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とうもろこしのかき揚げ(2)

オチを付けるための延長戦……。

「『ロアはどうして食えるようになったのか? 砂漠の王と異世界の関係は!? 今夜も謎が尽きないわれら迷宮の住人、緊急大会議!!』だの!」


 長ぇよ。衛兵隊捜査本部の戒名かよ。


 合コンチームは衛兵たちが苦笑いで会計を持ち、帰っていった。

 一次会で解散らしいが意外と雰囲気は悪くない。吟遊詩人とロアのお陰だ。

 衛兵としてはともかく、いい男たちじゃないか。


 そして吟遊詩人は彼らより先に、チップでポケットを膨らませて出ていったそうだ。ロアの騒ぎで店長も俺も気付かなかった。

 お会計はないけどお礼をし損ねたな。


 なんでもあの人は王都からの旅の途中で、うちには街で噂を聞いてきたのだそうな。


 嵐の後のように静かな店内で、グーラは先ほどのよくわからない会議を始めた。酒飲みながら。


「このかき揚げ、口の中でプチプチ甘い汁が弾けるわね!」


「この粕取焼酎はなんにでも合うの。ロアも飲め」


「このパスタも、とうもろこしとズッキーニの食感がゴキゲンであります。パスタという食べ物なんて今思い出したんですが」


 会議は?


「とはいえ、われらも人の子のように胃の腑に落として消化しているわけではないからの。魔法的に何が起きても不思議ではない」


 人はそれを不思議って言うんだぜ……。

 ということは。


「グーラちゃんたちの胃袋はアイテムボックスみたいなものなのかなぁ?」


 メルセデスらしい意見だ。

 だがそれだと、咀嚼した料理を捨ててるようなものだろう。

 グーラたちは人間同様、料理を全身で味わってくれているように、俺には見える。

 人間より感覚が鋭敏な分、もっとかもしれない。


「仕組みは知らぬが無為に消えるわけではないの。われらも酔っ払うと言ったのはエミールであろ? それが証ぞ」


 確かに。

 グーラたち不思議な客を理解するには、食べ物の消化吸収という人間の仕組みに囚われてはいけないのだろう。


「クマガルーのメダルは『喰う』という権能を魔術で再現して、その『喰体験』を持ち主と共有する魔道具だったな」


 膝にクマガルーを乗せたビャクヤは酔ってるのにまともなことを言った。

 見かけじゃわからないが、実際にはメダルが食べているのか。シュールだな。


 パスタを食べていたクマガルーは自分の話が出たと思ったのか「きゅ?」と首を傾げる。さすが迷宮が総力を挙げて開発しただけあって、かわいいじゃないか。


「うむ、そのメダルは腹にスライム状の本体が寄生する故、満腹にもなるぞ」


 グーラの言う通り、お腹がパンパンになったクマガルーはコロリと仰向けになって寝た。

 かわいいじゃ……いや待て、腹にスライムが寄生してるのか……それ満腹っていうの? てかそのメダルの本体はスライムなのかよ。



 ~ グーラのめしログ 『とうもろこしのかき揚げ』 ~


 ウニクレソン、そら豆、タコ、豚と焼きナスの冷しゃぶと今宵は随分と腕を揮ってもらったの。

 ジメジメした気分をどうにかしたいという意気やよし! 人の子の合コンとやらもよい余興であった。


 余興といえば、怪しげな吟遊詩人も多少は役に立ったの。

 はて、よそ者がわれらを見て平然としておるなど薄気味悪い。『砂漠の英雄』の物語詩など、われでさえ聞いたこともないわ。

 ひと睨みしてやったら『隠形』して出ていきおった。


 して『とうもろこしのかき揚げ』。これは揚げる様を見るだけでも面白いの!

 油はべたつかず破裂しないギリギリの温度を保つとな。

 丁寧に、そっと泳がせてもばらけていくコーンを見るともう、もどかしくてたまらぬっ!

 しかしてそれをまとめ上げる料理人の技は魔術の域ではないか! (慣れると簡単 by エミール)


 しかもうまい。

 コーンのみの地味な見た目に反して、噛めば弾ける熱い果汁(?)の甘さと香りは暴力的ぞ!


 これにはタマネギや枝豆を加えてもうまいらしいが、今日は生食できるほどのコーンが手に入った故、混ぜ物なしだというての。

 良き素材ならば塩で……うむ、滋味深くうまい。

 そして天つゆで……この甘じょっぱさよ!


 われは断然、天つゆを推すの!


   ~ ごちそうさまであった! ~



「して、エミールは何故われらの食生活に興味津々なのかの?」


 え? 緊急大会議とか言い出したのグーラだろ?

 まぁ間違っちゃいないけど。

 吟遊詩人の歌にしろ冒険小説にしろ、俺にはちょっと一家言あってだな。


「俺さ、ガキの頃から物語は飯食うシーンが一番好きなんだよ。英雄も木こりも神様も盗賊も王様も、誰でもどんな物語でも、うまそうなもんをうまそうに食ってないとつまんねぇと思うんだ」


 英雄の一行が宿屋で束の間、うまい飯を堪能する。


 木こりが山の珍味を見つけ、狩人は脂ののった獣を仕留め、持ち寄って宴を開く。


 神様しか手に入れられない至高の逸品の味を想像する。


 魔物たちの酒盛りはどうやって酒と料理を用意しているのだろう?


 盗賊たちは手際よく調理して肉の塊に齧りつき、奪った酒を溢れる程注ぐ。


 王宮の晩餐会で何に手を付けるか迷った末、付け合わせのブドウを口に含む。


 なんでもいいんだ。

 農民たちなら収穫祭でその年一番の贅沢を味わう。

 行商人が迷い込んだ宿で不思議な珍味に出会う。

 国王陛下はお忍びで炙った鮭の皮を探し回っているかもしれない。


「……なんともぬしらしいの」


「やっぱりエミールだわ」


「エミール殿だな」


「エミールなの」


「エミール氏らしいでありますか?」


「エミール君らしいねぇ」


 なぜだか皆に笑われた。

 ……店長までにんまりすんじゃねぇよ。

オチましたかね……?


バラけやすい時にはかき揚げ型という便利な器具があるそうです。

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