めくら蛇の末路
現世にて現聖女の父親視点です。
「魔法を使うな」「女を孕ませるな」「家庭を持つな」と言われて育った。後者2つはよく分からなかったが、「魔法を使うな」だけは理解ができた。
でも次兄だけはこっそり使わせてもらっているのを知っている。角や牙、羽根をこそぎ落とすのに使うのだ。じゅわ、と肉が焦げるときの香ばしい匂いと漂わせながら、真っ赤な炎が次兄の異形の部分を燃やし尽くす。涼しい顔をしている、熱くはないらしい。
試しに僕もコンロの火で指先を炙ろうとしたけれど、近づけただけで熱くて熱くて、後に水膨れができてしまった。
自分で出してみようにも、どう頑張っても僕には次兄のような真っ赤な炎は出せやしない。こっそりコツを聞いてみても次兄は知らん顔をする。もう1人の兄、長兄にも聞いてみたけど、こっちの兄は困った顔で「僕には魔力がないからあるだけ羨ましいよ」と言うだけだ。長兄は不思議な雰囲気を持っている人だった。儚げで神秘的。外見の作りは次兄とほぼ同じなのに、色白で病弱、少しだけ耳が尖っていて変わった形をしていた。いつ会いに行っても優しく微笑んで、家族で唯一、僕のことを褒めてくれる。長兄の声も言葉もとても耳心地が良くて、僕はこの兄のことが大好きだったのだ。この家に残る理由は長兄の存在があるからといっても良い。それほど彼の傍は離れがたかった。
しばらくしてから長兄が亡くなり、次兄とはますます折り合いが悪くなった。相変わらず「魔法を使うな」とは言われ続けていたが、使い方が分からないんだから使いようがない。
長兄の死をきっかけに、家の外へ視野を広げれてみれば、得体の知れない魔法なんてものよりよほど楽しいことがいっぱいあることを知った。いつの間にか魔法への興味は一機に消え失せ、次兄が魔法を使う光景は一種の虐待じみた何らかとして記憶の片隅に残った。それは僕がやさぐれ、家訓を一切顧みないことの理由に直結する。
精神障害のある母親から三つ子として生まれた。虐待をする祖父母の元で育った。家族の中で唯一心を許せた長兄が亡くなった。そんな僕の生い立ちは特段物珍しいものではないがあり触れたものでもなく、心優しい人間からは少なくない同情と代替的な愛情を受けた。家族から疎ましがられていた僕には心地よくて、僕を愛してくれた女性の中で最も若く美しい女性を妻にした。そして家庭を作り、子を成した。娘は妻によく似ていて美しく成長していく。多幸感に溢れていた。耳にこびりつくほどに散々「女を孕ませるな」「家庭を持つな」と言われた。でもそれは本当の幸せを手に入れられなかった連中の嫉妬だったのだ。僕の勝ちだ。