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魔法少女狩人  作者: 須田原道則
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1-5 狩人は狼を掃う

 学校のグラウンドに出ると、タイタンと狼が競り合っていた。つまりだ、あの狼の魔物はタイタンと対等の力があると言う事になる、よってタイタンとの力勝負で負けた七海が今ここで助けに入っても唯の足手まといなのだ。


 そんなことは解っているが、文月七海として見過ごすような真似はできない。


 赤黒い空間の太陽に照らされて異様な色に輝くランスを握り、再度駆ける。


 狼の魔物の鼻が一度揺れる。黒い右手に力が入ったかと思うと、右手首が大きなドーナツを入れたように膨れ上がり、そして掌にある赤い部分から真っ赤やオレンジ色に光る液体を放出した。激しい勢いで受けている太刀では防ぎきれずにタイタンの肩に液体がかかる。


 タイタンの制服が溶け、焦げ臭いにおいが七海にも伝わってきた。地面に落ちた赤い液体は狼の魔物が纏っている鎧と同じく黒くなって地面をだんだんと隆起させて行く。


 タイタンに意識が向いているのを好機と見ながらも心の中ではタイタンを囮にしているようで申し訳なさが絶え間ない、だがタイタンのおかげで七海のランスが狼の魔物に届いた。


 ガキン!と金属質な物がぶつかり合う音がした。届いたものの貫く事は無かった。表面の黒く頑丈な鎧に防がれたのだ。


 狼の魔物は間合いから離れたタイタンを一瞥し、七海の方を向いた。そして大きく吠えた。


 雄叫びは七海の体を震わせ、恐怖の感情を植え付けてくる。狼の魔物が雄叫びを上げる時、それは狩りの合図だとも言われている。そんな雑学を頭の隅におく、怖くは無い。七海は胸で止まっているランスを強く押す。だけど狼の魔物はピクリとも動じない。押している七海の足がどんどん後ろへと下がって行っているのが現状。


「許へはい!許へはい!お前が許へはい!らから焦げにはへ」


 呂律の回ってない言葉を言い放った後に狼の魔物がニタリと口を開けて尖った牙を見せて笑った。そんな笑いを見て体が固まってしまった。狼の魔物の瞳に映る自分の強張った顔がひどく滑稽に見えた。


 何が怖くはない。だ。恐怖で泣きそうな顔をしているではないか。


「ライ!」


 瞬間、タイタンの声が駆け抜ける。タイタンの頭上から小さな穴が開いて、蠍のような尻尾を揺るがせた幼女が落ちてきて、タイタンの制服の裏に隠れていた腰についているホルダーから紫色の飴を取って口に含んだ。するとフィレと同様紫色に光る玉になりマフラーと同化する。そのマフラーをハンマーへと巻き付けると、太刀が光り、今度は紫色をベースとした二丁拳銃へと変わってしまった。


 太刀と同化していたフィレは頭上の小さな穴に吸い込まれ、穴と共に消えてしまった。


「レイニースコーピオン・トゥーハンド」


 タイタンの声に反応し固まっていた体が動いた。目の前にいた狼の魔物の右腕が先と同じように膨らみ七海の顔の前で手を止める。


 掌の奥から赤いものが溜まっているのが窺える。顔に近いせいか肌をジリジリと焦がし、刺激臭が焦燥感を刺激する。


 だけどその赤いものは視界から遠ざかって行き、黒い点へとなった。


 いつの間にか目の前で背中を向けているタイタンがいた。靴底からは煙がでている。


 瞬きする間の出来事だったので見逃しがちだったが、タイタンの一蹴りで狼の魔物は背中を何度も地面へ叩きつけながら、最終的には砂煙をあげて二十メートル程吹っ飛んで行ってしまった。


 そこからタイタンは七海を睨みつけた後に拳銃を砂煙が晴れる前にリボルバー式の拳銃のハンマーを引いて砂煙の中へと入っていった。


 そして砂煙の中にタイタンが入った直後、リボルバーとは思えない発砲音が何度も何度も聞こえてきた。


 狼の魔物の装甲に幾度も弾が当たる音と、後ずさってゆく音が聞こえる。砂煙が晴れた時には十何発の弾をくらいながらも鎧は壊れるどころか傷一つついていない姿を現した。


 拳銃の弾は無くなる事をしらずリロードも一切しないで四十発は撃ち尽くしたと思う。しかし傷と言える傷はなかった。それにしても銃身は焼けないのかと要らぬ心配をしておこう。


