新しい日常
1
ー懐かしい、匂いがする。この記憶は何なのだろう。
『ねぇ、僕の事を覚えてるかい?』
ー誰だろう。思い出せない。何度も聞いたことのあるような、懐かしい声。
『…あぁ、覚えていないようだね。まぁ仕方ない。ーだって、ここは、現実世界とは少し違う。覚えていなくて当然だ。ーそれに君は近々思い出すことになる。』
『ーなんで分かるのかって?…それは僕が僕であるからだ。』
『答えになってない?ふふっ、まぁ安心しなよ。さっき言ったろう?ー近々分かることになると。それがいつかは明確には分からないけど、その日が迫ってきている事が、僕には分かる。だから急ぐ必要は無い。ーその日が来るまで、気長に待てばいいだけさ。』
『…おっと、そろそろ時間だね。君とはもう少し話したかったけれど、時間は守らなければいけない。ー時間は有限なのだから。ーそれじゃあ、また会おう』
「…お兄!もう起きないと遅刻するよー!」
下階から聞こえる声で、俺は目を覚ました。
「はぁ…。うぁぁ…」
俺はまだ寝ている体をゆっくりと起こし、布団から出る。
そのまま学校の支度をし、着替え終わる頃には頭は覚醒していた。
準備を終えた俺は下階に降り、リビングのドアを開けた。
「あ!やっと起きた〜。早くしないと遅れるよ、今日始業式なんでしょ?」
話しかけてきたのは2つ年下の妹の瑠璃だ。
「朝ご飯作っといたから、勝手に食べて。私はもう学校行かなきゃだから」
「おお、サンキュー。行ってらっしゃい」
そう言うと瑠璃は玄関に向かい、学校に向かった。
これがいつも俺が過ごしている、普通の日常だ。
だが今日は少し違う。今日から立派な高校生として、新しい生活が始まるのだ。その事に、少しだけ期待してしまっている。
そして朝食を食べ終わらせ、俺は家を出ると高校へ向かった。
俺の高校は那覇高校。学力はそこそこで、普通の県立高校だ。
…そういえば、懐かしい夢を見ていた気がする。内容は全く思い出せないが、どこがで感じたことのある感覚だった。一体どんな内容だったけ。
そんな事を考えながら、1つ目の目的地についた俺は足を止め、チャイムを鳴らす。
すると、中からバタバタと走る音が聞こえた後、玄関のドアが勢いよく開け放たれた。
「もう!遅いよ〜!」
そこに現れた少女は、茶髪のセミロングヘアで、おっとりした顔をしている。
名前は安倉穂乃香。俺とは昔からの腐れ縁で、ほぼ毎日会っている。
「わりぃ、寝坊した」
「もぉ〜、そんなことだと思ってたよ。またゲーム?」
「おお、昨日はイベントがあったから、つい」
「はぁ…。ちゃんと睡眠取らないと、体に悪いよ?」
「おう、わりぃな」
などとくだらない会話をしながら、俺たちは学校につき、昇降口につく。穂乃果とは違うクラスなので、そこで別れを告げ自分のクラスへ向かった。何かが始まるかもしれない。そんな淡い期待を胸に、ドアを開けた。