神様の手飼い子
異世界にて魔王視点です。
魔人の召喚魔法とは、膨大な正の魔力を秘める子どもをその身に宿す“母体”を、異世界から呼び寄せるものである。魔力というものに取り憑かれた人間たちは身勝手な都合で”聖女”を呼び寄せているらしい。
ただ今代の勇者は白痴で魔力袋として以外使い物にならず、人間たちは聖女本人に尻拭いを要求した。不条理な扱いを受けた聖女が恭順を示すわけもなく、勇者の真似事をさせられることになった彼女が逃げ出すのも無理はなかった。
赤子のみぎりから都合のよい情操を植え付けながら育てあげる勇者と成熟した1人の女である聖女は違う。この世で私の次、あるいは私より高い魔力を保有するであろう聖女に一介の人間が敵うはずもない。
歴代の勇者にも劣らぬ力で私の元へたどり着いた彼女は「敵の敵は味方だ」と言い放ち、この根城に住み着き始めた。お互い害する予定はなく、むしろ近くに生き物がいるという状況が私にとっては物珍しく、彼女の好きにさせていた。
数百年が過ぎ、彼女との生活が何にも代えがたい物となった頃。私の聖女が忽然と姿を消した。私の子をその身に宿したまま!そうしてようやく魔人の召喚魔法の全容を思い知る。私の子、膨大な負の魔力を秘めた我が子を身に宿した彼女は、この世界から捨てられたのだ。