通に仕事中なんだけどなぁ。


「はい、これ!」

「あ、ありがとうございます……」

「私もおんなじの買ったから。これでお揃い友情の証! さ、次行こ!」


そういうと、大門さんは自分の分で買ったネックレスを掲げてから笑顔を見せて駆け足で次の店に突進していって、またしても何かに釘付けになっている。


これは……相当長いショッピングタイムになりそうだ。

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