肉料理対決
「いらっしゃい。代官様とギルド長にも迷惑掛けましたが、この通り無事ですよ」
「いらっしゃいませですわ。お話はテーブルで」
俺たちは夜を前に早めに店を開けた。代官夫妻が衛兵隊長を伴って来ることになったからだ。
一週間ぶりの店はメルセデスとロマンが掃除してくれていたのできれいだ。そうでなくとも俺からすれば昨日の営業から一日経った程度の気分だった。
そんなわけで眠気覚ましのコーヒーを飲みながら話す。
「エミール君には後日、領主別館でギルドと衛兵合同の聴取を受けてもらう。今日話してもらう内容に沿って公式な記録にするだけの予定だから、安心していい」
「調べた限り王都からの干渉ではなさそうですが、エミールさんに心当たりはありますか?」
「いやぁ、そんな話は全く」
「国王ならもっと陰険で直接的な手で来るであろ」
大筋はもう伝わっているので、偉い人の質問に答えるのが俺の役目だ。
王都の話が出たところでグーラと聖女も来ていた。
「エミールを階層主にしておくのもよいかもしれぬ。国王も手出ししづらくなろう」
「それって俺が人間やめるってことか?」
「階層主になったから力を得るわけではないぞ。強いて言えば迷宮を操作する魔法を得る程度だの。この店の入場条件をいじるような」
「それいいんじゃない、エミール君? 転移も使えるようになれば、また旅行に行けるよ!」
「これだけ迷宮化したのに地上階の階層主はいないからなぁ」
「エミール殿が同僚になるでありますか?」
「エミールも仲間になるの。地上階は楽なの」
メルセデスの意見には俺もちょっと心惹かれる。
そこへカガチ、ロア、キノミヤが来た。そういや地上はグーラとカガチで管理してるようなもんらしい。魔物を出さないから手間は少ないそうだ。
「遠慮しとくぜ、俺はこの店の料理人だからな。国王といやぁ、初代王の話なら出たかなぁ」
「その妖精の住処という異界は250年前の世界だった、という話だね。にわかには信じられないが……」
「うむ。過去であり、今でもあり、その妖精女王とやらには今より未来も見えておるようだの。ネストとは現世の今とつながった過去ではなく、時間の流れがこちらと違う世界であろう」
「どういうことでしょう、グーラ様?」
「ギルド長の屋敷にはたくさん窓があるであろ? 例えば『一階のとある窓からは10年後、二階の窓からは100年前の景色が見える、窓の外はぬしらにしか見えない』とするのぅ」
「その時点でわからん」
「両方の窓から入ってきた者たちが食堂でぬしらと顔を合わせる。これで『10年後の未来人、100年前の過去人、10年後と100年前を知る現在人であるぬしら』が揃った」
「あ、俺がいたネストの状況と似てるな」
未来人は俺、過去人はエルフっ子、屋敷の住人は妖精女王、もしかすると妖精たちもだ。
「あとは屋敷が住人ごと時を移動すれば『今』という基点はいかようにもなろう。妖精女王とやらが何者かわからぬが、過去人というより時間に縛られぬ存在ではないかの」
「なるほど……妖精に長がいるというのも新しい情報ですな。エミール君から見た彼らは敵意のない存在だったんだね?」
「とぼけた感じだけど難しい話をする時もあって、つかみ所の無い奴らでしたよ……ああそうだ。敵意どころか欲とかエゴがまるっきり無いような生き物でしたね」
客商売してるとよくわかるけど、人間ってのはエゴが表に出るから人間らしく見える。ストイックなシズルさんですら『料理で負けたくない』って欲を隠さない。
俺が妖精たちを見ても異種族の人間に見えなかったのは、そのせいかもしれないな。
妖精女王はそうでもなかったけど。そういや女王といえば土地神グーラに聞きたいことがあった。
「誰でも魔法を使える『因子』ってのを持ってるらしいんだけどよ、俺も使えるようになるのか?」
「う~む、ぬしの魔法はのぅ……『小さじ一杯を正確に計り取る魔法』であるな。使えるようになりたいかの?」
「いや、いいわ……」
「やっぱりエミール君はお料理の魔法なんだねぇ」
誰でもできるだろ、そんなの! 結構期待してたのに、ガッカリだよ!
