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テンセイミナゴロシ  作者: アリストキクニ
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4-9 コネクター②

「だってそうでしょう? ただの人間と転生者の間にはどうやっても覆せない優劣が存在しているわ」

 人間を『下等生物』と言い切ったコネクターが言葉を続ける。

「その力がどうやって与えられたにせよ、そして転生世界に生きる生物達が導きの扉によって生み出されたまがい物なのだとしても、あなたがそれを考えたとして何か意味があるのかしら?」

「それは……」

 彼女の見た目からは到底相応しくないような冷たい言葉。この外見だけは幼い少女は一体どんな人生を歩んできたのだろうか。

「あなたのその考え方は、リーダーに全てを奪われたとさっき言っていたことに関係があるんですか?」

 リーダーを始めとしてアンタッチャブルの彼らは過去に大きな間違いを犯したことは理解した。コネクターはその被害者という事なのだろうか?

「そんな昔の話はあまり関係のない事よ。それでも私の始まりはそこにあるわ」

 そう言って彼女は自分の過去を語り始める。

「私は特に特別な人間ではなかったわ。どこにでもある農村の、どこにでもいる貧しい家族。どこにでもいる人買いに買われて、どこにでもいる娼婦になった」

「ある日私がいつものように働いていると、全身から眩い光を放った四人組が店の中に現れた。私は丁度売春宿のオーナー室から出てきたところで、タイミングの悪い事に口の端から血を流していたの。四人組のリーダー格の人はそれを見て私に手厚い治療を施し、怒りを露わにしてオーナー室に入って行くと、同席していた私を買った人買いと共にオーナーを真っ二つに切り裂いた」

「彼らは私に見たこともない宝石や金貨を渡して、何かを話しあったかと思うとまたどこかへと去って行った。後に残されたのは人買いとオーナーの死体、そして娼館から解放された女たちだけだった」

「あなたはこれを聞いてどう思った? 颯爽と現れたヒーローが幼い子供たちに身体を売らせている悪人を成敗して財宝を与えた美談に聞こえたかしら」

「…………」

 昔の自分なら手放しで喜ぶべき英雄譚だと思ったかもしれない。しかし今の僕はそうではない事を理解している。

「ふふふ。あなたも成長したのね」

 彼女はまた心を読んだかのように反応する。

「私は本当に貧しい家庭に生まれたの。あなたは赤ちゃんが痩せ衰えていくところを見守ったことはあるかしら? 私は自分の両親に自分から願い出たの。別れの日に両親はずっと泣いていたわ。人買いに身売りなんて、大して珍しいものでもなかったのにね」

「人買いもオーナーも、お店で働いていた女の人たちもみんな優しかったわ。特にオーナーは本当にお人よしな人でね、私はまだ小さいからってほとんど仕事を回さなかった。たまにくる仕事も、身体を売るようなものじゃなくて、お金持ちの目の前でたくさんの服を着たり脱いだりするだけだったり、絵のモデルだったり。もちろんそんな仕事なんて滅多にないから、私はほとんどお店の中で雑用ばっかりしていたわ」

「だから私はオーナーに聞いたの。『どうしてあなたみたいな人がこんな仕事をしているの?』って。そしたら彼はなんて答えたと思う? 『女の子はすぐ死んじゃうから』だって。そういった彼の表情はすごく悲しそうで、きっと彼には彼の人生があったんだなって思った」

「お店には私ぐらいの年齢の女の子が何人かいてね、みんな人買いに売られたり行き倒れたのを拾われたりした子達だった。私達は実際にお客を取ってる女の人たち、『お姉ちゃん』って呼んでたけど、その人たちの稼ぎやオーナーのお仕事のお金で養われていたようなものだった。たまにくる仕事のお金はみんな故郷の家族に送ってもらったわ。人買いはおせっかいにもちょくちょくお店に顔を出しては自分が売った子供の様子を見に来ては、罪滅ぼしなんて言いながら離れた家族との間への手紙のやり取りを手伝ってくれたわ」

「私は幸せだったの。いや、あの町で売春宿なんて言われるところで生きていた人たちは、あの頃はみんな幸せだった。それもこれも全部私のオーナーが身を削るような仕事をしながら町の有力者にお金を渡していたからだった。彼が自分の為にお金を使っているところなんて見たことなかった。偉い人たちに会う為のたった一着の一張羅を丁寧に丁寧にブラッシングしながら、『いつかきっと世界はよくなるよ』なんて夢物語を語っていたわ」

「そしてあの日、リーダー達が私達の世界に堕ちてきた時、全ては壊れてしまった。私はいつものように雑用をこなしていると、人買いがお菓子を持ってきて様子を見に来てくれたの。そのクッキーは少し硬かったけれどとても甘くて、慌てて食べたせいで口の端を噛んで切ってしまった。そして他の子達の分を私に行こうと部屋を出た時にリーダーたちに出会って、二人は殺されてしまった」

「リーダーたちにとって私はどう映っていたのかしら。きっととても可哀そうな子供に見えたんでしょうね」

「そしてその日から私の……、いえ、私達の地獄の日々が始まった」

「眩いばかりの宝石、両手から零れ落ちるほどの金貨の山。私達はそれをみんなで丁寧に分けた。一つ一つ、一枚一枚、『お宝の山』を分けながら、私達は呪いの言葉を呟いていた」

「ほとんどのお姉ちゃんはすぐに死んだわ。あなたならわかるでしょ? 殺されたの。お店やオーナーの後ろ盾がなくなった私達には、自分の財産を守るための手段が全くなかった。宝石を売ろうとしたとき、護衛を雇おうとしたとき、上等なワインがいくつも買えるような輝く金貨でたった一つのパンを買おうとしたとき、私達は殴られ、奪われ、死んでしまった」

「私を含めた何人かは幸いな事に命までは取られなかった。命以外の全て奪われたけれど、それでも生きていた。そしてこれからも生きていくために、働かなくてはいけなかった。でも身元もはっきりしていない元娼婦を雇ってくれる奇特な人はいなかったわ。結局私達は町の路地や人の目につかないところに立って客を探すしかなかった」

「まともにお金を払ってくれた人は数えるくらいだった。オーナーも、彼の雇った屈強な護衛達もいない私には、それを咎める方法は一つもなかった。本当に大した金額じゃないのよ。歯が欠けるようなパンが一つ二つ買えるぐらいの、取るに足らないはした金」

「私達のオーナーがいなくなって、街はまた元のあるべき姿に戻ったわ。町ゆく人たちは私達を蔑み貶め、もはや私達は死を待つだけだった……」

「そんな時に私はルイナーに出会ったの」

「いつものように死んだような魚の目をして物陰で客を探していると、突然地面が激しく揺れたの。大地が粉々に砕けて割れるんじゃないかってぐらい大きな音と振動。そして実際に私の立つ地面はヒビのような亀裂と共に割れ始めた」

「人々は叫びながらあてもなく逃げ纏っていたけれど、私にはもうどうでもよかった。むしろこの世界が滅ぶのを喜んでいたのかもしれないわ」

「私は崩れ落ちる民家に巻き込まれて重傷を負ったわ。下半身は瓦礫に埋もれ、全身から血が流れて行った」

「だんだんとぼやけていく視界で、世界の終わりには似つかわしくないほどの青々とした空を見ていた。私の見る最後の景色がこれなら悪くはないかも、なんて考えながら目を閉じようとしたとき、急に目の前に角を生やした大きな顔が現れたの」

「それが私とルイナーの出会い」

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