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Fire.02 初仕事

入社してから1か月が経過した。入社式翌日からは新人研修が始まり、ひたすら社会人としての心得とかビジネスマナーとかを学んだ。あとはこの会社の仕組みとか。会社の仕組みと言っても、大まかな部署と課を説明されたくらいだが。


そして、今日からは実際に業務が始まる。私が配属されたのは総務部。何をやるかと言えば、会社の業務の中で他の部署の管轄外の仕事全部……だろうか。もっと言えば他の部署の仕事が円滑に回るようにサポートしたりするのもある。要約すれば、何でも屋?

まあ、会社自体が何でも屋みたいなとこあるんですけどね、はい。


というのも、うちの会社の大本がアメリカの巨大企業なわけで。日本にある企業なのにPMC課が存在したり、建築とか運送とか金融業とかのあらゆる方面の業界に手を出している。ちなみに、PMCと言っても要人のボディーガードとかをするくらいだからしっかりと日本の法律は守っている。


新人研修はほとんど人事部のフロアで行われていたからか、総務部のフロアにある自分のデスクに座るのが少し新鮮だ。周りのデスクに既に着席している先輩たちに軽く頭を下げながら着席してパソコンを起動。まだ仕事が割り振られていないから、まずは社内メッセージを開いてみる。まあ、もちろんテストメッセージを送信したりした以外はなんもないのであるが……数分後、デスク周りの掃除をしていれば長谷川という人からメッセージが送られてきた。


『お疲れ様です、課長の長谷川です。業務開始の準備ができたらCブースのデスクまで来てください。お仕事振ります』


とうとうきた、仕事っ! 総務部だから簡単な事務作業と課が多いだろうし、新人だからそこまでいい仕事は振ってくれないだろう江戸、初仕事にはやる気が出てくるっ!


ルンルン気分でデスクを飛び出し、自分のデスクがあるBブースと呼ばれる部屋からCブースの部屋に移動。座席表を確認して長谷川さんの場所を特定、入り口で一礼してから部屋に入って小走りで目的地に。


「あら、来たわね」

「えっ……」


デスクについた途端、私は凍り付いてしまった。なんせ、デスクに座っていたのはゴリッゴリの筋肉質な身体に口紅、赤く長い髪が目立つかと思えばネックレスとキラキラ光るネイルと目に入ってくるような人物だった。


も、もしかしなくても、オネエってやつ……?


「大丈夫かしら?」

「えっ? あ……はい」

「わたしが総務部課長の長谷川よ。なんかお仕事でわからないことあったら遠慮なく聞いてちょうだい」

「は、はあ」


まずい、どーしても長谷川さん……もとい課長の容姿とかが色々気になりすぎてあんま話が入ってこない! ぜったい私今ポカーンって顔してるし! どうしようこれ。え。どうすればいいこれ!


「とりあえず、早速あなたには仕事をしてもらうわ。と言っても、簡単な社内備品のチェックね。そうね……色々リストがあると思うけど、ほとんどのモノは社内ディスクにエラーとか壊れたみたいな報告が入ってるから、そこを主に確認して。そして、エラーがあった部署には直接聞いてきてくれるかしら。社内見学とか、場所を覚えるのに丁度いいと思うわよ」

「わ、わかりました!」


課長はリストを私に渡すと、デスクの横にアル引き出しから雨を取り出すと「頑張ってね」とそれも手渡してくれた。話し方とかも含めて完全にアレだけど、案外いい人なのかもしれない。資料を渡された私は、“夕張メロン”と書かれた飴を書類の上に乗せて自分の席に戻っていった。


  〇 〇 〇


「う~ん?」


初めての仕事……備品チェックを始めてから30分が経過した。書類に書いてあった通りに社内ディスクを開いて書類に書いてある備品に不備があったりしないかを確認していく。

