Fire.00 プロローグ
「それでだな……君にはアメリカに行ってもらうことにした」
「アメリカ!?」
「ああ、そうだ。NYにあるアメリカ本社へ行ってもらおうと思っている」
東京・新橋。私は部長室に呼ばれると、一度も暮らしたことがない異国の地へ転勤することを勧められていた。確かにここはアメリカの大手企業の日本支社だ。だからアメリカへの異動だってあるのは当たり前だけど、あまりにも唐突すぎる。
「り、理由を聞いても?」
「そう不安がるな。君にとってはメリットしかない話だ。簡単に言えば……”昇進”。ここの国で言うところの”大出世”といったところか」
「はい?」
「コングラチュレーション。君は今日から我が社の幹部候補だ」
そういうと、部長室に居た全員が私に向かって拍手を送ってくる。昇進は嬉しいことだし、社会人としての目標でもあるだろう。
だけど、だおけどちょっと待ってほしい。私が働いているのは総務部。要約すれば会社の中の何でも屋。そんな人がいきなり幹部候補になるのおかしくない!? 私なんか変なことやりましたか!?
「変な事も何もない。君が関わった事業やこの職場で君と一緒に仕事をした人全ての意見を聞いて、総合的に判断して私が報告したら社長直々に推薦したんだ。君は気配りもできて、学ぶ姿勢も人一倍で優秀だ。なるべくしてなった、素直に喜ぶといいさ」
「でも、まだ私会社に入って数年ですよ……?」
「入った年数は関係ない。逆に、君は数年で会社全体に大きく貢献して評価されたんだ」
未だに困惑している私に、部長はオウム返しをするがのごとき早さで誉め言葉を連発してくる。陽気で嘘を一切言わないことを知っているからこそ、ここまで言われると少し照れてしまい、その気になってしまう。
「日本を離れて向こうで生活することは不安かもしれないが、そこは安心してくれ。会社としてもできる限りのサポートをすることを約束しよう。もちろん断る権利もあるが……どうする?」
「私は……」
私の、するべき返事は——