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我が家の暗黙のルール

作者: 小宮奈樹

 暗黙のルール。それは犯してはならない原則であり、大小さまざま身の回りに存在している。

それを犯すことは時に法律よりも重い罰則を科せられることもあるのだ。


 我が家にも暗黙のルールが存在している。

しかもそれが少々、特殊なものなのだ。


 それは家人が2人以上いる場合、一口サイズのものは誰かが投げたものを口で受け止める、いわゆる口キャッチをするのである。

 定番のマシュマロなどのお菓子からナッツ類に果物など、食べるときは口キャッチをしなければならないのだ。

それに加えてもう一つ、受け止める側はリビングにある一人掛けのソファーに座った状態でそれを行わなければならない。

体を動かせないため難易度は上がり、投げる側と受ける側の呼吸が大事なのである。


 ただ、小さいころから続けてきたこともあり、家族みんなすでに慣れっこで、最近では一口サイズの料理までもが空中を舞ってしまった。口キャッチだけで言えば、家族全員大道芸人レベルである。


 しかしながら、たかだか暗黙のルールである。

罰金を支払うわけでもないので、たまにそのルールを守らない人も出てくる。今夜も暗闇の中を冷蔵庫に近づく影がある。

少しふらついた足取りからして、飲み会から帰ってきた父であろう。ちなみにこのルールを作った張本人である。

父は冷蔵庫を開けると、ペットボトルのお茶を飲み、それを戻そうとしたときに見つけてしまったのだ。父の好物であるマスカットを。

父はお皿を手に取りマスカットを見つめた後、素早くきょろきょろとあたりを確認した。

「みんな寝てるし構わないよな」

ルールに抵触していないと自己弁護を行い、父はラップを外すと、あろうことかヒョイヒョイヒョイ、とマスカットを3粒も食べてしまった。

そのあと父は満足したようにマスカットを冷蔵庫に戻したのだった。


――さて、ここで一つ問題です。

なぜ私たちは、ここまで父の様子を事細かに説明することができるのでしょう?


その答えは・・・


パチッと部屋の電気がつき、父の背中がびくっと縮む。

「「「おかえり、お父さん」」」

私たちの声に錆び付いた金具のようにゆっくりと父がこちらに振り向く。

「ただい、まー」

酔った赤い顔に脂汗を流しながら、か細い声で父が返事をする。

「随分と遅いご帰宅でしたね、あなた」

「いや、急に飲み会に誘われちゃって・・・」

「しかもお茶飲むならコップに注いでよってお願いしてるよね、お父さん?」

「あ、ごめん、つい・・・」

「極め付けが自分で決めたルール、破っちゃうんだもんなー」

「そ、れはー・・・」

目が泳いで視線の合わない父。

「ご、ごめ「「「ギルティ」」」・・い」

父の謝罪は私たちの声にかき消される。

「あーあ、せっかくお父さんの誕生日お祝いするつもりだったのになー」

「え」

「あのマスカットもお父さんのお祝いだったのになー」

「え?」

「さーて、今日の罰は何にしようかしらね」

「まって、お誕生日?」

固まっている父の手を引き、ソファーへ連れていく。

「そうよ、少し早いけど日頃のお礼をしようと思ったの」

父の足を台座に乗せて、靴下を脱がす。

「誕生日にはまた改めてお祝いしますけど、今日は溜まっている疲れを取り除くことにしましょう」

そういって母はマッサージ用の棒を取り出した。

「え、かんべん・・・」

父が逃げ出す前に私が上半身、妹が下半身を押さえる。

「さあ、たっぷり癒されてください」

笑顔が逆に怖い母が父の足に棒を突き立てる。

「いたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたーーー!!」


父への罰が施行され、私たち家族の絆もより深まったのではないだろうか。


あなたも、身近な不文律は破らないようにするべきだと思いますよ?

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