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テンセイミナゴロシ  作者: アリストキクニ
11/88

1-11 最高総司令官『プレイヤー』

「最高総司令官殿! 女神様がお待ちでございます!」

 神殿護衛兵の声で浅い瞑想から意識を戻す。

「ありがとう。だがまだ正式に総司令官になったわけではない。それまでは今まで通りで頼む」

「はっ!失礼いたしました!天聖(てんしょう)第一軍軍団長殿!」

「ああ、では先導を頼む」

 神の間までの道は当然把握しているので、普段であればそのまま自分で向かうのだが今日は式典である。彼に先導を頼みその後ろをゆっくりとついていく。

 アンタッチャブル率いる反乱軍の長きにわたる戦いもようやく終わり、これからは世界に蔓延る(はびこる)悪魔どもとの戦いに全力を割くことができる。私の胸はすでに次なる戦いへの決意で満ち溢れていた。

 その思いに応じるように純白の鎧から光が溢れる。そしてその光に呼応するように私の決意もどんどん固く強くなっていくのだ。

「それにしてもあのアンタッチャブル達の討伐はお見事でございました! 私もこの神殿で知らせを受けた時には喜びに涙したものです。一体あいつらにどれほどの者達が殺されていったことか……!」

「う……うむ、そうであるな……。あれはまさに死闘と言うに相応しい戦いであった……」

 つい言葉に詰まってしまった。あのアンタッチャブル達との戦いに次々と勝利していったことで、私はただの一兵卒から驚くほどの速さで昇進を続けていった。しかし本当は私が実際に倒したわけではなかった。

 勿論、この全能のオールにかかればアンタッチャブルどもがどれほどの強さだとしても勝利は間違いなかっただろう。しかし私には戦う機会すらなかったのだ。

 アンタッチャブルの一人であったダウターの最期の言葉が脳裏に浮かぶ。私は慌ててそれを振り払った。

「到着いたしました! ご存じだとは思いますが、武器の携帯は禁じられておりますのでもしお持ちでしたらここでお預かりいたします!」

「当然理解している。この天聖軍の誇りである鎧以外の武装は一切所持していない」

「愚問でございました! それではご昇進をお祝いし、私はここで失礼いたします!」

「うむ。ありがとう。女神様のために」

「女神様のために!」

 私たちは両手を胸の前で組み軽く目を閉じる。その後護衛兵が去るのを見送り私は神の間へと足を進めた。

 神殿の壁や天井は全て眩いばかりの純白に包まれている。あまりの神聖さに全ての者はこの場に足を踏み入れるだけで己の罪を懺悔することだろう。

「この世には悪が多すぎる」

 知らず知らずのうちに口から嘆きがこぼれる。あらゆる世界のあらゆる場所に沸き続ける魔王や悪魔達はもちろんのこと、我々は仲間であったはずの元天聖者、アンタッチャブル達と長い戦いを今までずっと繰り広げていたのだ。

 私が天聖学院で裏切者の存在を知ったとき、義憤を鎮めるのに相当苦労した。それからは同期の仲間たちとともにいつか我々の手でアンタッチャブル共を屠ってやろうと何度も話し合ったものだ。

 同期との思い出で顔が緩んだ顔を引き締め直し、純白に輝く扉をノックする。

「天聖第一軍軍団長、オール。参上致しました」

 神殿に私の声が反響していく。この場所の静寂を打ち破るだけで大変に畏れ多い気持ちになる。

「入りなさい」

 女神様の許可を受け静かに扉を開く。純白で染められた部屋の中には、女神様が座る神の座以外に余計な家具や装飾などは何一つない。これこそが神に相応しい部屋であるとここに来るたびに深く感じ入る。

「こちらへ」

 女神様の元まで進み跪く、胸の前で両手を組み軽く目を閉じて臣下の礼を行った。

「顔を上げなさい、全能のオール。此度は本当によく働いてくれました」

「はっ! 身に余る光栄でございます!」

 女神様がくださる言葉一つで全身が喜びに震える。鎧も我が心を理解してか一層輝きを増しているようだ。

「アンタッチャブルの殲滅、転生者から天聖者への導き、高難易度の天聖任務の遂行。今の天聖軍があるのも全てあなたのおかげといっても過言ではありません」

 ああ……、これ以上の悦びがこの世にあるだろうか。私の力は全て女神様の為であり、それは世に生きる全ての者の為でもあるのだ。

「全ては女神様のために!」

 再び臣下の礼を取る。胸の前で両手を組む、そして軽く目を閉じる。これだけで私の心は平穏に包まれ、全ての苦しみから解放されるのだ。

「あなたのその働きを称え、天聖第一軍軍団長の任を解きこれより天聖軍最高総司令官に任命します。あなたは天聖軍における最大の権限をその手に収め、これより魔族殲滅へと更に邁進せねばなりません。

「はっ! このオール、全身全霊、一命を賭してお受けいたします!」

「それではあなたに聖名(せいめい)を授けます。あなたはこれより今までのオールの名を捨て、プレイヤーと名乗りなさい」

「かしこまりました! 私はこれよりプレイヤーと名乗り、その祈りによって女神様のご高名をより多くのものへと轟かせることを誓います!」

 ついに……ついに私も女神様より聖なる名を頂くことができた! 何千万といる天聖者の中でもほんの一握りにしか与えられることのない聖名……! そして私に与えられた名前はプレイヤー、つまり『祈る者』という意味だ。私は今より『オール』という個人を捨て、『祈りを捧げる者』という神の使徒として生きることを意味するのだ!

「この祝いの場に相応しい人物をもう一人招待しています」

 意外な言葉に私は顔を上げ女神様を見る。いつも凛々しく厳格な表情を崩さぬ女神様の顔が一瞬だけとても優しいものに変わったような気がした、しかし驚きに二、三度まばたきをして再度女神様を見た時には、やはりいつもの凛々しい女神様であった。

 後ろを振り返り入口の扉を見る。それは静かにゆっくりと動き、もう一人の招待客の正体が露になった。

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