気を取り直してエルフっ子の話をしよう。もう妖精にはチェンジリングをする理由がなく、あの子がネストにいる必要はないんだ。
「助けられなかったな……ネストを出られるタイミングは入った時に決まっているらしいぜ」
「なるほど、こちら側との齟齬を産まないための工夫でありますな。フェアリーリングの解析に役立ちそうであります」
「金髪で深い緑色の瞳のエルフの少女でチェンジリングですか。それ、過去のマゼンタではないでしょうか」
「カタリナ様、それはさすがに……そういえばマゼンタって何歳なんですわ?」
「わたしもマゼンタさんのことはよく知らないんだよねぇ。エルフの国の外で生まれたのと、100歳超えてることくらい」
「同一人物なら、あのエルフに天丼とパウンドケーキを教えたのはエミール君ってことになるんだぞ?」
カガチの言うとおりだとすると、マゼンタは俺が教えた料理を作り続けてたのか。少なくとも100年間。
それはおかしいな。俺はマゼンタの話を聞いたから天丼とパウンドケーキを教えたんだ。
「マゼンタはいつも揚げ油を持ち歩いてましたね。火攻めにも使えると言って」
「オーブンも無いのに器用にケーキ焼いてましたわ。ハムや卵を挟むのも意外とおいしかったですの」
「ご飯炊くのに土鍋も使ってたし、野営なのにこだわってたよねぇ」
「あれ、そう聞くとどっちも野営には向かない料理じゃねぇか?」
冒険者の体験談があるからって思い込んでたけど、普通野営の料理ってのは煮るか直火で焼くかだよな。アイテムバッグ持ちなら弁当を持って行けばいいから火起こしも最低限だろうし。
それなのにあの料理にこだわるってことは、やっぱりあの子はマゼンタなんだろうか。
ややこしい話だな。ややこしいといえば迷宮と妖精の競合関係とやらもそうだ。
「迷宮も妖精も食べるの大好きなご先祖様が作ったもので、俺たちが食うに困らねぇようにだって聞いたんだけど、グーラは知ってた? 迷宮は文明を神代レベルにするとかって」
「あれ、『迷宮の目的は進化すること』って前に言ってなかった、グーラちゃん?」
「むっ!? いやそれはのぅ……神代レベルに進化することが目的ならば、嘘ではあるまい?」
言いにくいことでもあるのか、グーラの目が泳いだ。それ部分的には嘘ついたって言ってるようなもんだろ。
メルセデスのにんまり圧にグーラがたじろいだところで、引き戸が開いた。客かと思ってみたら。
「なんだ、賑わってるかと思えば随分静かじゃねぇか。今日は営業してねぇのか?」
挨拶もなしに入ってきたのは赤毛を後ろで束ねたひげ面の大男だ。この軽い調子はちょっと懐かしい。何を隠そう、この男は――
「親父!?」「ライアンさんだぁ!」「金獅子亭の亭主か」「カレーの人なの」
「『子豚』にこの間マゼンタと喧嘩した客じゃねぇか、神樹様は久しぶりだな。知った顔が多いな、おい。クレアも入ってこいよ」
親父の後ろからもう一人、さらに大きな金髪の女が入ってきた。まさかというか当然というか。
「母さんも来たのか……」「わぁい、クレアさんだぁ!」「相変わらず大きくて目つき悪いですね」「こうして見ると目元がエミールと一緒ですわ」
「どっちも生まれつきだよ、聖女様。皆元気でやってたようだね。空き部屋はあるかい?」
二階の空き部屋を教えると親父はさっさと荷物を置きに行った。店に泊まる気だろうか、マイペースだなぁ。
ロマンがコーヒーを出してくれたので、お互いの状況確認だ。
「俺は妖精にさらわれて今日帰ってきてさ、今代官様とギルド長と衛兵隊長に事情聞かれてたんだ」
「エミール殿も説明しないタイプでありますな……」
「あんた何したんだい? バカだね偉い人がいるなら先に言いな……どうもバカ息子がお世話になって――」
「この人たちも動じないの。ロアを見ても驚かなかったの」
「よせよガキじゃあるまいし! 俺は何もしてねぇよ。あとそこの耳としっぽついたのは土地神で迷宮主、階層主もいるぜ」
