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多胎児の片割れ

現世にて叔父視点です。

はじめに虚弱だった兄が死んだ。次にトロトロの廃人状態だった母親が死んだ。自分と、存在するだけで災厄をまき散す弟だけが残った。一方的に家族とは縁を切り、家庭を持ち、幸せを手に入れたと思い込んでいた愚か者。自らが望んだ通りに進む人生は相当楽しかったことだろう。そうして弟は、身近な人間を災厄の中に巻き込むだけ巻き込み死に逃げをした。弟のさっさと死ねる身体を妬みながら尻拭いをする。死んだ兄との約束でもあるから守らなければならない。兄は自分が愛した家族を私に託したのだ。兄だけは裏切れない。

巻き込まれた人間のうち1人だけ、生き残った人物がいた。姪の幼なじみなのだという。姪の幼なじみは、多岐に渡って弟の身勝手な洗脳を受けていた。それは強烈かつ凶悪で、一般人の彼には抗う余地などなく、傍目にも異様な狂気を思わせた。

身寄りのない人間を狙う手口は昔から変わっていない、姪の幼なじみも弟の妻となった女性もそうだった。彼には頼りにできるような家族も、あの様子では友人すら離れていったことだろう。それでも、たった1人で生きてきた彼は立派だと思う。




姪の居所自体は分からない。しかし彼女の状況には聞き覚えあった。育ての親が言っていたのだ、私の姉も長年行方不明になっていた期間があったと。後に、妊娠し気が触れた状態で帰ってきたとも聞いた。根拠はないが、姪も同じ状況であると確信している。


それから少し経ったあくる日、雪がチラつく凍えた日。1人の女子を抱えた姪の幼なじみが訪ねてきた。彼の様子は、ほんの少し見なかったうちに悪化しているようだった。くぼんだ目は血走り、焦燥感をたたえた表情からは死の気配さえしていた。

言うなら今しかない。そう思って彼に強い語調で「もう来るな」と言った。

弟の洗脳に漬かり切った彼を目覚めさせるには、姪が見つかって罪悪感が少し薄まった瞬間つまり洗脳が浅くなった瞬間、よりも強い魔力に当てるしかなかった。

言葉通り憑き物が落ちた彼は、もう二度と私の前に現れることはなかった。


ベッドで繭のようになっている姪は苦しんでいた。姪の幼なじみに連れられて来た当初よりもずっと強く。これは陣痛、出産の兆候だ。ただし尋常ではない。

「■■■、■■■■■っ、■■■■■ッ!!」

「おい」

「■■!?■■■~~~!!■■■ッ!!」

泣き叫んでいるということ以外分からない。何かを必死に伝えたいようだが姪の言葉は意味を成していない。しばらくして虫の息となった姪から、

――バリ

身の毛がよだつ程の、異様な音がした。




姪の胎を突き破って産まれてきた赤ん坊は、かつての私と兄を合わせたような相貌をしていた。小さな頭と背にわずかな突起物を携え、唇からは産まれたばかりだというのに鋭い歯を覗かせていた。何より目を見張るのはその眼光。滴り落ちそうな真っ赤な血の色。なんて私に似ているのだろうか!母親殺し。この赤ん坊は私と同じ道を、あるいはもっと過酷な道を歩んでいくことになるに違いない。

抱き上げ方が乱雑で気に入らなかったらしく親指を噛まれた。そこで産まれてはじめて痛みというものを知る。私は慌てて抱き直す。今度は丁寧に、大切に。だって有望な赤ん坊なのだから。きっとこの子なら私を殺してくれる。

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