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テンセイミナゴロシ  作者: アリストキクニ
32/88

2-20 金福 満

 この町の困窮者はかなり多いようで、いつの間にか空が白み始めていた。一番ひどい状況に置かれているような人たちを助ける事はできたのだが、ダウターがそろそろ集合をかけるだろうということで、私たちは後ろ髪を引かれる思いでこの場から離れ、鎧を脱いであのボロを着なおして元の集合場所へと戻った。

 そこには私たち以外が全員集まっていたようで、到着と同時にダウターが話し始める。

「みんなお手伝いありがとうさん。それじゃ門出すから帰ってまた指示を待っててくれ」

 ダウターが導きの門を召喚し、続々とその中へと入っていった。私もそれに続こうとしたがダウターに呼び止められる。

「オールにはまだ寄ってもらうとこがあるんよ」

 見ればサンズガワも門には入らず待機しているようだ。

「この世界の転生者に挨拶しようと思ってな。みんなで行こうや」

「殺さんぞ!」

「わかってるってしつこいのお。黙って見てるだけでいいって言ってるやん」

「お前たちが殺そうとするなら止める!」

「あのなあ、殺す気やったら最初からやってるって。俺たちは転生者に絶対害を与えんから、落ち着いてくれんか」

「……それならいいんだ」

「そうそう、これから行くとこはボロ着る必要ないからもう脱いでもええで」

 ダウターの言葉に私たちは皆いつもの服装に戻る。スーツが二人に鎧が一人と、この町の住人からすればかなり奇妙な格好であるのは間違いないはずだが、ダウターは町の人に気さくに声をかけながら歩いている。それに対する住人の返事も明るくまるで昔馴染みのような気軽さだ。


「ここには何度か着ているのか?」

「配給は出来るだけ継続して定期的にやっとるからな。もっとも町のもんは俺らが配給してることなんて全くしらんやろうけど、転生者に会いに行ったりここで飯食ったりはしてるから、お互い顔知ってるやつぐらいはおるよ」

「なぜ支援を隠れて行う? 昼から堂々とやればいいだろう」

 私の質問にダウターは心底呆れたというような顔をする。

「聞く前にちょっとは考ええな。まあ全能バリバリで生きてきたもんにはわからんかもしれんけどな」

「まあオールさんは貧困なんてのとは縁遠かったでしょうからねえ。想像するのは難しいかも」

「お前達だって別に飢えたり困ったりしているわけじゃないだろう!」

 二人の責めるような口調についつい言い返してしまう。

「俺らがそういう人間をどれだけ見てきたと思う? 想像なんかする必要ないんや、実際にいつも見てるんやから」

「ならば教えてくれてもいいだろう。毎度毎度『お前には理解できない』ではわかる物もわからなくなる」

 その言葉にダウターが足を止める。一から説明してくれるのかと期待したが、返ってきた返事は真逆のものだった。

「なあ、ごっつい力のあるもんがろくに考える事もできんアホやったとき、世界はどうなるかわかるか?」

 彼のいつもとは違う力のこもった口調から大きな怒りが伝わってきた。

「天聖軍に行った後も教えて教えてで済ますつもりか? それで教えてもらった通りにやるんが正しいんか? その二つついてる目でもスキル使うんでもええからもっと自分で考えろや」

 ダウターはそれだけ言うとまたさっさと歩きだしてしまった。彼の言っていることは正しいかもしれないが、それでも最初のとっかかりぐらいは教えてくれてもいいじゃないか。何も教えられずに仕事を覚えられるものがどこにいるというのだ……


 その後は全員無言で歩き続けた。しばらくするとこの町で一番立派そうな屋敷の前に到着する。

 ダウターは門番をしている屈強そうな男たちに何かを見せ、門を開けてもらった。次いで私たちについて来いと手招きする。

 屋敷自体も立派な物であったが、中の装飾品は更に豪華なものだった。立派な額縁に入れられた数々の大きな絵画、部屋や通路に備え付けられているシャンデリアは屋敷全体をこれでもかというほど明るく照らし、家具も一目で高価なものだとわかる。

(典型的な金持ちの屋敷だな)