「うむ。グーラと呼ぶがよい、エミールの母御よ」
母さんが代官たちと挨拶からの世間話に突入してしまった。どう見てもその辺のデカいおばちゃんだ。
メルセデスたちの先輩でマゼンタの仲間だったらしいけど、元冒険者だなんて気付くわけがないんだよ。
「なかなかいい店じゃねぇか。匂いからすると一週間くらい営業してないな?」
二階から戻った親父は黒いシャツにエプロン、なぜかいつもの調理着に着替えてきた。
「店閉めてた期間がどうして匂いでわかるんだよ。そっちは何しに来たんだ?」
「連れねぇなぁ。こっちは宿を廃業したから、息子の様子見に来ただけだ」
「はぁっ!?」
「国王の奴が急に営業許可を取り消してな。反逆罪とかで捕まえに来るっていうから夜逃げして来た。まぁ常連の貴族から聞いてたから、そろそろかとは思ってたが」
「何したんだ、親父?」
罪を犯したなら家族を巻き込まずに自首してくれ、と言うところで、代官が出てきた。
母さんから事情を聞いたようだ。
「どうやら陛下も本腰を入れてアントレに圧力をかけるつもりだな。ご家族まで巻き込んですまないが、エミール君も覚悟をしておいてもらいたい」
「俺も親父もただの料理人ですよ、俺たちをどうこうしたところで……あ、親父は王宮料理人やってたんだっけ?」
「おう、バレてたか。あの野郎、ガキの頃ピーマン食わせたことまだ根に持ってるんじゃねぇだろうな?」
「それとも辞める時に『お守りだ』って渡したシュールストレミングを開けちまったのか?」と呟く親父はやっぱり自業自得じゃねぇかな。
「エミール君が行方不明になった時、僕は真っ先に陛下を疑ったよ。望めば迷宮階層主になれるし安全を考えればそうしてもらいたい。君はそういう立場なんだ」
「エミール君は結構、街の重要人物なんだよ。ほら!」
メルセデスに言われて目を向けた引き戸が開く。入ってきたのは常連客たちだ。
「てめぇこの野郎、無事だったか。心配かけやがって、ぶっ殺すぞ!」
「シモンさん、怖い顔になってるよ」
シモンとミリスは初めて二人一緒に来た。シモンに怖くない時があるのか。
シモンがどうして日曜日に来たかといえば、魚屋を休みにして俺の捜索に協力してくれていたからだ。
他にもホオズキと孫のエルザ、二か月近くアントレにいるサミたちのパーティー、メリッサたちギルド職員、肉屋と青空焼肉店、司祭もいる。
実感ないけど店が開いたのは一週間ぶり、皆俺が見つかったことを聞いて店に来てくれたようだ。仕事を終えたテルマたちも来た。
「客が来たんだ、ボサッとしてんじゃねぇよ」
「いってーな、わーってるよ。いらっしゃい!」
親父に頭を叩かれて、ずれた頭の手ぬぐいを締め直す。
早速おしぼり……の前に、とても入りきらないので椅子を外に出して店内は立食、店の前も使わせてもらうことにした。
仕入れしてないし魚屋は休みだったが、俺がいない間、肉屋がちょくちょく食材を持ってきてくれていた。仕込みは最低限だがなんとかなる。
「どうだ、ちょっとは腕を上げたか見てやる」
お通しの『長いもとオクラの出汁酢』を小鉢に盛り付けていると、頭に手ぬぐいを巻いた親父が厨房に入ってきた。自分の包丁を持っているので、これはやる気だ。
俺は残りの盛り付けをロマンに任せた。
「客層もつかんでねぇのに言うぜ。いっちょ揉んでやるよ、肉料理でどうだ?」
「いいだろう。『うまい』とは何か、お前の答えを見せてみろ」
「エミール君が料理勝負? ギルド誌のネタにしていい!?」
「親子対決か、おいサミ、イザック。賭けるぞ」
メルセデスが忙しく飲み物を用意する中、まだ飲み始めてもいない客たちが盛り上がり始めた。
お客には楽しんでもらわないとな。手が足りないので正直助かるし。
さて何を作ろう。肉屋のおかげで食材は豊富だが仕込みをしていない。マリネした肉がないからオーブンで焼くなら中に何か仕込むか……揚げ物にするか……ステーキか……煮込む時間はないな。
