とこしえの化物
??にて現聖女の娘視点です。
お養父さんを看取った。「お前に頼まなくて良かったよ」という言葉を残して死んだ。わたしたちの感覚でなら薄命だったと言えるだろう。感情の起伏がなくて機微にも疎い、機械のような人だった。あなたは自分には人の心がないと口癖のように言っていたのに、人とは明らかに違っていた厄介なわたしを慮る心があった。
あなたとは本当の親子ではないとは知っていたけれど、あなたは出来得る範囲で実の娘のように扱ってくれていたように思う。打算があってわたしを育てていたはずだろうに、いつの間にかわたしたちは本当の親子のようになっていた。死にたがりのあなたは、自分の命が尽きるその瞬間まで一緒に生きてくれた。だからもういいのだ。
わたしの幸いはあなた。ただただ気の遠くなるほどの時間を約束されたこの生涯で、なぜこんなにも早々に出会ってしまったのだろう。これからわたしは残酷な数字を数えてゆかなければならないのだ。健全な心身を以て、あなたを失ってどれだけ過ぎたのか、あとどれだけ生きればあなたの元に逝けるのかという途方もない日々を。
悲しみに打ちひしがれても心がボロボロに蝕まれても、わたしたらしめる全てが健全な心身をもたらし続けて、そのせいで心を病むことも体も痛めつけることも命を絶つこともできないのだから。
簡略も簡略、ぜんぶ我流のとんでも葬儀が終わった。もうこの世にあなたを偲ぶことのできるものは何一つ存在しない。全て消し去ってほしいというのがあなたの願いだったから。
切っ先を高々と主張する角も、肉を食い千切る牙も他所を屠る爪もないけれど。わたしが色彩の変わった瞳であなたを見て、あなたは私のたてがみを少し乱暴に撫でた。在りし日の幸福であった記憶を食みながらならばきっと生き抜いていける。
胎内に宿る一筋の希望の種と共に、わたしはこれから世界を渡るのだ。全てを消し去るために。だってそれはあなたの願いなのだから。