「ガルルル」


 狼の魔物は未だに余裕を持って喉を鳴らして、タイタンの力が及んでいないのか、顎をポリポリと掻いた。


「調子に乗るなよ」


 二丁拳銃の引き金に指を掛けたまま一度回す。すると夢でも見ているのかと目を疑う光景を目の当たりにした。先程までリボルバー式の拳銃が握らていたタイタンの手には長いショットガンが握られていて、銃筒からは紫色の水が滴り落ちていた。あのショットガンは使い物になるのだろうかとはたまた要らぬ心配をしてしまう。


「レイニースコーピオン・ショウタイム」


 七海の心配する想いとは裏腹にタイタンは一蹴りで狼の前まで移動し、狼の魔物の胸の装甲部分の場所に銃口を当ててショットガンの引き金を引く。


 ドン!と大砲でも撃ったかのような重低音が辺りに響いたかと思うと、次に軽く人が倒れる音が聞こえた。弾は狼の魔物の胸にバスケットボール程度の風穴を開け、後ろの木やフェンスを破壊して、外の民家の外壁にまで被害が及んでいた。


「さっさと食わせろ」


「えっあっちょっとタイタンさん」


 タイタンは不機嫌に言い放ち、状況を把握できずに焦っている七海の言葉も聞かずに体育館の中へ入って行った。


 七海は仕方なく、動かなくなった狼の魔物の前に立ち、ランスを向ける。


「彷徨える魂よ、人跡未踏の地へ帰りたまえ」


 ランスはいつも通りに口を大きく開ける。呪文を唱えたことで狼の体は黒い人魂へと変わりランスの口の中に収まる。


 未だ止まった時の中、変身を解除して駆け足で元居た壇上へと戻る。


 魔物が現れる前と同じ位置に到着した途端に赤黒い世界は消え失せて、止まっていた保健委員の連絡が再開する。


「タイタンさん、今の出来事は一体」


「お前は魔物についてどこまで知っている?」


「七つの大罪が魅入った人間の感情に使役の種を植えて、人間の七つの大罪の感情を増長させて生まれさせるのが魔物と説明を受けましたが」


「そうだな。だから、あそこで表面上ヘラヘラと笑いながら話している奴から魔物が生まれたのだ」


 タイタンが顎で指す方向には保健委員の理念君。彼から憤怒の大罪を持つサタンの化身が生まれた。彼の心には憤怒が溜まっていた訳だ。


 でてきた魔物を封印すれば、魔物を出した人間の感情を一時的に強く抑える事が出来る。決して大罪の感情が無くなる訳ではない。高ぶった感情が正常へと戻るだけである。ただ、魔物の種自体は無くなるので再び魔物が現れる心配はそれほどに必要無い。


「その憤怒。誰に向けられた憤怒か解るか?」


「え?それは解らないです」


「はん。どうして、今、この場で、何故、憤怒の感情が高まったかを考えろ。それはとても簡単な答えだ」


 数秒考える。タイタンが態々区切ってまでも伝えたい事。七海の中で導き出された答えは七海自身、意外な答えだった。


「私?」


「そうだ」


 正解してもタイタンは不機嫌である。


「でもどうして私でしょうか?私は彼と話した事は記憶上一度もないのですが」


「言っただろう。誰が顔をも名前も知らない人物の話を聞きたがるかと。お前はこの全校生徒から百パーセント指示されている人物だ、そんな人物が話すとなれば聞き耳立てねばならん。逆にだ、お前の話が終わり、集中も切れた時に名前も顔も知れていない人物が長い話をすればどう思うか。簡単だ。面倒くさい。そう思うだろう。ではそんな雰囲気を感じ取ってしまったその人物は心の中でどう思うか。怒りか嫉妬。心が弱いものであれば悲しみを背負うだろう。だから魅入られ、種を植えられ、魔物が生まれる。お前が大罪達に良い状況を作り出しているのだ。つまりだ、お前のせいと言う事だな」


 タイタンは話している最中に迫りに迫り七海との顔面の距離が数十センチ間隔であった。


 息を飲んで七海は話を聞き、その間に堅くなった口を開き、目が離せなかったタイタンの目から視線を逸らして下を向く。


「私のせい・・・ですよね、私が不甲斐ないから完璧にこなそうとしたから魔物が生まれたんですよね」


「最初から言っているが、お前は魔法少女に向いていない。今すぐやめろ」


「どうしてですか、人を助けるのが駄目ですか。私が気にいらないならそれでいいです。嫌ってくれても構わないです、だけど根拠もない言葉で私の幸せを否定しないでください」


 司会の偽が再び七海を呼ぶ声が聞こえたので舞台袖の幕が切れる所まで怒り肩で歩いて行き、丁度全校生徒の目が集まる瞬間に聖人君子のように立ち振舞う歩き方に変わった。


「はん。器用な奴だ事」


 タイタンは鼻で笑った後に、スッキリとした顔をした保健委員とすれ違い、七海に続いて壇上に上がった。


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