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テンセイミナゴロシ  作者: アリストキクニ
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4-7 過去②

 いとも容易く神の胸に光の剣が深々と刺さった事に、誰もが大きな違和感を感じていた。当然ここで攻撃を緩めたりするほどぬるい戦いをしてきたわけではない。刺さった剣をさらに奥深くまで押し込み、ねじるようにして傷口を広げていく。

 動きの止まった神の頭上にヒーラーが大きく飛んだ。自分の身体よりも遥かに巨大な鉄球をそのまま振り下ろす。ベキベキと何かが折れる音がして、神の身長が数分の一に縮んだ。さらにそこにビリーバーのキューブが次々に撃ち込まれていき、神を焦げた肉の塊に変えた。

「…………」

 誰もが黙ったままだ。ここまでしても一切気を緩めることなく、消し炭になった神の残滓に警戒を続けた。そしてそのまま十分ほどが経過しただろうか、ようやく皆一息つき、構えていた武器を下げた。

「どうだ?」

 アンダースタンダーに確認を取る。『理解者』の能力を持つ彼女の力は様々な事実を明らかにする情報系の能力だ。

「ええ、大丈夫。死んでいるわ」

 今まで彼女が真偽を間違えたことはない。神は死んだのだ。あまりにもあっけない最後についつい笑ってしまう。

「こんなことなら皆死ぬこともなかった」

 周囲には仲間たちの死体が転がっている。誰も彼も自分の犯してきた罪に耐えられず死んでいった者達ばかりだ。彼らには神に刃する発想すらなかったのだろう。私達だってそうだ、神に敵うとは微塵にも思っていなかった。ただヒーラーがきちんと死ねるように、一番可能性の高い自殺の方法を実行しただけだったのだ。

「これからどうするかねえ」

 ビリーバーが両腕を頭に回しながらつぶやく。確かに転生自体はここで終わりになるだろうが、問題がそれで全て解決するわけではない。ここにいる四人は神の遺した人には大きすぎる力を持ったままだし、ヒーラーが死ぬ方法も見つけられていない。転生者に寿命や老衰があるとは思えないので、もしかしたら私達はこのまま悠久の時を生きていくことになるのかもしれない。

「まずは謝罪行脚かしら」

 自分たちが今までにしてきた行いを思い出し、皆暗い表情になる。私達が正義を振りかざして積み上げてきた死体も実績も、全ては許される事のない罪業だったのだ。

「そうだね。きっと許されることはないだろうけど、自分たちにできる贖罪を可能な限り続けていくしかない」

 全員が強く頷く。過去の罪は消えない、そしてこれから私達が何をしたとしても、それが帳消しになるわけではないのだ。しかしそれでも私達はやらなくてはならない、犯した罪から目を背けず、少しでも多くの人に笑顔を取り戻さなくてはいけないのだ。

 そう決意して顔をあげる。そこには汚れたウサギの人形が浮かんでいた。


 全員が瞬時に武器を構えて戦闘態勢に入る。アンダースタンダーが人形の解析にかかり、私は防御スキルをかけていく。この人形が一体何であるかはわからないが、とにかくまともなものではないだろう。

「ダメ! わからない!」

 アンダースタンダーの悲痛な声が響いた。彼女が理解できなかった者など今まで何一つなかったのに、その彼女がわからないと言ったのだ。

 全員の表情がこわばり、全身から冷や汗が流れる。一見ただの人形にしか見えないこの物体は、神の力を備えた我々で推し量ることができないものなのだ。

「どうする!? 攻撃するか!?」

 ビリーバーも迷ってしまっている。私も判断がつけられないでいた。

「全力で防御! 何があってもすぐに逃げられる準備もだ!」

 こんな指示をだすのがやっとだ。いっそ殴りかかってきてくれればありがたかった、それなら応戦するだけなのだから。

「う……動いてる!」

 ヒーラーの言葉に更に警戒を強くする。確かにあのウサギの人形は、ゆっくりと動き出していた。いつでも反撃に移れるように重心を整える。人形の一挙一動を注視していると、それは地面へと降り立ち、唐突に何かを喋り出した。

「よおよおよお! やったなやったなやったなあ! まさか神を殺しちまうなんて、人間からはまだまだ色んな事が学べそうだぜ!」

 人形は大きな声で乱暴な言葉を叫ぶ。顔の部分に縫い付けられた糸やボタンは一切動いていないのに、一体どこから声を出しているのだろうか。

「神をも恐れぬその勇敢さは結構だが、もうちょっとオツムを使わなきゃいけないぜ! 例えば神が死んじまったのに存続してるこの世界のこととかよお!」

 そういいながら人形が導きの扉を召喚した。

「転生世界ってのは都合のいい作りモンだってことはカミサマから聞いたんだろ!? お前らが正義面して助けてた被害者たちってのは、実はお前らが正義面するためだけに役割を与えられた本当の被害者だってことも!」

