2-17 転生案内人 サンズガワ
「それじゃ彼が君の教育係のサンズガワ君でーす」
「どうも、サンズガワです。よろしくお願いします」
「サンズガワ君は元転生案内人で今もこの転生裁判所で案内人やったり色々やってまーす。というわけでサンちゃんあとはよろしゅー」
そういってダウター達は導きの門からどこかへと行ってしまった。後に残されたのは私とこのサンズガワという男だけだ。
「ええっと……オールさんでいいのかな? 今日はひとまず何人か転生の案内をやってみましょう。天聖界では転生案内所って名前でしたけど、ここはほら、造りが裁判所そっくりでしょ。だから転生裁判所って呼んでるんです」
「その前にいくつか質問していいか?」
「ええ、かまいませんよ」
「『元』案内人と言っていたな。私が天聖軍にいたころ、行方不明になった案内人の話を聞いたことがあった。天聖界では死体も残さず消えたりするやつはほぼいないからな、よく覚えている」
「ああ、多分それが僕でしょうね。会社に何の連絡も入れてなかったしなあ……」
「今やっていることに後悔はないのか? 世界を裏切り、人を不幸にしているお前たちの存在を、恥と思ったことはないのか?」
サンズガワは顎に手を当てて少し考えているようなそぶりを見せる。
「ないですねえ。オールさんはないですか? 天聖者が世界を謀り、人を死に追いやってることに対する後ろめたさとか」
「世迷言を。天聖者は世界と人を守る絶対の守護者だ。何をどう曲解すればそんな発想になる」
「ほんとになんにも覚えてないんですねえ。こりゃ時間がかかりそうだ」
「……どういうことだ?」
「ご自身でも多少心当たりはあるでしょう? どうして天聖者から記憶を失って転生者に? 一度殺したはずの我々がここにいることに対してどう納得しているんですか?」
「それは……」
「この世界にはあなたの知らないことがまだまだたくさんありますよ。僕たちはただひたすらにあなたのお手伝いをしているだけです。命をかけてね」
「はぐらかさずに知っていることがあるのなら教えろ!」
「今のあなたじゃ理解できませんよ。だから僕たちもこうして苦労してるんです」
またこれだ。教えろと言ったら『お前じゃ理解できない』、人を馬鹿にするのもいい加減にしろ。
「それよりほら、転生予定者が来ましたよ。まずは僕が対応しますのでオールさんは見ておくだけにしてくださいね」
「お名前は?」
「はい! 星翌 須吾士です!」
「フフ……」
「どうかしましたか?」
「いえ、ちょっと似た名前の人を思い出しましてね。それじゃあなたは生前の行いを認められ、人格や記憶を保ったまま転生することを許されました。さらにその行いの褒美として特別に神の力を与えられることになります」
「はい! ありがとうございます!」
「それでは何かご希望はございますか?可能な範囲でなんでもかなえて差し上げます」
「はい! ありとあらゆる女性を好き勝手自由にできるような能力が欲しいです!」
「うーん、女性を好き勝手ですか。そういった能力も可能ですが、例えば『女性に好かれるための努力を惜しまずできる』能力なんてのはいかがですか?こちらの方が達成感もありますし女性の気持ちを尊重……」
「どうしてそんな面倒な事をしないといけないのですか!」
「僕は生前女に全くもてませんでした! それもこれも世の女どもが馬鹿で僕の中身のよさを理解できなかったからです! そんな女にどうして僕が何か努力をしたりする必要があるんですか! さっさと僕の言った通りの能力を渡して色んな美人ばかりいる世界に転生させてください!」
「とはいってもですね。やはり相手の気持ちを無視して好き勝手するというのは洗脳と同じで倫理や道徳上ひどく問題があるもので……」
「うるさいうるさいうるさーい! お前じゃ話にならん! 責任者を呼べ!」
「はあ、またため息病が再発しそうですよ。わかりましたわかりました。お望みの能力を差し上げます。それじゃ美女だらけの世界へご案内しますのでこちらへどうぞ」
「さあ、この扉ですよ。ではどうぞ、お入りください。よい旅を」
「はい、こんなもんです。簡単でしょう?」
「誤魔化すな」
「はい?」
「何故お前が扉を開けた?」
導きの扉は開けた者の理想の世界に繋がるポータルだ。今の様にサンズガワが開けたのでは、あの転生者はサンズガワが望んだ世界に行くことになる。
「おお、さすがですねえ。しっかり見ていらっしゃる」
「あいつをどこへやった?」
「さあ、どこでしょうねえ」
「ふざけるな、返答次第では殺す」
「殺してどうします? またダウターさんと戦いますか? それともどこかへ逃げますか?」
「……クソッ」
「しばらく僕たちと一緒にいるだけで天聖者になれるんです。細かい事は気にせずそのまま見過ごしておけばいいんですよ」
その後もサンズガワは訪れる転生予定者全てに対し、自分で導きの扉を開けて送り出していた。彼らが同じ世界に飛ばされたのか、それともバラバラに飛ばされているのかはわからないがロクな場所ではないだろう。彼らをただ見送る事だけしかできない自分にも腹が立つ。女神様は一体ここで私に何をさせようというのだ?
「オールさんは案内人の仕事ってやったことあります?」
「ない。私はずっと天聖軍の戦闘班だった」
「僕は天聖者になってからずーっと案内人やってましたよ。それでね、毎日のように思ってたんです。『どうしてこんなクズ野郎が転生を認められるんだろうな』って」
「転生予定者は女神様がお認めになった者達だ、クズなどではない」
「さっき僕が送ってた転生者達見てなかったんですか? どいつもこいつもくだらない、馬鹿みたいな能力に馬鹿みたいな世界を求めてワーワー騒いでたの知ってるでしょ」
「あれは……、転生案内所では人の欲望が増幅されると聞く。過度な欲は一時的なものであって転生後もあのままというわけではあるまい」
「実際天聖者ってどうです?」
「何だって?」
質問の意図がよくわからず聞き返す。あまりに脈絡がなさすぎるぞ。
「天聖者ってみんなすごいチート能力持ってるのに精神的にすごく弱いでしょ。身体は無敵なのに精神は人間の時そっくりだ。疲れもするし病みもする、イジメや嫌がらせ、嫉妬に怨恨、神のシモベとは程遠いと思いませんか?」
「……何が言いたい?」
「転生者がまともだったとしたら、そんな天聖者なんて存在しないはずでしょ? 転生者から天聖者にランクアップするんだから」
「……」
「だからね、転生者なんてもんはマトモじゃない奴がほとんどなんですよ。あなたみたいに品行方正であるチート能力者がどれだけいましたか? 人は結局どうなろうと欲には勝てないんです」
「だから殺すとでもいうのか? そんなふざけた言い訳が通用すると思うな。そもそも善悪の判断は誰が行う? 庇護欲のような立派な欲は? お前が言っているのはタダの殺人の正当化にすぎない!」
二人の間に気まずい沈黙が流れる。
「うーん、やっぱりしっかり天聖軍してた人にはなかなか分かってもらえないみたいだなあ。まあ今日はこの辺りにしておきましょう。僕たちはみんなオールさんの味方なんです」
「ならば一刻も早く女神様に忠誠を誓いなおすのだな」