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(仮)カッコウの雛  作者: たくあん
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第3話 きっかけ

きっかけは本当に些細なことだった。


今でもよく覚えている。






毎日、弟と自分の夕飯を作っていた。


寄り道せずまっすぐに学校から帰って、そのままスーパーに買い物に行く。


母が仕事を終えて帰宅する前にすべて終わらせられるよう、疲れた母の神経を刺激しないよう、毎日しっかり一汁三菜を作るようにしていた。




当時、両親はすでに離婚していて母と弟と私の三人暮らしであったが、母が日ごろ口にするのはお酒とたばこだけで、食事らしい食事はほとんど摂らない。




そんな母がある日、スーパーのチラシを見て言った。




「金曜日に特売になっているそのイワシ、母も帰ってきたら食べたい」




それだけだった。




だから私は金曜日にイワシを買いに行った。




まだ9月。


夕方といえど外はとても暑かった。




売り場にきて、やっと気づいた。




イワシをどう調理すべきだろうか。弟の夕食もイワシでいいのだろうか。グリルで焼いて出すだけで食べてくれるだろうか。




先にそこまで頭を回していなかったのが悪いのかもしれない。




今となっては大したことではないようにも思う。




でも当時の私にとっては大きな問題だった。




とりあえず急いで帰らねばと三尾買って帰った。




家に帰ってから、すでに帰宅していた弟に


「イワシと鶏肉があるけど、どっちが食べたい?鶏肉ならクリーム煮にでもするけれど」


と尋ねた。




答えは「なんでもいい」だった。




いつもだったらそんなに気にならないこのやり取りが、あの日の私には引っかかってしまった。




イワシをどう調理していいかわからないまま、母の帰宅時間が迫ってきて焦っていたこともあるのだろう。




調理したとしても、それが仮に気に入らなかったら、、。


イワシを食べたいと言ったことを覚えていなかったら、、。


準備したのに食べてもらえなかったら、、。




なにを考えても結局怒られる展開しか浮かばなかった。




「なんでもいいならつくらないよ。勝手にレトルトカレーでも食べな。」




それまで毎日頑張っていたスイッチが切れた瞬間だった。






そのまま部屋で休んでいると母が帰宅した。


弟と話している声が聞こえると思ったら、突然大きな声で怒られた。




「なんで夕飯作ってないの!!!」




そこまでは良かった。不本意ではあるけれど、想定の範囲内だったから。




続く言葉に心が折れた。




「部活で疲れて帰ってきてる弟がかわいそうでしょ!!」




毎日学校から約1時間の道のりを残暑厳しいなか全速力で帰宅して、そのままスーパーに向かう。


それから小一時間でちゃんとバランスも考えて一汁三菜を、弟が帰ってくるまでに作ってた。


今日までは毎日。




なのにたった一日、気持ちが追い付かなかっただけでなぜこうも責め立てられるのか。




部屋にこもっていても聞こえてくる執拗に責め立てる母の声に耐えられず、この日もしばらく外で頭を冷やそうと、いったん家を出た。

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