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テンセイミナゴロシ  作者: アリストキクニ
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4-6 過去

「さて、それではオールにこれから我々のおおまかな予定を教えよう」

 リーダーは握っていた手を離し、一歩後ろに下がって話し始める。

「まず第一にコネクターの説得。彼女は世界から転生そのものをなくそうとする私達の目的に反対している。今は私たちに協力してくれているが、恐らくこのままでは彼女は敵に回るだろう」

 彼の言葉に驚き、勢いよくコネクターの方を見る。目の前で裏切者呼ばわりされているのにも関わらず、彼女はいつも通りルイナーの肩に座りながら、ぼさぼさの赤い長髪を手櫛で撫でつけていた。

「次にアンダースタンダーの救出」

 もっと詳しくコネクターの事について聞こうと思ったが、リーダーは構わずに話をどんどん進めていく。

「彼女の自我もそろそろ限界だろう。それでもその崩壊までにここまで来れたことはかなりの前進といっていい。なにしろ初回などはオールは天聖軍所属のまま神の間で狂い死にし、それを見届けたアンダースタンダーはそのまま完全に女神化、絶対者のおもちゃになってしまった」

 そうだ。これも確認しておかなくてはいけない。どうして始原の四聖と呼ばれる最後の一人、アンダースタンダーが女神となって天聖軍を指揮しているのか。リーダーは神を殺したといっていたが、そこで一体何が起きたのだろうか。

「最後に絶対者の説得、もしくは殺害。これで人間をこの地獄の転生サイクルから解き放つ」

 リーダーの言葉に場がシン……と静まる。

「殺すんは……きついかもなあ」

 ダウターが苦笑しながら言った。

「あれ、ダウターもその絶対者を見たことがあるの?」

 その宇宙を始めたりリセットしている絶対者というのは、まさに宇宙の誕生や終わりの時に姿を出すものだと思っていた。リーダーはホールダーの呪いによってそれを体験しているようだが、ダウターは不死身ではないはずだ。現にブレイカーが暴走していた時に僕をかばって死んでしまった。

「見たというか戦ったことがあるんや。始原の四聖と言われてる俺ら第一世代の生き残りの四人は、一度絶対者に戦いを挑んだことがある」

 結果……は聞くまでもないだろう。そこで彼らが勝利していたのなら、今この現状になっているはずがないのだから。

「そのあたりについても話しておこう。アンダースタンダーを助けるためにも必要なことだ」

 そういってリーダーは、第一世代のほとんどが自害を選び、唯一四人だけが生き残ったあの時の事を語りだした。



 そこは阿鼻叫喚の地獄だった。神に選ばれし存在として、神の為、人の為に力を奮い続けてきた。しかし今ここで見せられたあの映像が本物だというのなら、私達がしてきたことはただの虐殺だった。自らの力や能力に酔いしれながら、恍惚とした表情を浮かべて人間を己の武器と変え、暴徒の様に振り回しながら別の人間に叩きつける自分の姿。目の前で高笑いを続けているあの男が神でなければ信じる事はできなかっただろう。

 周りではその現実に耐える事ができなかった者達が、次々に自ら命を絶っていた。当然の反応だと思う。私のほとんど働いていない自分の脳が、最後の力を振り絞るようにしてここで死ぬべきだと叫んでいた。

 虚空から光の剣を取り出……そうとして踏みとどまった。私が今まで自由気ままに繰り出してきた剣技も、人間の怨嗟と憎悪の化身だったのだ。私はただ自分の両手で自らの喉をぎゅっとつかみ、そのまま力を込めていく。

「り……りーだー……」

 その声に後ろを振り向く。そこにはビリーバーとヒーラー、そしてアンダースタンダーがいた。私の一番の仲間達。そして今では愚かな共犯者たちとなった彼らが、縋るような目で私をみつめていた。

 私のリーダーの能力は完全で無欠だった。戦闘、政治、生活、何においても私は完璧だった。しかしそんな私の力でもこの状況をどうにかできるとは思えなかった。私の力は完全であるが、世の中のルールを変えられるわけではない。世界を構築しているシステムに変化をもたらすことができるようなものではないのだ。

 共に数え切れぬほどの世界を回った罪深き戦友たちは、私の表情で全てを悟ったようだった。皆もまた私と同じように、ここで終わらせるために両手を首へと動かす。

 しかしその時、ヒーラーの動きがピタッと止まった。その表情は恐怖に塗れ、彼女は頭を抱え込んでその場に倒れる。

 そして私達も理解してしまった。『彼女は死ぬことができるのだろうか?』

 『全知』のアンダースタンダーに視線を向ける。彼女はただ泣いていた。そしてまた私達もそれで全てを悟った。彼女の『全治』は彼女を殺せないのだと。

 ついに生きているのは私達四人と、目の前で未だに大きな声をあげて笑っている神を騙る何かだけになった。そして……その時には私達の覚悟も決まっていた。特に言葉を交わす必要もなく、私達の意志はいつも一つだった。

 立ち上がり、葛藤を断ち切るように頭を振って大きな光の剣を召喚する。私が今まで神の、光の力と信じていたこの剣。その力の源がなんたるかを理解しながらも、私はそれを正眼に構えた。

 ビリーバーが神の周りにフィールドを敷き詰め、いくつものルービックキューブを召喚する。ヒーラーは彼女の武器の中で一番大きな戦鎚を召喚し、その先の巨大な球の部分を優しくなでた。アンダースタンダーは古めかしい杖を取り出すと目を瞑り、両手を大きく広げた。彼女の全身から眩いオーラが発生し、杖はひとりでに浮き上がり呪文のような文様を浮かび上がらせ、私達四人の能力を向上させた。

 

 ヒーラーが戦鎚を自分の目の前の地面に叩きつける。彼女を中心に巨大な地震が発生した。憎き神はその衝撃に笑うことを止め、すぐに空へと浮かび上がる。しかしそこにビリーバーのキューブが突き刺さる。今まで見た中のどれよりも複雑で大きなその立方体が、ありとあらゆる攻撃魔法とデバフ魔法が神を襲った。

 意外にも私達の攻撃は神に通用していた。自分で死ぬことができないのなら、せめて一太刀浴びせて殺されてしまおうとしていた私達の思惑は良い方に外れたのだ。

 私は地面を蹴り、ビリーバーの敷いた魔法フィールドの上を駆けていく。どれか一つでも間違ったタイルを踏めば、致死性の魔法が全身を貫くこの複雑な魔法の迷路。しかし私達が培ってきた絆がどこを通ればいいかを教えてくれる。迷いなく最短距離を踏破し、ダメージを負ってバランスを崩している神の懐まで一瞬でたどり着いた。

「おおおおおおおおおっ!」

 あらん限りの声を出しながら剣を振り下ろす。私の『導く者』の能力、リーダーとして必要な要素、『相手を上回る』だけの単純ながらにして無欠の能力は神を相手にしても滞りなく発揮され、神の必死の抵抗をすり抜けるようにして、この呪われた光の剣は神の身体を二つに切り裂いた。

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