流石に全部エラーがったり不備があったりするわけではないが、数個ほど備品がなかったりエラーがあるというチェックがついている。課長はチェックがあったら直接聞いてこいと言ってたけど、誰に聞けばいいのやら……そう思って隣の人に聞いてみたら、基本的には入り口近くの人に聞けばいいとアドバイスしてくれた。


それがわかったらあとは簡単。席を立ち、エレベーターに乗ってまずは3階に向かう。ここは人事部のエリアで、私のところのようにブースが分かれている。少し迷ってしまったが、ひとまず素直にAブースの入り口近くの人に聞いてみることに。


「あの~、すいません。総務部の者で備品チェックの件でお伺いしたのですが……」

「あぁ、わざわざ来たんですか。お疲れ様です。えーっと、備品だと印刷機のインクと印刷用紙がそろそろなくなってきてるのと、パソコンが1台ショートして修理に出したいってところですかね」

「は、はあ。ちなみにショートした原因って……?」

「研修中の新人がやっちまいましてね。すいませんが、お願いします」

「わ、わかりました……とりあえずインクと印刷用紙はすぐに発注しときますね」


新人研修でいきなりパソコンをショートさせえるって……どれだけ機械音痴な人だったんだろうか……これはちょっと気になる。そこまでパソコンに詳しくないからわからないけど、ワンチャン水でもぶっかけてしまったのだろうか。


次に向かったのは4階、PMC課のフロア。PMCと言っても、要人のボディーガードと課、自宅警護サービスのようなところ。どうやらここもパソコン周りとかに機材トラブルがあるらしい。このフロアには他にも経理部もあるが、PMC課のブースだけはピリッとした緊張感が常に漂っている。


「す、すいませ~ん……」


あまり話し声もなく、ただただパソコンからでる空気の排気音が響く部屋に入るのには勇気が必要。一礼して入室しようとして、頭を揚げると室内にいる全員の目がこちらに向かって“ギロリ”と光る。うぅ……正直怖い。けど、仕事だからやらないといけない。なんとか平静を保ちながら入り口近くにいた比較的話しやすそうなマッチョの人に声をかける。


「あの~、すいません。総務部の者で備品チェックに伺ったんですけども……」

「んお? ああ、備品チェックか。それなら俺はわかんねーからあっちにいる課長に聞いてくれ」

「あ、はい。わかりました」2


あっちとはどっちぞなと思ったが、雰囲気がおっかなかったので逃げるように方向がわからない“あっち”なるところへ急ぐ。おそらく課長さんとかに聞いた方がいいと思ったので、一度ブースの外で課長席の位置を確認して周囲の迷惑にならない程度に小走りをしてデスクに辿り着く、


が、ここでもトラブルが。


「えーっと?」

「うん? 見慣れない顔だけど、うちになにか用?」

「ここ、課長席ですよね……?」

「そうだが?」


うん、そうだが? と言われても私が困るだけなんだけど? まあ、うん。ここが課長席でいいとしよう、さっきあそこの席表みて確認したけどここが課長室で間違いないだろう。

しかし……目の前に座っているのはどこからどうみても子供なのだ!


え、ナニコレ……絶対中g……小学生くらい? ワンチャンここの誰かが連れてきていて、その子が勝手に課長席に座っていたりするとか? というかそれしかなくない? だってここ会社だもん!


「えーっと、あなたが課長さん……?」

「ああ、そうだぞ。もしかしなくても“10歳くらいの子供”って思ってるのかもしれないけど、これでもちゃんと20代後半だからな! 酒飲めるからな!?」

「あ、はい……失礼しました」

「うっむ、よろしい」


いやいやいや、失礼しましたとは言ったけどさ。どーみても子供じゃないですか、ねえ。声といい活舌といい、仕草といい。彼女の口から「酒飲める」というワードは少しアブナイ気がしなくもないけど……まあ、可愛いからいっか。もう現実逃避しよ。


「え~と。私、総務部の柊と言います。備品チェックで、ここでパソコン関連でなんかあるとシートにあったので来たんですが」

「まだ子供だと思ってるだろ……まあいい。備品のパソコン関連のチェックね、はいはい。じゃあ、うちについてきて」


そういうと、課長さんはデスクを椅子のわずかな反射だけでパソコンごと飛び越えて、違うブースに向かって歩き出した。一瞬どうやって移動したのかどうかがわからなかったが、気づいたら通路を歩いていたので慌てて追いかけることに。PMC課の課長(?)だし、もしかして小さな体の前身が筋肉だったりする……?


