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魔法少女狩人  作者: 須田原道則
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1-7 魔法少女と狩人は噂される

「つまり私に手伝えと言う事か?」


 五限と六限の休み時間に人気のいない廊下にタイタンを呼びだして昼休みに聞いていた話をする。声をかけても席から立つ気配が無かったので手を引いて連れて来たのだが、心なしか周りの目線が痛かった。


「いえ、ただ監視する場合にあたって、私が突如居なくなっては支障がでるかなと」


「はん、そんな訳無かろう、お前がどこにいて何をしていようが私はお前を監視している」


「サラッとストーカー発言ですね」


「口答えするな。お前の私生活など見ても心は微塵にも感じんわ」


 見られていると思うとトイレも行きづらくなるが、そこはフィレが監視しているのだろう。それもそれで嫌悪感はある。


「暴食。となると臭いベルゼブブだな」


 臭いという言葉に力が籠っていた気もするが、そこは追及しないでおこう。ベルゼブブと言えばハエの王と呼ばれる悪魔だが、これまで化身は一回も見た事が無い。なので、今回の事例は書籍とヘックスからの情報で導いた答えなのだ。


「そのベルゼブブの化身は人に寄生して感情を欲望に変えて育てるんですよね?」


「そうだな、よく勉強しているな。とうに知り得ていると思うが、暴食のベルゼブブの他に朝会で現れた憤怒のサタン、嫉妬のレヴィアタン、強欲のマモン、傲慢のルシファー、怠惰のベルフェゴール、色欲のアスモデウス。こいつらが人間の欲と感情を蝕んで力をつけている地上の害虫、害獣共だ。その中でも一番力が強い暴食と退治するとなるとお前では骨が折れるのではないか?しかもルームが現れる事がないから他の一般人が犠牲になるぞ?それでも対峙するのか?」


 タイタンの言う事は確かだ、朝会の時のサタンの化身は力量では四番目に位置している。上から順に暴食、色欲、強欲、憤怒、怠惰、嫉妬、傲慢。これが悪魔の力量ランキングのようなものである。


 そのサタンの化身にすら力及ばずの七海が悪魔のヒエラルキー一位の暴食を退治できる訳が無い。退治できるとの考え方は現実的ではないだろう。


「もしかして心配してくれています?」


「お前に死なれては困るからな」


 意外な回答だった。これが俗に言うツンデレだろうか。萌えとやらなのだろうか。だとしたら案外心を奮い立たせるものかもしれない。


「心配してくれるのはありがとうございます。でも千佳ちゃんの可愛い笑顔が取り戻せるなら骨でも皮でも体でも差し上げますよ」


「自己犠牲の元に何があるか楽しみだな」


「そうやって人に意地悪ばっかりしているといつか罰が下りますよ」


「はん、そうかもしれないな」


 やけに素直に答えるタイタンを不思議に思う。機嫌が治ったのだろうか?


「何を二人で密談をしているのかねー」


 廊下の奥から聞き覚えのある声がした。振り向くとそこには三守がニヤニヤと笑顔を浮かべながらこちらに向かって歩いて来ていた。


「三守ちゃん。何でもない、ただの世間話だよ」


「姉弟で?なーんか怪しいぞー」


「そんなことないよー」


 肘で脇を軽く小突いて来る。タイタンにはアイコンタクトで内緒にしてくださいとの意味を込めてウインクしておく。めちゃくちゃ引いた顔をされた。


「それより三守ちゃんはどうしてここに来たの?」


「なになに、七海ちゃんのクラスで話題沸騰していたので確かめに来たのです」


「何を?」


 首をかしげると、三守が廊下の曲がり角を指差す。そこにはクラスメイト達が顔を覗かせてこちらを見ていた。七海と目が合った瞬間に気まずそうに教室へ入って行き各々の席へと着いた。