大きな浅い鍋をあるだけ用意する。
「鍋物ですの? 簡易コンロがいりますわね」
察したロマンが小型の魔導コンロをテーブルに出してくれた。さすがセルヴーズ。外にも樽を置いて一鍋設置する。
鍋に水を張り、頭と内臓をとったトビウオの乾物を投入して沸騰させる。あご出汁だ。そこへしょうゆと酒を加えてひと煮立ちしたら火を弱め、あごを取り除いて昆布出汁を合わせる。
出汁へいちょう切りにしたニンジン、適当に切ったキノコと水菜、それにスライスした大量のネギを投入する。
そして薄くスライスした混血豚のバラ・ロース・モモ、切った白菜を置く。しゃぶしゃぶだ。
酢、しょうゆ、辛子味噌、山椒、砂糖を混ぜてピリ辛ダレを作り、ポン酢しょうゆと選べるようにした。
「『ネギ豚しゃぶしゃぶ』、心配掛けた皆に俺からサービスだ。ネギの味に飽きたら白菜と塩だれを入れてくれ。肉屋のお陰で肉はまだまだあるぜ!」
「お肉屋さんはお酒もサービスだよぉ!」
塩だれは白菜で薄くなる味を補うためで、あご出汁、刻みニンニク、ごま油に塩を加えたものだ。
箸や取り皿、食べ方などはロマンがうまくフォローしてくれてる。
落ち着いたら俺たちも一緒に食べられる料理だ。
それに早く出せる。特に代官たちは腹が減ってると思ったからだ。
「お通しも食べ終わらないうちに出てきたね、空腹だったから助かるよ」
「これは染み渡るような旨味とネギの刺激、それに薄切り肉の食感で箸が止まらぬの!」
「ご飯、ご飯をください!」
肉屋も納得の味だったようだ。
親父はといえば、俺が使わなかった厨房のコンロに深めの鉄板皿を並べている。焼き物か?
と思ったら。
「『トマトチーズすき焼き』だ。皿の数が足りねぇから適当にシェアしてくれ」
これは……たまねぎとトマトをオリーブオイルとニンニクで炒めて割り下を加え、トマトをあえて煮崩してから牛肉を入れたな。仕上げにチーズだ。
衛兵隊長が真っ先に食いついた。
「トマトの味が絶妙に馴染んでいる! トマト煮とは全く違う味付けだが、オリーブオイルが活きる味だ」
衛兵隊長はオリーブオイルとかトマトとかパスタの味になると口数が増える。実際これはうまいし、それだけじゃない。
「これは随分と酒が進む味でありますな」
「煮込んでいないのに深みのある味だなぁ。トマトと牛肉が絡み合った旨味は、どんな酒にも合う」
「おじいちゃん、エミールさんが無事だったお祝いなんだから飲み過ぎないでね」
味の濃い料理だがネギのような刺激は少なくスパイシーでもない。合わせる酒を選ばないのだ。
実際ロアは甘いぶどうサワー、ホオズキの二代目は清酒を満足そうに飲んでいる。これはエルザが止めても酒が進むだろう。
~ グーラのめしログ 『肉料理対決』 ~
日頃料理を競うなど好まぬエミールが親子対決とな。まぁ半分くらいは心配してくれたみなに娯楽を提供しようという心意気であろう。
エミールが手早く作ったのはネギたっぷりの豚しゃぶである。ただの豚ではない、あの混血豚なのだから湯に投じるのがもったいなく感じるの。
だが当然ただの湯ではない。ネギの香味が溶け出した出汁に肉をくぐらせ、頂くと。
薄切り肉ならではの口の中で解ける食感。広がる甘みと旨味が溢れるほどみずみずしい。珍しくあご出汁というのを使っておった。
実に癖になる味に仕上がっておる。ポン酢しょうゆを付ければ酸味と柑橘の香りが脂の味をまとめてくれる。ピリ辛ダレなら山椒のしびれと香りでネギと肉の味を引き立てる。
肉の部位も三種類ある故、タレとの組み合わせは六通り。なかなか探求が終わらぬ。
ネギが少なくなったところで白菜と塩だれを入れて、火が通ったら肉と一緒に頂く。
白菜と豚の薄切りというあまりにも相性抜群の組み合わせぞ! さらに塩だれで味変されてしまえば、これはご飯だの! 肉屋の申すとおりぞ!