そんなことを考えながらも移動を続け、私たちはPMC課のDブースにやってきた。ここにも15人くらいのマッチョがいたので、ビクビクしながら課長さんの後ろを歩いていくと、部屋の隅に1台のパソコンが。しかし、様子がおかしい。キーボードは真っ二つになり、モニターは中央に大穴が開いている。いや、パソコンをどう扱ったらこうなるし。


「これは……?」

「見ての通りだ。いや、言いたいことはわかる。ふつうの使い方をしていればこうならないって言いたいんだろう。まったくまってその通りなんだが……なんせ使っていたのが超絶機械音痴な新人でな」


いやいやいや、いくら機械音痴でもモニターに綺麗な大穴開ける人いる? というかそれなら周りの人が教えてあげればよかったじゃんよ!!


「と、とりあえずこれやった人呼んでもらっていいですか……?」

「わかった。君、カリンどこ行ったかわかる?」

「ああ、課長。華凛さんならあそこでプリンター使ってますよ。3人体制でバックアップしてるので安心していただければ」

「なら安心か」


いやいやいや、高々プリンターごときで3人もバックアップ必要なの!? もしかしなくてもルンバを道路で使おうとしたりするタイプ?? 現代社会で生きられないじゃんよ。

まともなひといないのかな……。


もしかして私、すごいところに入っちゃった? そう不安になりながら待っていると、大量の印刷用紙を抱えた一人の女性と、後ろを警護するように3人ほどのマッチョたちがこちらにやってきた。後ろのマッチョたちに一瞬固まってしまったが……女性の方を見ると、いつだか私を助けてくれた、あの和の雰囲気を纏う女性だった。


「む、お主は……」

「ど、どうも~」


あちらも私のことは覚えていてくれたらしい。ここ1か月新人研修で会ってなかったから連絡先を交換できていなかったのだが、こんなところで再会できるとは思ってもなかった。あと後ろのマッチョさんたちのせいでちょっと気まずい……。


「やっと戻ってきたかカリン。総務部の人が備品チェックに来たから、これ使ってた時のことを説明してくれ」

「あ、ああ。わかった。そのまえに書類だけ置かせてくれ」


課長に“カリン”と呼ばれた女性は、目の前に転がる真っ二つのキーボードと風穴があいたモニターを一瞬見ると、すぐに目を明後日の方向に向けて書類を置きに行ってしまった。多分だけど罪悪感はあるのだろう。彼女はすぐに戻ってくると、淡々と説明を始めてくれた。


「えー、まずはキーボードだが……。そのー……文字を打つときについ力を入れすぎてしまったんだ」

「そ、それはどのくらいの力で?」

「そうだな……このくらいだったか」


そういって彼女は壊れているキーボードを拾って実演をしてみせたのだが……彼女がものすごい勢いでキーボードを打った瞬間、キーボードは真っ二つ。周囲にはキーの部分が飛んでバラバラに。


「そして、画面がフリーズしたんだ……だから叩けば治るかとおもって、こう……」


うん、叩けば治るのは迷信だからやめようか。しかもそれ正拳突きですよね? そんなんで画面やったら大穴空きますよね? 


「な、なるほど……じゃあ、要はパワーで破壊してしまった……と」

「ああ……その、すまない……」


申し訳なさそうにするカリンさん。それと同時に私も気まずい。ひとまず始末書を書いてもらうことにはしたのだが、どう上司に報告しようかとも考えてしまう。まさか筋肉が正義ですと答えるわけにもいかないだろうし。


……どーしよ。


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