「まぁそういうことさ」


 呆れた様子で三守は肩を上げる。


「どういうこと?」


「ズゴーッ。七海ちゃん解らないの?」


 滑りこける擬音を口で言う人の事は少々解らない。


「うん、解らない」


「うわー、その表情を変えずに言い放つってことは大真面目なんだね」


 訳も解らず引かれてしまったのだが、こう言う時、どんな顔をすれば良かったのだろうか、笑えば良かったのだろうか。


「皆さんは色恋沙汰に興味があるんですよ。七海は勉強と奉仕が好みですからね、まだ早いですよ」


 今の今まで黙っていたタイタンが口を開いた。やはり七海以外の人前ではこのキャラクターを貫くようだ。でも皮肉を言ってくるあたり七海を小馬鹿にしているのだろう。自分だって、恋愛くらいに興味はありますよ、一人の女の子として。ただ、出会いが無いだけ何です、少女漫画の出会いとか。


 あ、これ駄目な考え方だ。


「まぁまぁ七海ちゃんったら。三守お姉さんが教えて差し上げましょうか?」


「と言う事は、三守ちゃんは誰かとお付き合いしているの?それとも思い人がいるの?」


「うっ、七海ちゃんは痛いところをつくね。胃が痛いよ」


 腸を抑えているのはツッコミ待ちなのだろうか、それとも素なのだろうか。どちらでも良い。


「でも私興味あるな、三守ちゃんの思い人」


「えっ?」


「だって親友の恋だよ?応援しなきゃ心の友じゃないよ」


「そ、そうだね。でも私の思い人はいないよ」


「あれ?そうなの?てっきりさっきのは嘘だと思っていた、ごめん」


 身振り手振りの三守と呼ばれている三守が動きを止めるジェスチャーをした場合嘘をついている確率が八割なのだ。二年付き合ってそのリサーチは取れている。


「嘘、嘘、大嘘。私に思い人なんているわけがなーい。でもできたら応援してもらおうかな。もうこける位背中を押してもらう」


「こかしちゃまずいよ」


「それもそうですな!」


 二人で面白おかしく笑いあう。蚊帳の外のタイタンは暇そうにこちらを見つめている。その視線にはまったく気づかず三守は話し続ける。


「んむ、それじゃあ異常は無かったとクラスに伝えてくるね」


「そんなこと伝えなくてもいいよー」


「いやいや、どっちにしろあの角を曲がれば聞かれる事さ。ほんと、角を曲がれば運命の人とぶつかればいいのに。じゃね」


 最後に物憂げな言葉を呟いてから元気よく手を振って角を曲がって姿を消してしまった。その後に廊下が少し騒がしくなり、三守の声が聞こえたと思えば、沢山の足音が廊下に響き渡った後に、先と同じように静かな廊下に戻った。


 腕時計を見ると授業まで後三分程度の時間であった。


「タイタンさん。話が途中でしたが、私は暴食と戦います」


「そうだな」


 タイタンは淡白に答える。何故か三守が曲がった角をずっと眺めている。心ここにあらずと言ったところか。


「暴食の事をよく知らないんですが、タイタンさん退治方法とか御存じでしょうか?」


 引き受けたにも関わらず、暴食を寄生している人物から引き剥がす方法を知らないのだ。ヘックスにメモ帳で訊ねてみてもいいが、お手を煩わせるのも何だと思うので近場で知り得ているタイタンに訊いているのだが。


「あの狐がサポートに回るから放課後にでもこの飴を食わせておけ」


 このように赤い飴を投げ渡して教室へと戻って行ったのだった。


 手の上にある飴はいつもフィレの口に無理やりねじ込ませている例の飴だった。そもそもこの飴は一体全体なんなのだろうか。妖怪であるフィレを光の玉に変えてマフラーと同化させ、そのマフラーをあのハンマーに巻きつけると光の色に対応して武器の形状が変わる。


 どんな仕組みかは知りたいが、全て魔法の一言で終わらせることもできるので追及しても満足な答えは得ることはないだろう。


 そもそもフィレや朝見た蠍の尻尾を持つ幼女や鳥幼女達はどうしてタイタンに仕えていて、どうして武器になるのかも疑問である。元魔法少女と言い張る彼女達の身に一体何があったのか、それも気になるところだ。


 と、一人頭を捻らせていると始業のチャイムが鳴ってしまった、奥の渡り廊下から六限目の担当教師が歩いて来ているのが見え、慌ただしく教室の自分の席に腰かけた。後ろの席のタイタンは相も変わらず愛想が無かった。


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