大きな選択
ルーナとユーリヤ、クロエ、アメリアはアドルの話を聞いて、皆涙している。
アドルも久しぶりに自分の過去を誰かに話したからか、それともずっと一人で抱えていたものをようやく誰かに話す事が出来て心が軽くなったのか……。何故か分からないが、アドルも泣きそうになる。しかし、アドルは話を続けた。
「あいつらの目的は、リリーラ王国にいる民の汚れを増やす事だ…………」
「そうだったのね……」
私はなんと声をかければいいのだろう。これまでお父様やお母様の期待を裏切りたくないから、一生懸命勉強をした。頑張れば頑張るだけ皆褒めてくれた。私はそれが嬉しくて、嬉しくて……。
でも今の私にはアドルになんと声をかければいいのかも、どんな顔をしてアドルに話しかけるのかも、どんな声色で話せばいいのかも分からない…………。
だけど、何故だろう…………。なんて声をかければいいのかは分からない。分からないけれど、アドルの手を握り温かい光で包み込むような優しい言葉が自然と口から出て来ていた。
「アドル……。貴方は今までよく頑張ったわ……。今まで辛かったかもしれない。苦しかったかもしれない……。それでも前を見て諦めずに生きていた事は簡単に出来る事じゃない。よく頑張ったわね…………」
私がそう言うと、アドルの目から涙が出て来ていた。そんなアドルを見て、私はアドルをギュと抱きしめた。
何故、この人はこんなにも温かいんだろう……。あの日から何をするにも何も感じなかった。大好きなバイオリンを弾いても、思い出が沢山詰まった曲を弾いても何も感じなかった。あの時の家族みんなで過ごした、幸せだった時間が忘れられなくて…………。
でも何故だろう……。自分でも不思議なくらい心が温かくなっている気がする。何も感じなくて冷めていって心が少しずつ、少しずつ温かくなっている気がする。
ずっと冷めていた心が温かくなるにつれて、涙が止まらない。止めたくても、止めようとしても止まらない…………。
ああ。僕はずっと温かくて優しい言葉をずっと誰かに言ってもらいたかったんだな……。誰かと一緒に居たかったんだな…………。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーッ!!」
「貴方は偉いわ……。いっぱい泣いていいわよ……。貴方がこれまで我慢していた気持ちを全部受け止めてあげるから……」
ルーナ様はそう言って私を慰めてくれた。
きっとここで泣いた事は将来、忘れる事はないだろう……。
ー数時間後
ルーナも目が覚め、アドルからは色々と話を聞いたり……。今日は色々あったのでとりあえず解散する事になった。
ルーナはあれから一応大事を取ってそのまま寝た。
ルーナの部屋を出てから、クロエとアメリアは執務室へ、ユーリヤは自室へ、アドルは用意された部屋へそれぞれ向かっていた時、アドルはクロエとアメリアを呼び止めた。
「あ、あの!」
「どうした?」
「えっと……その……」
(上手く言葉に出来ない……。なんて言おう……。さっきの話の続きがしたいのに……。さっきまではそうでもなかったけど、やっぱり緊張する…………)
そう思っていると、ユーリヤがアドルの側に近づき優しく言った。
「アドル様。大丈夫ですよ。緊張しなくても……。私も初めて来た時は緊張しましたが、クロエ様もアメリア様もとてもお優しいお方です。何かあるのであれば正直に言っても誰も怒りませんから安心してください。私も側にいますから……」
「あの……ッ!少し話があるんです!だから……その…………。お時間頂いてもいいですか……?」
クロエとアメリアは驚いたような顔をしたが、すぐに笑顔で言った。
「もちろんだ」
「いいわよ!」
こうして四人は執務室に向かうのであった。
ーリリーラ王国宮殿 執務室
アドルは、クロエ、アメリア、ユーリヤに話をする事にした。
「さっきの話の続きなんですけど……」
「私達は待っているからゆっくりで良い」
「ありがとうございます!」
クロエにそう言われたので、少し話をまとめる事にした。
アドルは本当の事を話していいのか考えていた。
(でも……。言わなきゃいけないんだ。きっとこの人達なら、驚きはするだろうけどきっと最善の選択肢を選んでくれると信じてるから……)
ー数分後
アドルは、クロエ、アメリア、ユーリヤの三人に語った。
「まず、さっきルーナ様がいた時に言った敵の目的なんですけど覚えていますか?」
「勿論だ。敵の目的は汚れを増やす事……。そうじゃなかったのか?」
「何か違うの?」
「あっていますよ。確かに私はそう言いました。でも……。その……すごく言いずらいんですけど……」
アドルの頭は今真っ白になっている。さっきは言うと決めたがそれが本当に良い選択なのかが分からなくなっていた。ここでこのまま言わないで秘密にしておくという事も出来るだろう。でも……。
(天国にいるであろう、父さんも母さんも兄さんも全員そんな事を望んでないだろう……。
皆……。頑張るから見守っていてね……)
「…………。その……。さっきルーナ様の部屋で言った敵の目的は、半分本当で半分違います」
「そうなのか!」
「はい。ですがここから先はクロエ様やアメリア様、そしてユーリヤ様にもとても辛い選択となるでしょう。それでも聞きますか?」