続いてエミールの父御の料理はすき焼きとな。倅のしゃぶしゃぶに対し肉鍋ライバルともいえるすき焼きをぶつけるとは、闘争心の強い男と見える。
しかし腹も落ち着いた頃、このチーズを乗せた異端の鍋がどれほど善戦するものかの……うまいではないか! 甘酸っぱいトマトが牛肉に絡んで喉を通る感触など至福である!
ご飯のおかずにはやや物足りない、抑制された味付けではある。しかし芯が太い。これはラタトゥイユのようにニンニクとオリーブオイルで炒め、ワインと割り下で味付けしてチーズを溶かしたのであるな。
強引な方向転換で味がバラバラになりそうなものであるが、まとめているのはごく少量のカレースパイスであろう。エミールも手羽先揚げのタレに使う隠し味であるの。(正解 by ライアン)
この料理の恐ろしいのはどの酒に合うことだの。合わぬ酒が思いつかぬ。
肉とトマト、タマネギ、チーズとシンプルな具材なのに、この皿からは様々な味が感じられる。複雑な味の食い物は酒によく合うという、見本のような料理であるの。
それに大鍋料理のエミールと違い、短時間で多くの皿を仕上げおった。鉄板皿を小鍋に見立てるという工夫もある。
元王宮料理人は伊達ではないのぅ。
~ ごちそうさまであった! ~
「くっそ、負けた!」
「まだまだだな、息子よ。居酒屋は酒の肴が主役だってこと忘れんじゃねぇぞ。だいたい立ち食いでしゃぶしゃぶは食いづらいだろ」
ぐうの音も出ねぇ。しかも親父が使った食材はどこにでもあるもの四つだけだ。手加減しやがった。
「んまーいーっ!」
「どっちもおいひー!」
「お姉さま、ご飯粒が」
「エミール君、肉の追加はあるかな?」
「はいよっ」
手が空いたメルセデスとロマンも食べている。悔しいがお陰でパッと盛り上がれた。
俺も一週間店を空けてたことや残してきたエルフっ子のことも吹っ切れたと思う。
いや、実家が夜逃げしてきた衝撃で吹っ飛んだというべきか。
「お腹いっぱいになったし、国王は破門する?」
「それは王国存亡の危機じゃない!?」
「ここは穏便に吊せばいいと思うの」
「それくらいならいいと思うわ」
母さんはどうしたのかと探すと、聖女とキノミヤと、それを諫めるようで全然諫めてないテルマを眺めていた。
不安になる会話やめろ。
「メルセデスも随分と客層の広い店を作ったもんだね」
「成り行きでな。今じゃこれがこの街の縮図みたいなもんだ。そういや王様はどうして母さんまで捕らえようとしたんだ? 強い冒険者だったんだろ?」
強い冒険者を捕縛するということは、当然それ以上の戦力が必要だ。だから普通はそうなる前にギルドが動くものだし、今回だったらまず親父が一人の時を狙うのが妥当なところだろう。
「バレたかい。まぁそりゃあ、あたしが『大宮殿の迷宮主』だからじゃないかねぇ」
「はぁっ!?」