 その通りだ。私達はこの転生の邪悪な仕組みも、神がなんのために人間を作り痛めつけているのかも、神本人の口から全て説明をされたのだ。あの醜悪な見世物と共に。

「それじゃあよお! 世界や人を作った神が死んだとしたら、そのまま世界が続いていくのはちょっとおかしいとはおもわねえのか!?」

 人形の言葉を冷静にかみ砕く。神が死んだとはいえ神の創作物が世に残り続ける事はおかしいとはいえないはずだ。しかし先ほどからあの人形がバタバタと開け閉めを繰り返している導きの扉。あれは扉を開いた者にとって都合のいい世界を作り出すための装置だ。もしもあれがまだ働いているのだとしたら……

「そもそもよお! 神がお前たちより上位の存在なら、こんなにあっさりは殺されたりしねえだろ!」

 未だにくすぶっていた神の消し炭を乱暴に蹴り飛ばす。塵は虚空へと消え、ついに神がいた痕跡はこの世から完全に消えてしまった。

「そういうことだったのか……」

 私の言葉に人形がピクリと反応する。

「おお、さすがは神殺しだけあるねえ。生半可な理解力じゃないようだ。それともお前の能力によるもんなのかなあ?」

 人形は無視して仲間とアイコンタクトを取る。どうやら全員理解できているようで、これからの選択に対して苦渋の表情をしている。

「まあ万が一すれ違いがあっちゃいけねえからよ! ご丁寧にご説明さしあげます! 神様なんてのは俺のご主人様である絶対者様が造った役職の一つでしかねえわけ! 何人死んでも何にも変わらねえ! それどころかお前らはそのせいでもっともっと苦しむ羽目になるんだからな!」

 ヒーラーは駄目だ。ビリーバーも駄目。もちろん私なんてもってのほかだ。自然と仲間たちの視線がアンダースタンダーに集まった。彼女ももう全てを理解し、そして受け入れる覚悟もしている。だがその前に、もう一度だけ奇跡にすがってもいいだろうか?

「俺が来た理由もわかったな!? そう! 次の神は神殺しの中から選ばれる! さあ決めろ! 誰がいい? お前たちが忌み嫌い、転生者も天聖者も騙して操り、生まれるはずのなかった被害者を世界中に生み出しながら勢力を拡大している『神』になるのは誰がいいんだ?」

 私は静かに重心を前に移動し、アンダースタナーがバフをかけていく。ヒーラーが戦槌をわずかに浮かし、ビリーバーは魔法の先詠唱を終わらせた。

「シッ!」

 今までのどの戦いの時よりも、私達は疾く、そして完璧に連携した。ヒーラーの槌は地を揺るがし、予備動作なしに数多の魔法が人形向けて飛ぶ。あらゆるバフを受けたこの身は嘘偽りなく、光の速度で人形に向かって剣を振り下ろした。


 しかしダメだった。世界を揺るがす振動も、叩き込まれた絶死の魔法も、私の剣も、人形の生地に傷一つつけることはできなかった。このウサギは私達の攻撃などなかったかのように、一切の反応を返さず延々としゃべり続けている。

「言っただろ! 俺のご主人様は絶対者なんだ! お前達とはまるで次元が違う! 二次元に住む漫画の中の登場人物が三次元のお前ら人間に何か攻撃したりできるか!? おんなじことさ! お前達低次元の生き物には理解どころか知覚すらできないだろうがよ! お前らがこの俺様に影響を与える事なんてできないのさ!」

 結局奇跡は起きなかった。神を殺せたのも奇跡じゃない、ただの必然だ。神はただ我々と同じ存在で、少しだけ立場が違うだけの生物だったんだ。そしてきっと、神が一切の抵抗をしなかったのも、きっとこのためなんだろう。

「いいねえ! いいよ! 神を殺せた悦び! その神がくだらない存在だったことを理解した時の落胆! 上位者の存在に対する驚愕! そしてそれに従うしかない屈辱と絶望! どれもこれも人間なくしては存在しえなかった感情だ! 絶対者様にとってのごちそうだ!」

 僕たちは再度アイコンタクトを取り、強く頷くと誓い合った。絶対に諦めないと。永遠とも思える時を過ごすことになったとしても、必ずこいつらを殺してやると。

 全てを皆殺しにしてやると。

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