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桃太郎  作者: 中川 篤
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おじいさんとおばあさんの話

むかしむかしあるところに……。

 初めて川から桃が流れてきたのを見た時には、そりゃあ何事かと思った。それは大きな桃だったから、これはしばらく食うもんには困らずに済むわいとわしは素早く見繕ったが、それにしてもこれは何事かと少し頭をひねる羽目に陥った。それから数年前に、川向こうの爺さんが庭に桃の木を植えるのだと話していたことを思い出し、ああそれでこの桃か、と得心がようやくいった。ハアなるほど、さてはこれは、大きくなりすぎて木から落っこちた桃に違いない。



 ところがその桃を苦労して家に持ち帰ってみると、おばあさんがそんな気味の悪い桃食うのは嫌じゃと言い出した。おばあさんは若いころ、まだわしが都で宮仕えをしていた時に出会ったおなごで、わしの実家が没落してこうしてわしらが農民に身を落としてからも、都にいたころの風習やしきたりがまだ抜けきっておらなかった。おばあさんが言うには、川から桃が流れるなどありもしないことで、きっとよからぬ凶兆に違いないというのじゃ。

 それでもわしは桃が食いたかった。おばあさんを何とかなだめすかして、包丁を取ってこさせると、わしが桃にスパッと切り込みを入れた。それから生まれたのはもちろん、お主ら村の者もよく知っているあの桃太郎じゃった。



 ところで桃太郎がいつも白い鉢巻きをしているのを見て、村人の一人が、桃の額には角が生えている、などとはやし立てたことがあった。実際桃はこの村の鬼っ子だった。が、さすがに角は生えていなかった。けどどうして桃太郎がいつも白い鉢巻きを額に巻いていたかというと、それはわしが桃を切るときにひたいをちょっと割ってしまって、それで桃太郎の額にはひどい傷跡が残っているからじゃった。わしもこれにはだいぶ不憫に思った。それに桃太郎はそれを見られるのを一等嫌がった。だからある日おばあさんが(おばあさんは桃太郎が可愛くてたまらぬようじゃった)村まで向かって、白い布を買って来、額に鉢巻きしてやったのじゃ。桃太郎はこの鉢巻きをとても気に入っていたよ。



 桃太郎の人生は初めから過酷なものだった。考えてみれば、それはそうだった。母の股から生まれず、桃の実から生まれた変わり種など誰が相手にしたがるだろう。桃はいつも一人だった。が、それでも桃太郎はすくすく育っていった。そして数年前、隣の集落を島からやって来た鬼たちが、まるで海賊のように村人を虐殺して去っていった。やがてわしらの家にも(家が集落から少し離れていたから助かったのだが)、そのうわさが伝わってきた。

「心配じゃのう、怖いのう、桃や」

わしは言った。すると、

 「おじいさん、オレ、あいつら退治しに行くよ」

 わしはそれを本気にはしなんだ。団子でも与えておけば、そんな気の迷いは忘れてくれるだろうと思い、戸棚に隠してあった黍団子を袋に包んで、「これはおばあさんからだよ」と言って渡した。そしてつい、「ホレ、行ってこい」といってしもうたんじゃ。桃太郎はその日、家をでてったきり、とうとう家に帰ってこなかった。ひょっとしたら本当に鬼を退治しに行ってしまったのかもしれん。あれきり音沙汰もない。きっと殺されてしまったんじゃろう……。


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