4−1 世界の仕組み
「おかえり、オール、ブレイカー」
裁判所に戻るとアンタッチャブルの主要メンバーが勢揃いしていた。リーダー、ダウター、ルイナー、コネクター、ナビゲーターはもちろん、珍しいことにピースメイカーまで集まっていた。
ブレイカーとのやり取りでなんとなく浮ついていた僕の心も、このただならぬ雰囲気に一気に引き締まる。
「本当にありがとう。オール。君のおかげでブレイカーも元の聖名、『ヒーラー』としての力を取り戻せた」
ブレイカーも階段を登り、導きの扉の近くに並ぶ彼らの列に加わる。僕はここに初めて来た時と同じく部屋の中央の証人台のある位置だ。
「ブレイカーの力がなければ、オールにこの世界の真実を見せることは到底できなかった。私たち第一世代の天聖者が全員自ら死を選ぶほどに、残酷で悪趣味なこの世界の仕組み」
ルイナー以外の全員の表情が曇る。今まで断片的にしか聞かされていなかった真実。僕が一度経験したはずの失われた過去。
「君には未だに解けていない謎がいくつか残っていると思う。蘇生ややり直しのないこの世界で君が何度も『繰り返して』いること。私たちの大切な仲間であり、アンタッチャブルの一員であるはずのアンダースタンダーが女神として天聖軍に敬われ、転生世界を広げていること。私のこの姿、メンバー達の能力など挙げればキリがないだろう」
そうだ。この転生世界には本当に謎が多い。ダウターにいくつか教えられたこともあった。転生世界が全て地球を元にコピーされた粗悪品であること。そのコピーは転生者が導きの扉を開くことによって生成され、それは転生者にとってとても都合よくできていること。地球に存在しない生物や物質は非常に出来が悪く、単純な作りになっていること。
ダウターは魔族やモンスターなどの地球には存在していない生き物の正体が人間だといっていた。実際にダウターが人間だった時代、その時に彼の親代わりであったケイハ先生は転生していた世界で、天聖軍が幼な子を狙って攻撃をしてきたことがあった。
そして恐らく僕の封印された記憶の中に、その真実が眠っているのだろう。
「君が天聖軍のトップとして、私とアンダースタンダーを含めた三人で神の間に集まったことを覚えているかな?」
「はい。確かにそこまでは覚えています」
あの時はリーダーと僕は完全に敵対者だった。天聖軍の敵であるアンタッチャブルの親玉であるリーダーが、なぜ『女神様』によって神の間に招待されたのか理解できないまま、僕は天聖軍の一員として通ってきた過去を映像で見せられたのだ。
「君はあの上野まで、過去の私たちのようにこの世界の真実を見せられたのだ。そしてやはり君も第一世代の我々と同じように、精神を完全に破壊され、自ら死を望んだ」
……やはりリーダーが今から僕に教えようとしているのは、死を選びたくなるほどの真実についてなのだろう。そしてそれはダウターが言っていた、天聖軍が嬉々として力を奮っている相手の正体は人間だということなのだ。
「君の記憶を封印しているそれは私とアンダースタンダーの二人でかけた安全装置なのだ。と言ってもあの時はアンダースタンダーはもうほぼ全てを『女神様』に変えられていたから、ほとんどは私の手によるものだがね」
(女神様に変えられる……?)
ここにきてまた新しい謎が増えてしまった。まあいい、それもこの後ちゃんと教えてくれるのだろう。
「そして今からその安全装置の封印を解く。オールは自分の過去とこの世界の吐き気を催す仕組みについて知るだろう。もちろん何も対処をしなければ、また君の精神は破壊され自ら死を選ぶことになるだろう。しかしそれを我々全員の力で防ぐ」
リーダーのその発言と同時に、たくさんの何かとつながったような感覚を受ける。
「コネクターの力でこの場にいる全員の感覚をリンクさせた」
頭の中に直接リーダーの声が響く。
「私たちはオールを通じて同じものを見聞きし、体験する。君の罪は私たちの罪でもあるからだ」
「正直もっぺんあれを見せられるんはキッツいんすけどねえ」
「しょうがないよー。ボク達は罪と向き合わなきゃいけないんだ。それこそずっとずーっと死ぬまでね」
「オールさんが耐えられるといいんですけどねえ」
「その時はその時だ。そのために俺もここにいる」
「なんだっていいよ! さっさとやっちまおうじゃないか!」
「そうね。どのみちオールがダメならこの世界も終わりよ」
自分の頭の中でたくさんの言葉が好き勝手に会議をしているのはとても奇妙な感覚だった。しかし意外にも不快感などは感じず、まるでみんなが自分のすぐ近くにいるようだった。
「それじゃ始めよう。ルイナー、壊してくれ」
「あいよ!」
ルイナーの威勢のいい返事とともに、僕の心臓の部分からバキン! と金属が割れたような音が聞こえた。それと同時に僕の意識も何かに引き込まれていく。
「さあ行こう。転生世界を支える邪悪なシステムのその現場に」