自分でも酷い事を言っているのはよく分かっている。でもここからは、この人達に選択してもらいたいから……。
「…………。勿論だ」
「ええ。聞くわ」
「このリリーラ王国に関わる事ならば聞かせて頂きます」
「…………。分かりました。では敵の本当の目的をお話しましょう。敵の本当の目的はルーナ様です……。そして、あいつらはクロエ様とアメリア様、そしてユーリヤ様に大きな選択を迫ります。」
「「「……………」」」
三人ともしばらく何も話さなくなってしまった。それはそうだ。自分の愛している子、慕っている人が敵組織の真の目的と知ればそうなってしまうだろう。
しばらくしてクロエは言った。
「そうだったのか……。アドル。まだ話があるのだろう。貴方が言っていた私達が決めなければならない大きな選択とはなんだ?」
「今、お教えしてもよろしいのですか?」
「確かに今私達はかなり驚いている。しかし、私達が選ばなければならない大きな選択なら、目を背けるような事はしたくない。だから教えてくれ……」
「承知しました。ではお教えします」
「「「………………」」」
「クロエ様、アメリア様、ユーリヤ様。どんな選択をしてもどうか自分を責めないでくださいね……。
敵はリリーラ王国の民とルーナ様を天秤にかけています。リリーラ王国の民の汚れを増やしルーナ様に対して汚れ払いの負担を……。いえ。ルーナ様自身を汚れで蝕むか。それともルーナ様を救う為に、リリーラ王国の民の汚れをそのままにしておくか…………。
ここからが大きな選択です。皆さんはリリーラ王国の民とルーナ様、どちらを選びますか?」
「…………ッ!」
「え…………!」
「なんだと…………!」
クロエ、アメリア、ユーリヤはそれぞれの反応をした。だが、この三人にとってはとても大きな選択だろう。
リリーラ王国の民を救おうとすればルーナが、ルーナを救おうとしたらリリーラ王国の民が……。どちらか一方が犠牲になるしか道はない。
クロエは考え込んでいる。アメリアは泣きながらも何か他に道がないか探している。ユーリヤは主と決めた人を救いたいがそれはきっと主が認めないだろう。きっと自分の身を犠牲にしてでも民を救うと言うだろう。
三人それぞれが、それぞれの想いで考える。
(ルーナはとても大事な、愛している娘だ。しかしルーナを助ければリリーラ王国の民が、リリーラ王国の民を助けようとすればルーナが……。ルーナを助けたい気持ちはあるが、ルーナがきっとそれを望まないだろう。きっと自分の事を犠牲にしてでも大好きな民を守りたいと言うだろう……。どちらを選ぶ事が最善の選択なんだ…………)
(ルーナかリリーラ王国の民のどちらを選ぶか……。そんなの決められないじゃない……。だって、どっちも私にとっては心から大事にしている人達だもの…………。どちらも助けられる道はないのかしら…………。)
(この身を犠牲にしてでも守ると決めた主を守りたい……。この選択がルーナ様が望むものでなかったとしても、ルーナ様から責められようとも、私はこの選択が間違っていたなんて思わない……。ルーナ様。私が間違えた選択をしてしまったとしてもどうかお許しください…………。今の私はルーナ様を守れなかった、あの時とは違う!だから、今度こそ守らせてください…………。)
皆がそれぞれの『守りたいもの』の為に、どのように行動するべきか考えている。皆が皆、それが最善の選択だと思い込んで……。
ー数分後
アドルはこう言った。
「三人がどちらを選択しても、誰も責める事はしないでしょう……。まだ、少しなら時間があります。どうかそれまでゆっくり考えてください。そして、その選択が間違えていたものだったとしても自分自身を責めないでくださいね…………。
では、今日のところは失礼します……。」
アドルは一礼して、執務室を後にした。
クロエ、アメリア、ユーリヤの三人に残された選択の時間は長くはないだろう。三人にとっては辛い選択だとしても必ずどちらかを選ばなくてはならない……。
これはきっと、神が与えた試練なのかもしれない……。それをどう乗り切るのかは、まだ誰にも分からないのであった…………。
ールーナの部屋
ルーナはずっと思っていた。
(目が覚めたのは本当にアドルのおかげね。本当に感謝しなくっちゃ……)
しかしルーナは思ってしまった。
(アドルが知っている敵の目的は本当にあれだけなのかしら……)
アドルが言っていた目的が全てなら、どうしてもっと早く行動しなかったのか……。疑問しか浮かばない。汚れを増やすだけだったらすぐにでも出来たはずなのに……。
沢山の疑問が頭をいっぱいにした時、ルーナは思ってしまった。
(もしかして、敵の本当の目的は汚れを増やす事じゃなくて、私自身にあるのかしら……)
その時、恐怖と言う言葉が頭を支配したがそれはすぐになくなった。
(私のせいでリリーラ王国の民が犠牲になるのはもう嫌よ。エリーのように苦しんでいる人を増やしたくない……。民を救う為なら私はどんな手段でも使ってみせるんだから!)
ルーナは決意を胸に目を閉じて、眠るのであった。
こんばんは。今回もリリーラ王国物語を読んで頂きありがとうございます。
これからも頑張りますので、温かく見守ってくださると幸いです。