 ダウターは転生者に会いに行くと言っていたが、ここの主人がそうなのだろうか? 私はあまりこういった贅沢が好きではないが、天聖者の中で貴金属や宝石を好む者は多い。

「よお、遅れてすまんな」

 どうやら私たちは誰かを待たせていたようだ。ダウターが片手をあげて挨拶をしたその先には、あの裁判所で見た別のアンタッチャブル達が並んでこちらを見ていた。

 人形のような少女を肩に乗せ、居眠りをしているかのように微動だにしない大女、全身黒のヒラヒラした服に派手なメイクと髪の色をした高校生ぐらいの女の子。どうにも統一感のない連中だ。

「特にコネクターには悪いな、こんなとこに呼び出して」

「いいのよ。もう慣れてしまったわ」

 肩に乗る小さな少女が答えた。見た目よりずいぶん大人びた口調だ。かくいう私も外見は転生時と変わらず高校生ぐらいのものなのだから、本当に天聖者の見た目と中身というのは一致しない。

(過ごしてきた過去や経験は、見た目を置き去りにして精神を成長させるものだ)


「オール、もっかい確認しとくけどな。天聖の推薦出すんは今から起きる事を黙って見てられたらの話しや。もちろんこの世界から帰った後は自由にしたらええけどな。ここでの粗相は許さんで」

 ダウターが念押ししてくるような相手とは一体どれほどの者なのだろうか? 私は静かに頷いてその人物の到着を待った。

 お目当ての転生者はすぐにやってきた。

(ウッ…………)

 思わず出そうになった呻き声を噛み殺し、心の中でとどめる事に成功する。

 弛んだ頬に全身にぶよぶよとまとわりついた脂肪、低い身長がより彼の肥満体型を際立たせる。大きな口とぎょろりとした目は彼の貪欲さを表しているようだ。全身についた貴金属も輝きばかりまぶしくて品がない。

(下品を絵に描いたような人物だな……)

 もちろんそんな感想はおくびにもださず、神妙な顔をして他のアンタッチャブル達と一緒に礼を交わす。

「ぶひょひょひょ! ダウターさんとこのオナゴはいつもベッピンでうらやましいですなあ! ワタクシの店にも欲しいぐらいですよ!」

 この下品な男は下品な目つきで女性たちを舐めまわすように見ている。嫌悪感は沸いてくるがこういった奴はどこにでもいるものだ。天聖軍に来たら性根を入れ替えるまで地獄を見せてやるがな。

「お、この方が例のオール様ですかな? いやあ身に付けた鎧も素晴らしい! あなたは大変な人物と聞いておりますよ」

「過分な評価恐れ入ります。あなたのご期待に沿うほどの身であればよいのですが」

 男と握手を交わし形だけの礼をする。こういった男の口がうまいのも共通なのだろうか。

「ご挨拶が遅れましたな! ワタクシこの世界の転生者をやっております金福かねふく みつると申します。アンタッチャブル様たちとは随分前から懇意にさせて頂いておりましてな! お互いの為に協力させて頂いております」

(この男はアンタッチャブルを知っているのか!?)

 アンタッチャブルの情報は基本的に天聖軍以外のところで話されることはない。ダウター達が自分で身の上をばらしたのか、もしくは単にそう名乗っているだけで活動などは秘密にしているのかもしれない。

「変な能力で女の子好き放題しようとしてたんだよねー。そんでボク達が殺そうとしたらワンワン泣いちゃったからー、なんだか動物みたいでかわいそうになっちゃった! 今はボク達のペットだもんねー?」

「は、はいいい。ブレイカー様。ワタクシはあなた様方のぺっとでございますぅぅぅ」

(脅しているのか? それにしても今の話が本当なら性根もクズらしいなこいつは)

 サンズガワとした話を思い出す。どうしてクズが女神様に認められて転生できるのだろうか? 一度は頭から消し去っていた疑念が再び胸を渦巻く。


「ぶひひ、ワタクシの事はよろしいじゃありませんか! それで本日はご商品をご紹介いただけるというお話でしたが……?」

「そやそや! きっちり健康体未成年! 経験人数は知らんけど多分たいしたことないやろ。顔も見ての通りのかわいい系の男前や。エエ値段つきそうやろ?」

「ぶっひっひ、そうですねえ。この方ならきっとすぐに目標額を稼げますよ。ワタクシが保証いたします」

(な……なんだ? 何の話をしている……?)

 金福と名乗る男は私の側まで来ると、ペタペタと四肢を触りだした。気持ち悪さにおぞけが走る。

「よっしゃ。 聞いとったな? お前男娼でちょっと稼いで来い!」


 ダウターが私の背をバン! と叩いた。


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